弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

タグ:非弁業者

まとめ
① 弁護士法との抵触のリスク(非弁行為のリスク)がある業者の中には,(顧問)弁護士と相談したから大丈夫だと主張する業者がある。
②  ①のようなことは,どの業種でもありうることで,それ自体は問題ではない。
③  しかし,①について,弁護士の検証が不十分な疑いのあるケースもある。
④  ①で大丈夫だというのであれば,最低限,弁護士の氏名,検証の要点,根拠の概略程度は示すべきである。

非弁行為該当性の疑われる業者が,しばしば,「(顧問)弁護士と相談をした。適正にやっている。非弁行為にならないように配慮している。」などと標榜することがあります

事業をやっていくにあたって,法令と抵触しないように注意を払うことは当然のことです。これは,弁護士法の問題に限りません。また,そのために弁護士に相談すること,相談した結果を取引先等の関係者に案内をして安心をしてもらう,いずれも大事なことですし,あるいは普通にあることです。

ただ,非弁行為であることが疑われるような業者の場合,すこし,この表現に疑問を抱かざるを得ないケースもあります。
まず,そもそもウェブサイト上の表示をそのまま信じると,非弁行為をやっているとの疑いが濃厚であるというケースがあります。そうすると,いくら弁護士に相談をしたからといって,果たして非弁行為にならないようにしているのか,大いに疑問です。非弁規制は表示の規制もありますから,果たして,その(顧問)弁護士が指導したのか,指導したとして,その内容が適切か,疑問を抱かざるを得ないこともあります。

私たち弁護士は,もちろん,自分の相談者,依頼者,顧問先が違法ないし犯罪行為を行ったというだけでは,直ちに責任を問われません。
ですが,非弁行為に限らず違法行為,犯罪行為を助長することは禁じられています。更に,これは非弁行為特有の規制ですが,非弁行為を行い,あるいはその疑いのある者に,自分の名義を利用させることは,厳重に禁じられています

ですから,他の業法に関する助言に比して,弁護士法に関する助言については,以上のような非弁提携固有の規制があるので,格別な注意が要求されます。
それにも関わらず,広告の表示上,非弁行為が疑われるのに安易に「太鼓判」を押すことは,問題となる場合もあると思います。

また,利用者の立場からしても,「(顧問)弁護士と相談したのか。なら安心だ。」と安心してよいものか,疑問が残ります。
利用者にとって非弁業者や非弁提携弁護士に依頼すると何が問題なのか。」で解説した通り,非弁行為を行う業者に依頼をすると,思わぬ,そして重大で取り返しの付かない損害を被ることがあります。

そうすると,せめて「(顧問)弁護士に相談してやっています。だから大丈夫です。」という案内については,それだけでは不十分ではないか,と思います。
弁護士の氏名はもちろん表示すべきでしょう。本当に大丈夫なら,その弁護士は名前を出せるはずです。名前も出さないのは,違法の疑いがあると実は思っているとか,そもそも,相談した弁護士なんか実在しないのではないか,とも疑われるでしょう。

また,「大丈夫」「適切」ということについても,いかなる理由でそうであるのか,少なくとも,検討の要点は述べるべきでしょう。弁護士法違反の行為は,依頼者に多大なる損害が生じます。その重要性を理解できているのであれば,安心させる,信頼確保の観点からもこれは必要です。

非弁行為該当性が疑われるサービスについて,「廉価(安価)であると非弁リスクがある」等の言説が存在するようです

まず,前提として,非弁行為は報酬目的性が必要ですが,基本的にその多寡は問いません。また,第三者から得る場合でも,実際に得る必要はありません。

ですから,報酬が高いから安いからといって,非弁リスクが変動することは原則としてありません

もっとも,事実上の問題として,報酬の多寡と非弁リスクが連動をする事があります。
それは,意外にも「報酬が高いと非弁リスクがあがるということではないかと思っています。

ある事業で提供しているサービスが非弁に該当するかどうかという問題は,要するに,そのサービスが,弁護士法72条本文にいう,法律事件に関する法律事務に該当するかどうか,という問題です。

報酬の多寡と法律事務に該当するかは,一見して別問題です。すくなくとも法律上,形式的には関係がありません。

ですが事実上の問題として,報酬というのは,そのサービスの難易度,分量,コストに応じて設定されるものです。そのサービス提供に高度の技術が必要とされるとか,分量が多いとか,それらは,報酬が高く設定される要因となります。

一方で,法律事務に該当する行為は,広範に及びますが,裁量を委ねられて「代理」して交渉をするとか,専門的法律知識に基づいて判断を提供して「鑑定」するとか,あるいは,法律効果を発生させたり,それを保全して明確化する(=その他の法律事務)行為と考えられています。

