弁護士 深澤諭史のブログ

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タグ:非弁行為

まとめ
①  非弁業者に依頼した利用者のみならず,その相手方も被害を被ることがある
②  非弁業者が「代行」「代理」する行為は,事後的に無効と扱われるリスクがあるし,そもそも不当(架空)請求の可能性も高い。
③  非弁業者が「代行」「代理」する行為は,例えば勤務先に紛争を告げるなど,違法行為を伴うことが珍しくない。
④  相手方としては,非弁行為については取り合わず,本人に事情を確認すべきなのが原則である。

1.はじめに
非弁問題については,度々取り上げてきました。
話をざっくりとまとめると,次のようなことがいえます。

利用者→割高,事後的に無効となって更にトラブルに,不利な事実を自分から提供してしまい,その後も不利になるリスクがある。
弁護士→そういう者と提携したり,あるいは利用したり,さらに協力したりすると,最悪で資格や財産を失うリスクもある。


こういう話は,度々されてきたところです。ですが,意外にも相手方の問題,つまり利用者から依頼を受けた非弁業者がする非弁行為の相手方の問題については,あまり解説されてこなかったようにも思えます(拙著「非弁対策Q&A」においては,中心的テーマではないですが,解説をしています。)。
そこで,ここでは簡単に,非弁業者から何らかの代理や代行名目での請求等を受け取った場合のリスク,対応を解説します
なお,非弁行為の該当性の判断は難しいケースも多く,他の事件と同じくケースバイケースの判断が要求されます。
ですから,以下は一例であり,ご自身の問題に適合しないリスクもあること,自分の問題については,弁護士への相談をお勧めします

2.非弁行為には無効になってトラブルの蒸し返しのリスクがある
第一のリスクとしては,非弁業者からの請求や,交渉の結果としての合意が事後的に無効と判断されるリスクがあることです。これは,法律上も事実上もいえます。
まず,法律上の問題ですが,非弁行為を依頼する行為は,犯罪を依頼する行為ですので,法的には無効となります依頼が無効である以上,非弁業者は,利用者本人を代理し,あるいは代行をする権限はない,ということになります。
権限がないのに,勝手に他人名義で契約ができないのと同様,非弁業者からの請求等は無効であると判断されるリスクがあります。

3.そもそも本人の意思にも反している可能性がある
また,仮に法的に有効であったとしても,事実上,大きなリスクがあります。
弁護士にしろ,他の士業,そして専門職は,依頼者のニーズや判断,意思確認をすることの重要性を十分に学んでいます。意思に反する行為をしないように,慎重な配慮をしています。
一方で,非弁業者そのような配慮について学んでいません。それどころか,私はこれまで膨大な数の非弁業者を目にしてきましたが,まともに本人の意思確認,説明をしているケースはほぼありませんでした

そうなると,法的な問題は別としても,利用者本人から「自分は,その金額で納得する/退職する/そんな請求をするつもりではなかった!」ということで,トラブルになる可能性があります。
その際に,相手方本人が非弁規制のことを知っていれば,自分にとって有利だと思えば有効だと主張し,不利であれば非弁行為だから無効だと,自由に選ばれるというリスクも考えられます。

4.請求内容も不当なことが多い
加えて,内容が不当な,そして手段が不当な請求を受けるリスクがある,その点について信用ができないので,そもそも交渉はおろか,請求(代行)の適否を検討するメリットがないという問題もあります。

弁護士であれば,相手方一方の主張に依拠しているとはいえ,すくなくとも,相手方の主張から成立しない法的請求はしません。相手方がお金を貸したと主張していないのに,お金を返せとか無茶な請求はしません。また,金額についても,最初の請求は高めにすることもありますが,異常な高額には通常は設定しません。

通常,あまり無茶な主張を最初からしてしまうと,相手に弁護士がついた場合,「交渉の価値がない」と判断されてしまうリスク(交渉で解決出来ずに対応コストとリスクが跳ね上がることになります。)があるからです。

