弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

タグ:退職代行

毎日新聞の取材を受けました。
辞めたいのに言い出せない 「退職代行」サービス広がる 弁護士が違法性指摘する理由は

しかし、「非弁活動に詳しい深沢諭史弁護士(第二東京弁護士会)」って、すこし、そこはかとなく、危険な香りがする言い方ですね。
(・∀・;) 

ビジネス法務2月号  具体的ケースで検討する 企業活動における非弁行為の該当性ビジネス法務2月号  具体的ケースで検討する 企業活動における非弁行為の該当性
企業法務担当者向けの雑誌です。
いま流行の退職代行についても取り上げております。
また、従業員が業務遂行上、(使用者責任で解決できる加害者ではなくて)被害者になってしまった場合の会社との関わり方など、意外と頻出のテーマについても、検討を加えています。
ぜひ、ご覧ください。 


ということで、解説予定です。
弁護士法との抵触問題についても、裁判例なども踏まえて、詳細に検討します。 

以下は,特定の事業者を個別に,その事業内容までレビューしたものではありません。あくまで,退職代行業を,「代わりに退職の意思表示を勤務先にしてもらうサービス」と把握して,一般論を検討したものです。特定の業者について法的にレビューしたものではありません。

まとめ
①  退職代行は,その全てが非弁行為になるわけではない。しかし,そうなる可能性・リスクは極めて高い
② 非弁行為にならない退職代行では,利用者のニーズに応えられるかは疑義がある。
③  退職代行を利用しても,結局自分自身で対応する必要が出てくる可能性も高い。
④  退職代行を利用すると,利用者が会社に賠償責任を負うリスクがある。
⑤  退職代行を利用すると,未払残業代などの権利を失う可能性がある。

1.退職代行とは?
最近,退職代行なるサービスが流行っているそうです。

これはどういうサービスかというと,退職をしたい場合に,退職の申入れを文字通り「代行」してもらえるというものです。

退職妨害があるとか,退職を言い出しにくいとか,あとで退職を言った言わないで揉めたくないとか,そういうことで,相当な需要があるようです。

2.退職代行の非弁行為のリスク
もっとも,退職代行については,非弁行為に該当するのではないか,という指摘があります。これに対して,退職代行業者は非弁行為に該当しないと主張しているようです。

非弁行為とは,以前解説した通り,弁護士でない者が弁護士業務を行うことをいいます(ただし,他士業やサービサー等,法律の定める範囲で弁護士業務の一部が取り扱える資格は沢山あります。)。
さて,退職代行は非弁行為に該当するのでしょうか

これについて,一般論としては,(依頼者期待するような全部お任せのサービスをする)退職代行は非弁行為に該当する可能性が極めて高いと思います。債権回収代行などと同様の理屈がいえるのではないかと思います。

退職という行為は,法律関係,権利義務を発生変更する案件であり,それを実行し,あるいは,その効果を保全明確化する行為だからです。これは,近時の裁判例上,概ね一致して弁護士法72条にいう法律事件に関する法律事務に該当します。

もうすこし,理論的に詳しい話をしてもいいのですが,今後,セミナーや法律雑誌の解説に掲載予定ですので,今のところ,ここでは深く踏み込まないことにします。

3.非弁にならない退職代行業とは
一方,非弁行為に該当しない退職代行という行為も想定できないわけではありません
それは法律事務に該当しないような退職代行ということになります。
そのためには,業者自身が法律関係の変動に関与していると実質的には判断できない,ということが必要でしょう。

具体的には,退職代行をするにあたり,いかなるメッセージを勤務先に伝えるか,それを決めるにあたって退職代行業者が定型的なセリフを教示するが,選択には関与しないという工夫は必要でしょう。有給の問題などもありますが,それについて,計算をしたり,法的リスクを教示することにも問題はあるでしょう。
まとめると(詳細な検討をすれば,さらに正確には異なるかもしれませんが),退職代行業が適法であるのは,次の要件は必須だと思います。
まず,依頼者から指示を受けた言葉だけを話し,かつ,その内容について相談や提案をしないことが必要です。そして,情報提供するにしても,予め定まった候補退職文言を示す程度に限られることも必要です
その上で,会社からの応答については,それに臨機応変に応じることは許されず,一方で,依頼者に伝言として伝えるだけに留めるべきでしょう。