これらは,どれも相当の専門知識,技術が要求される行為ですので,それを提供するコストは相当なものになり,必然的に相当な報酬が設定される可能性が高くなります。

これを逆の方向,つまりサービスから報酬を設定するのではなく,報酬からサービスを推定してみると次のことがいえるかもしれません。
つまり,報酬が高額であれば,法律事務に該当するような行為を行っている,すなわち非弁行為に該当する行為を行っていることが推定されます。

たとえば,数千円や,1万円2万円程度(この数字は,提供サービスの性質にも依存するでしょう。)ではなく,それを超える費用が設定されている場合,言い分をそのまま,あるいは,当初設定した言い分から選んでもらって転送つまり「代行」する程度であるとは,通常は考えがたいと思います。必要な労力に比して,費用が高いと考えられるからです。

その金額に見合う程度の,「鑑定」や法律事務が行われているのではないか,という疑いが必然的に生じることになります。もちろん,これを覆す別の事情があればそうではありませんが,それがないと疑いは生じるであろう,ということです。

そういうわけで,法的,形式的には報酬の多寡と非弁行為該当性は直接につながりませんが,事実上,これが高いと非弁行為になるリスクは高くなるのではないか,と思います。 

これまで,非弁をテーマにして細々と書いて参りました。
ですが,読者の大部分を占めるであろう,弁護士を利用する立場の方からすると「要するに,簡潔に言うと,非弁業者や非弁提携弁護士に依頼すると何が問題なのか?」ということこそが疑問だと思います。
ということで,その点について,まとめて説明します。

ここでいう非弁業者とは,弁護士資格がないにもかかわらず,弁護士業務を行う者をいいます。非弁提携弁護士とは,違法に弁護士を紹介する業者と提携している弁護士をいいます。

非弁業者に依頼することのデメリットは,先ず第一に,ずさん処理というリスクがあります。
もちろん,抽象的には非弁業者であってもちゃんと処理できる可能性はあるかもしれませんが,無免許運転が安全運転であることを期待するようなものです。私の知る限り,まともな処理がされた事例は皆無です。

また,そもそも効果のない手続きや処理をすることで,不測の損害を被るというリスクもあります。特に,自分に不利な事実を自分で認める書面を送りつけるというのは,非弁業者では,よくあることです。

更に,非弁業者は,弁護士のように弁護士会の監督,あるいは,預かり金管理等について届け出る義務,調査に応じる義務などがありません。
したがって,依頼者の知らないところで,預かり金を横領,不正処理する,費用を不正請求するということもやりやすい(発見できない。)というリスクもあります。

また,裁判例上,非弁業者の行った行為は無効になる場合があるとされています。
そうしますと,せっかく非弁業者に依頼をして,高額な報酬を支払ったのに,合意書や契約書,あるいは遺産分割協議書,遺言書,退職届けなどが無効と判断されてしまうリスクがあるということになります。

非弁業者がずさん処理をしているのであれば,かえって無効になるほうがいいという場合もあるでしょうが,必ず無効になるわけではないので,非常に不安定な地位に置かれることになります。

非弁提携弁護士についても,上記と同じようなリスクが指摘出来ます。
行為が無効になるリスクは低くなるでしょうが,その代わり,非弁提携を弁護士に持ちかける業者は,最終的に横領等の使い込みで弁護士を利用者ごと食い物にしようとしています
ですから,横領リスクは非常に高いといえるでしょう。

弁護士資格がないにもかかわらず,いろんな名目で弁護士業務をしようとする業者や,あるいは,弁護士でない業者から紹介を受けて出てくる弁護士,特に会えない,電話でもなかなか話せない弁護士には,依頼をすべきではありません。

一見して非弁該当性に注意が必要な,ひょっとしたら非弁になるかも知れない業態において,非弁ではない,弁護士にも相談した,などと標榜している業者が多数あります。

もちろん,本当に非弁ではないのか,それとも非弁なのか,簡単に一律に判断する方法はありません。
ですが,その宣伝文句の節々から,注意すべきケースというものは見えてくることもあると思います。

1.ろくに理由無しに非弁ではないという業者に注意!
まず第1に注意をすべきなのは,ろくに理由を付けずに非弁ではない,と言い切っているだけというものです。
そもそも,非弁に当たるかどうかということは,事業者の事業継続にとって重大事です。さらに,利用者にとっても,非弁業者に依頼をした場合,「相手方」との間でトラブルになる,逆に交渉上不利になるなど重大な不利益を被ります。場合によっては,その「相手方」から逆に損害賠償を請求される可能性もあります。非弁行為という犯罪行為,違法行為を依頼して「相手方」に仕掛けたのですから,やむを得ないことでしょう
そんなお互いにとって重要なことを,ろくに理由も書かないで記載していること自体,あまり合理性がない,信用するには慎重になったほうがいいといえます。