5.違法・不当な手段が使われる
また,内容は別として,手段が不当になるリスクもあります。
よくあるのが,自宅や職場まで押しかける,勤務先を始めとした第三者に紛争を知らされる,などです
これらの行為は不法行為となります。これは法律家であれば常識ですが,非弁業者にとっては常識ではありません彼らは裁判手続を利用出来ませんので,嫌がらせでもなんでもいうことを聞かせられないと仕事にならない,という事情があるので,こういう違法不当な行為に及んでしまうことになります。

6.非弁業者からの請求等への対処方法
このように,自分は非弁業者に依頼しなくても,相手方が非弁業者に依頼をすると,違法不当な行為の被害に遭うというリスクがあります。
要するに,非弁業者は,利用者もその相手方も,みんなに迷惑をかける,損害を与えるということになります。

こういった場合の対応方法ですが(なお,最初に申し上げたような注意点に留意し,弁護士への相談を心がけて下さい。),まずは,非弁業者に返事をしない,相手にしない,ということが重要です。
その上で,利用者である相手方本人に,可能であれば書面で,非弁行為の可能性があること,代理権や代行する権限について明らかでないので対応できないこと,非弁行為であった場合,お互いに不利益であるので,資格を有する代理人か,さもなくば本人から連絡をされたいこと,以上を伝えるのが重要です。

ケースによりますが,非弁業者は,利用者のことよりも自分の非弁行為がバレることの方が大問題ですので,ほとんどのケースでは,この対応でどこかに消える(逃げる。)ということになります
もちろん,以上は一例に過ぎません。ケースによって最適な対応は異なりますので,くれぐれも留意をして下さい。

非弁行為該当性が疑われるサービスについて,「廉価(安価)であると非弁リスクがある」等の言説が存在するようです

まず,前提として,非弁行為は報酬目的性が必要ですが,基本的にその多寡は問いません。また,第三者から得る場合でも,実際に得る必要はありません。

ですから,報酬が高いから安いからといって,非弁リスクが変動することは原則としてありません

もっとも,事実上の問題として,報酬の多寡と非弁リスクが連動をする事があります。
それは,意外にも「報酬が高いと非弁リスクがあがるということではないかと思っています。

ある事業で提供しているサービスが非弁に該当するかどうかという問題は,要するに,そのサービスが,弁護士法72条本文にいう,法律事件に関する法律事務に該当するかどうか,という問題です。

報酬の多寡と法律事務に該当するかは,一見して別問題です。すくなくとも法律上,形式的には関係がありません。

ですが事実上の問題として,報酬というのは,そのサービスの難易度,分量,コストに応じて設定されるものです。そのサービス提供に高度の技術が必要とされるとか,分量が多いとか,それらは,報酬が高く設定される要因となります。

一方で,法律事務に該当する行為は,広範に及びますが,裁量を委ねられて「代理」して交渉をするとか,専門的法律知識に基づいて判断を提供して「鑑定」するとか,あるいは,法律効果を発生させたり,それを保全して明確化する(=その他の法律事務)行為と考えられています。

これらは,どれも相当の専門知識,技術が要求される行為ですので,それを提供するコストは相当なものになり,必然的に相当な報酬が設定される可能性が高くなります。

これを逆の方向,つまりサービスから報酬を設定するのではなく,報酬からサービスを推定してみると次のことがいえるかもしれません。
つまり,報酬が高額であれば,法律事務に該当するような行為を行っている,すなわち非弁行為に該当する行為を行っていることが推定されます。

たとえば,数千円や,1万円2万円程度(この数字は,提供サービスの性質にも依存するでしょう。)ではなく,それを超える費用が設定されている場合,言い分をそのまま,あるいは,当初設定した言い分から選んでもらって転送つまり「代行」する程度であるとは,通常は考えがたいと思います。必要な労力に比して,費用が高いと考えられるからです。

その金額に見合う程度の,「鑑定」や法律事務が行われているのではないか,という疑いが必然的に生じることになります。もちろん,これを覆す別の事情があればそうではありませんが,それがないと疑いは生じるであろう,ということです。