4.退職代行と非弁に関する誤解
この点,交渉をしていないから大丈夫,という意見があります。しかし,法的な根拠はありません。弁護士法72条本文を読めば分かることですが,交渉は非弁行為に該当しますが,交渉に限られるものではありません

紛争性がないから大丈夫,という意見もありますが,近時の裁判例の大勢は,それを要求していません。また,退職代行を利用したいような案件で潜在的にも紛争の可能性がない,というケースは珍しいでしょう。

仲介をしているだけだから問題はない,という意見もあるようです。ですが,仲介であれば法律事務に該当しない,などという見解は見当たりません。そもそも,弁護士法72条本文は,「仲裁」を例示しています。

5.弁護士を紹介すればいいのか
更に,必要な場合は弁護士を紹介するということが免罪符になるかのような誤解があります。
ですが,無免許医が難しい患者が来たら医師に紹介する,無免許運転者が,難しい道にきたら免許のある者に代わるような話で,適法になるわけがないという他ありません。

加えて,弁護士法72条本文はそういう紹介行為(等)も禁じています。弁護士向けの規制は更に厳しく,このようなケースでは,無料で紹介を受けることもできません。

6.本当に退職になるのかどうか
更に,退職代行業者は,その代理権(あるいは代行する権限)があるかどうか,明らかではありません。それを証する書面もありません。代理人にしろ代行する使者にしろ,それが本人の意思に基づくか,代理なら委任状が,使者でもそれを証する書面が必要なのが原則です。

それを用意して郵送するなどすれば,即日で退社の意思を示すということは難しいでしょう
また,そもそも法律上,即日の退社ができるケースは限られています

会社としても,真意を確認しないといけません。間違えると違法解雇になりかねないからです。逆に,退職妨害になるかも知れません

7.従業員が加害者になる可能性も
別の側面の問題としては,退職代行業が非弁行為であった場合,利用者つまり従業員の責任が問われる可能性があります。非弁行為は犯罪です。犯罪を依頼して元勤務先に対して行うのですから,それについて責任を問われて賠償請求される可能性もあります(なお,教唆犯は成立しないという見解が有力です。)。

また,非弁行為は無効と扱われる,つまり,代行してもらった退職の申入れが無効と扱われるリスクもあります
そうなった場合,無断欠勤として,懲戒解雇される,損害賠償も請求される可能性があります。

特に,いわゆるブラック企業といわれるところは,元従業員に対して損害賠償請求を好んで行うところがあります。退職代行をしてもらいたい様な会社は,それに該当する可能性も高いでしょう。わざわざ弱みを握られてしまう可能性も大きいです。

8.権利を失ってしまう可能性も
加えて,未払残業代などの問題があった場合,それを看過することになります。本来であれば,場合によっては,100万200万円といった残業代が手にはいったのに,それを看過して時効で失ってしまうリスクもあります。

ついては,退職代行であれば,全て非弁行為になると断言するものではありませんが(そもそもやっている行為を全て把握しているわけではないので,その判断は不可能です。),法的にも事実上も,リスクがあると考えます

退職トラブルは退職トラブルに限られないことが多いです。未払残業代や賠償請求の問題も含まれている可能性があります。その場合は,これらを一挙に解決しないと解決になりません。

多くの著名な労働弁護士が,「退職代行」を標榜しない理由はここにあるのではないかと思います。
「風邪です」といって来た患者を診察せずに風邪薬だけ出す医師はいません。それは,本人が風邪だと思っていても,他の重大な病気である可能性もあるからです。
法律問題も同じ事がいえます。退職代行イコール非弁行為と,断言をできるものではありませんが,退職代行を利用するなら,以上の一切のリスクを踏まえるべきだと思います。

退職代行業が話題になっています。

これについては,非弁行為に該当するかという問題が議論されています。

都合により,すぐには投稿できないのですが,近いうちに,労働者にも会社にも,有益な情報を提供したいと思います。

↑このページのトップヘ