2.交渉しない,代理しないから非弁ではないというずさんな理由付け
交渉はしない,代理はしない,だから非弁ではない,という程度の理由付けも注意が必要です。
非弁行為について定めた弁護士法72条が,非弁として定めている行為類型は,代理とか交渉だけではありません。「凶器を使わなければ殺人にならない」といっているような表現であるともいえます。
弁護士法72条をちゃんと読んで理由付けを考えているのか,やや不安に思える表現でしょう。また,そういうずさんな理由付けだと,肝心の業務のクオリティにも不安を覚えてしまう可能性もあります。

3.「名無しの弁護士が大丈夫といっていた!」は大丈夫ではない
(顧問)弁護士に相談をした,確認をした,というのも注意が必要です。
そうであれば,ちゃんと弁護士名を表示するべきでしょう。そもそも弁護士としての経験上,「名前をいわない,いえない弁護士が●●といっていた。」という場合,その弁護士とやらが実在するのか相当に怪しいことがほとんどです(というか,経験上,実際にいた試しがほとんどありません。)。
このあたりは,上記したとおり,業者にとってもその利用者にとっても,非常に大事な問題なのですから,名前を出さない,出せない,名無しの権兵衛弁護士の意見だけだして,さあ安心しろ,というのは,信用性に相当の疑義が生じうるのではないか,と思います。

4.「弁護士を紹介します」は破滅への片道切符になるかも
加えて,紛争,トラブルになったら弁護士を紹介するだの,専門家ネットワーク(?)を標榜するケースもあるようですが,これも非常にリスクがあります。
弁護士の紹介については,非常に厳格な規制が課せられています。紹介者が厳密には弁護士法72条に違反していなくても,それよりもはるかに厳重な弁護士職務基本規程(弁護士だけに適用されるルール)には違反する可能性があります
有料で契約をしている人のために弁護士を紹介する,というサービスを実施した場合,非弁提携という弁護士が非弁護士と許されない提携関係を持つという違法行為になっている可能性も十分指摘出来ます
以前解説したように「非弁提携とは?~利用者も弁護士も破滅する恐ろしい犯罪~」ということは絶対に忘れないで下さい。

5.「非弁にご注意を!」こそご注意を!
非弁行為をしている,更に特に非弁提携をしている業者は,自己への誘導,宣伝文句として,非弁にご注意を!などというケースがあります。
信用させようとするテクニックなのでしょうが,1から4の点の注意点は共通しますし,これらを満たしていないことが多いのではないかと思います。
また,非弁提携業者が,こういうことをいうケースも多々あります
非弁護士が弁護士業を行う非弁行為はもちろんですが,弁護士が非弁護士と提携する非弁提携は,同じか,それ以上に利用者の不利益が大きいものです。逆に,そういう言葉にこそ注意をするべきかも知れません。

6.まとめ:「紋切り型,交渉代理でないから大丈夫,匿名弁護士はOK!」には要注意!
まとめると,非弁ではないとろくに理由なしでいう,交渉や代理はしないから非弁ではないと言い張る,匿名弁護士の太鼓判,これらはいずれも相当に怪しいと思います。

非弁規制(非弁護士が業として報酬目的で,他人の法律事件に関して法律事務を取り扱うことを罰則付で,原則禁止すること。これは,弁護士法72条に定めがあります。)について,「非弁護士であっても,人助けはできるはず」と,否定的な見解もあります

これについて,私の立場は,「抽象的にはそういうこともありうるかも知れないが,実際には害悪のほうがはるかに大きいので賛成できない。」というものです。

たしかに,弁護士でなくても法律を学ぶことはできますし,司法修習を受けることができなくても,法律実務について研鑽を積むことは可能です。

ですから,抽象的な可能性として,非弁護士であっても,通常の弁護士並に,あるいはそれ以上に,適切に他人の法律事務を取り扱える,しかも廉価に,さらに柔軟に,ということはあるかもしれません

しかしながら,実際に非弁護士取締委員会の委員として調査を担当し,あるいは,弁護士として一般市民からの相談を受けてきた立場からすると,そのようなケースはほとんど(というか全く)想定出来ません

私は,弁護士がやるような交渉,代理,予防法務の分野において,非弁護士が弁護士法72条に違反してこれらに関わったケースにおいて,まともな処理が行われていたという例に接したことが一切ありません

調査においては登記簿を取得して,一般的な話をするだけで数十万円を請求するような,ほぼ詐欺的なものもありました。また,よくあるものとしては,裁判になったら関与ができないにも拘わらず,裁判上等といったような恫喝的な書面,法的になんら意味がないのに,やたら挑発するような書面を作成して送付する,というような例もありました。

特に,他士業の資格を悪用して非弁行為を行う者は,恫喝的な書面を作るのを好む傾向がありますが,徒に紛争を激化させるばかりか,自分に不利益な事実を認める記載をして,逆に「自爆」になっているケースも珍しくありません。

非弁規制については,現実を踏まえて考えるのであれば,これを安易に緩和するのは,相当ではないと思います。

要するに,まず非弁では事件は解決しませんより悪化する,ということです。

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