そういうわけで,法的,形式的には報酬の多寡と非弁行為該当性は直接につながりませんが,事実上,これが高いと非弁行為になるリスクは高くなるのではないか,と思います。 

以前,「非弁行為とは?:書面作成/代行だから非弁ではない!?」ということで,非弁行為について解説をしました。

このように,一定の資格を有していないと一定の業務ができない規制は沢山あります。たとえば,運転免許とか医師免許の制度などです。

ところで,非弁行為については,更に規制があります。これが,今回,紹介する「非弁提携」という規制です(弁護士法27条,弁護士職務基本規程11条~13条)。

非弁行為は非弁護士つまり弁護士でない者を対象とする規制です。ですが,非弁提携は弁護士を対象とする規制です。

その内容は,弁護士が,非弁護士に名義貸しをしたり,有償の事件紹介を受けてはいけない,という規制です。そして,その違反の罰則は,非弁行為と同様のものです。

つまり法律は,無資格で弁護士業を行うことと同じくらい,弁護士がそれらに協力をすることを悪質な行為であるとしている,ということになります。

非弁提携のやり方は,いろいろありますが,弁護士が非弁護士に名前を貸して任せっきりにしている,営業を任せて事件の紹介を受けている,実質的に非弁護士と共同経営,あるいは「飼われている」などがあります。

利用者からすると,なかなか弁護士と連絡が取れない,話せない,あるいは法律事務所に相談をしたつもりはないのに,「いい弁護士を紹介する」など非弁護士に持ちかけられるなどの事情があれば,非弁提携をしている弁護士ではないか,疑ったほうがいいでしょう。

利用者にとって,非弁提携をしている弁護士に依頼するリスクは極めて大きいものです。
そもそも,非弁提携というのは,弁護士にとっては資格を失いかねない重大な犯罪です。それをあえてしている弁護士が,まともな事件処理をすることは期待できません。また,非弁提携を弁護士に持ちかけて,実際に事件処理や事件紹介等をしている,非弁護士についても同様です。

実際にも,非弁提携弁護士に依頼したが為に,その非弁提携弁護士にずさん処理をされたり,預かり金を横領されたりだまし取られたりする例があります。また,非弁提携弁護士がそういうことをしなくても,非弁提携業者が,半ば非弁提携弁護士を騙して横領等をする例もあります。

非弁提携は,依頼者にとっては重大な損害につながり,弁護士にとっては,破滅につながりかねない,重大な問題です。

なお,私が執筆した弁護士向けの記事ですが,これについてドキュメンタリー風に解説をしたものとして,「本当に怖い非弁提携」があります。

非弁については,何回か解説をしています。最近は,詐欺被害等への関心の高まりからか,市民にも非弁規制に関する知識が多少は広まったのではないか,と思います。

非弁行為あるいは,非弁行為ではないけれども,そう疑われる可能性のある事業を行う業者としては,顧客から非弁だと思われれば依頼を受けることはできません。また,相手方が非弁であると判断すれば,相手にされなくなり(法律行為は無効であると扱われ),これもまた「事業」を遂行することができません

したがって,最近,「自分たちは,非弁行為をしていない。これは,(顧問)弁護士にも相談をして確認をした。」などと標榜するケースがあります。

実際に,こういった事業者が非弁行為を行っているかどうかは別として,その信用性をどう考えるべきでしょうか。

一般論として,「本人がいう『弁護士がこういっていた』は信用できない。特に,その弁護士の氏名が不詳である場合は,なおさら信用できない。」というのが,弁護士の共通した印象であると思います。

これは,そもそも伝言ゲームであり,基本的に信用するかどうか慎重に考えるべきでしょう。また,これは,やむを得ないこと(むしろ弁護士が誘導すべき)なのですが,相談時に自分に都合のよいことをだけを,相談者が話すということはよくあります。加えて,弁護士の回答についても自分に都合のよいことだけを記憶に留めて,第三者にもそれしか話さない,あるいは都合良く修正する,ということはよくあります。
これは,法律相談に限らないのですが,非常によくあるパターンです。

また,非弁の疑われる事案においては,事業者にとっては,非弁に該当するかどうかが事業の継続性に関する重大な問題です。閲覧している者,つまり顧客はもちろん,その事業の「相手方」にも,納得してもらわないといけません。
このような重大なことを,弁護士に聞いた,といいつつもその弁護士の氏名も,その理由もろくに明らかにしない,というのでは,信用性については慎重に考えざるを得ないでしょう。

また,中には,弁護士ではなく「顧問弁護士」から話を聞いた,と表示をしているケースもあるようです。
ですが,大事な顧問先の大事な事業について,その氏名も理由も出さずに非弁ではない,と表示することは,あまり合理的ではないと思います。大事なことですから,顕名(氏名を表示)で,それに理由も付すべきだと思います。

もっとも,こういう表示については,弁護士もリスクを負担する場合があります。弁護士職務基本規程上は,非弁と疑わしき者を利用し,あるいは名前を使わせるだけでも違反行為となります。
そうすると,氏名を表示していないのは,そのリスクを避けるため,つまり,非弁の疑いがあると,他ならぬその(顧問)弁護士が考えているのかも知れない,という疑いも生じます

私としては,インターネット時代,いろいろな事業が興されるのは大変結構だと思いますし,非弁の疑いがあるケースでも,それを払拭して事業ができれば,それはよいことだと考えます。
ただ,実際に,そのために必要な配慮,準備(顕名で弁護士が理由付で非弁でないことを説明して顧客等に表示する等)が行われているか,というと,疑問を持たざるを得ないケースもあるのではないか,と思います。

非弁行為について,よくある誤解をまとめてみました。

なお,他に「非弁行為とは?:書面作成/代行だから非弁ではない!?」でも解説しています。

よく,「●●だから非弁ではない」という主張がありますが,その●●全てが非弁になるわけではない≠●●であれば非弁ではない,という理論的関係があります。
このあたり,あえて誤解を招くような宣伝をしているケースもあるので,簡単に説明します。

①代行・使者だから非弁ではない
代行や使者であっても,その代行に至るまでの間に,法律関係を明確化するための作業や,法的評価,見解を明らかにする「鑑定」などの法律事務が含まれれば,非弁行為になり得ます。

②交渉・代理していないから非弁ではない
非弁行為になる法律事務には,代理が含まれますが,代理以外の鑑定や一般の法律事務も含まれます
代理をしている場合,多くの場合は非弁行為になりますが,代理していないからといって,非弁行為にならないというわけではありません
「法律顧問」という肩書きで,交渉等を一切しなくても,相談助言という,鑑定・法律事務を行っているのであれば,非弁行為になります。

③定額だから非弁(提携)ではない
これは,非弁提携(弁護士が非弁護士と提携をする,依頼者の紹介を受ける等)でもよくいわれるのですが,報酬が定額であるとか,会費名目であるからということは,非弁行為,非弁提携を否定する事情にはなりません
むしろ,最近の非弁提携では,会費等の別名目で定額にして誤魔化すケースが多数です。

④書面作成だから,非弁ではない
書面作成であっても,弁護士法72条本文の法律事務に該当するなら,非弁行為になり得ます
なお,司法書士等の他士業の資格があれば,その他士業の資格の範囲であれば法律事務が一部取り扱えます。
他士業の資格については,書面作成が認められているケースが多いのですが,この場合の書面作成とは,言い分を法的に整理して,文書の受け取り人が誤解しない程度にする,という程度の関与しか認められていません。要するに言い分をそのまま整理するだけであり,有利な主張,証拠を検討・提案するといった行為は認められないのが原則です。
このような書面作成型の非弁行為については,事後的に,その書面でなした行為が無効と判断されて,取り返しの付かない被害が生じていることもあるので,利用者としては,注意が必要です。

⑤カタカナ語なので非弁ではない
論外の主張ですが,最近は,意識高い系非弁・非弁提携というべきようなケースも散見されますので,カタカナ語にまどわされないことが大事です。

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