弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

タグ:著作権侵害

よく「Twitterの利用規約で,掲載の写真やイラストは,転載自由になる」と,まるでTwitterに掲載したらフリー素材にされちゃうような言説があります。

直接その点が争われたわけではないですが,Twitter投稿を「埋め込み式(Twitterから入手したコードを使って掲載する方式)」で転載することは認められている,だから,通常のコピーをして掲載してしまった場合の賠償金の算定においても考慮すべき,という主張がされた事件の判決がありました(東京地方裁判所判決平成30年6月7日 平成29年(ワ)第39658号 )。

今回は,この事件を紹介します(なお,念のため,本記事は,裁判例の内容を超えてTwitterの規約解釈をするものではありません。また,記載の事実は,判決文に依っていますが,わかりやすさを優先して要約してあります。)。

まとめ

①Twitterに掲載したからといって転載自由のフリー素材になるわけではない。
②無料公開されているからといって,自由に使ってよい,ということではない。
③著作権は,「『ダメ』といわれるまで『OK』」ではない,「『OK』といわれるまで『ダメ』」
(なお,裁判例の争点になっていない点も含まれます。)

1.Twitterに掲載されたイラストをウェブサイトに掲載した事件

原告はイラストレーターで,被告は,いわゆるまとめサイトの運営者です。
原告は,自分の描いたイラストを,Twitter等に掲載していました。
このイラスト3つを,被告は,自分が運営するまとめサイトに掲載しました。
原告は,著作権侵害ということで,被告に賠償請求をしたという事件です。

2.争点

争点は複数ありますが,ここで取り上げるのは,「Twitterの規約上,ツイートを埋め込む方式で掲載することは認められている。データをそのまま掲載してしまっても,方式さえ正しければ問題なかった。だから,賠償金は安くするべきか」という争点です。

3.争点に関する判断

裁判所は,2の争点については,「被告の主張を前提としても,本件における被告の掲載行為が適法となる余地はな(い)」として,ほとんど議論せずに,被告の反論を退けています。

4.判決

裁判所は,結論として,賠償金30万円と,掲載日から年5%の遅延損害金(利息)を認めました。

5.教訓

Twitterに掲載された著作物(イラストはもちろん,文章も著作物です。)については,すくなくとも,埋め込み式以外の方法で掲載すると著作権侵害になる,ということです(念のため,埋め込み式なら必ず適法になる・ならないについて判断されたわけではありません。)。
Twitterだから,作者が無料で公開しているから,ということは理由になりません。

よく,無料公開されているから転載しても大丈夫,と誤解されている人がいますが,著作権者が許しているのは「自分がする無料公開」だけです。あなた(第三者)の無料公開ではありません

また,著作権侵害は親告罪だから,権利者から苦情が来るまで大丈夫,という話もありますが,親告罪は告訴されないと犯罪にならない,という制度ではありませんし,そもそも賠償責任とは関係がありません。
本件は,平成29年に提訴されていますが,掲載日である平成26年から3年分の利用料が認められています。これは,訴えられたら違法になる,というのではなく,まさに掲載日から違法であるからに,他なりません。
要するに,「『ダメ』といわれるまで『OK』」ではない,「『OK』といわれるまで『ダメ』」,権利者(被害者)に言われるまでもなく,責任を持って行動する必要があるということです。

弁護士として法律相談をすると,典型的な誤解を持ち込まれて,その解消をする,ということがあります。昔,よくあったといわれているのは,破産すると戸籍にのる,というものです(もちろん,そんなことはありません。)。

実際に法律相談でいわれることはほとんどないのですが,インターネットでよく聞かれるのは「問題があったら,被害者・権利者から請求されるので,そのとき対応すればいい」「裁判所が決めるまで違法ではない」というものです。

いずれも間違いですが,今回は,このことについて解説します。

なお,この問題については,「そのつぶやきは犯罪です」でも解説をしています(同書は,インターネットに出回る法律に関する誤解についても重点的に取り上げています。)。

まとめ

①権利義務の発生,違法行為の責任は,行為した瞬間に発生する。
裁判所は,事後的に判断するだけであり,「判決がない」ことで責任は免れない。

1.よくいわれていること

「(無断)転載をしたが,権利者から請求があったら対応すれば大丈夫」
「賠償を請求されたが,裁判所の判決は出ていないので,判決が出るまで無視で大丈夫」

2.権利も義務も,行為(事件)の瞬間に発生する

1のようなことは,よくいわれていますが,これらは基本的に間違いです。
権利も義務も,不法行為の成立(賠償責任の発生)も,裁判所の判決で発生するものではなく,その行為の瞬間に発生します。
裁判所は,事後的に判断をするに過ぎません(なお,判決の確定ではじめて権利義務が変動する訴えの種類もありますが,それは例外です。)。

例えば,交通事故に遭って救急車で運ばれて,搬送先の病院でレントゲンをとって骨折があると診断されたとします。
このとき,骨折をしたのはいつか,診断をしてはじめて「骨折」したのではありません。事故の瞬間に骨折したのです

法律についても同様のことがいえます。
普段は,法律のことを意識することはありませんし,その必要もあまりないかも知れません。
ただ,他人の名誉権やプライバシー,著作権といった権利を簡単に侵害してしまいがちなインターネット上では,注意が必要であるといえるでしょう。

3.ネットの法律問題で注意をしたいこと

ネット上に他人の名誉やプライバシー,著作権を侵害する投稿をした場合,その責任は,投稿の瞬間に発生します。
請求されたら対応すればいい,と考えているかもしれませんが,その時点では遅いのです
責任は,請求に対応をしない・削除をしない,ということではなく投稿に生じるということを,くれぐれも注意をしたほうがいいでしょう。

要するに,請求者(被害者)に任せるのではなく,自分の判断で「いいのか・わるいのか」責任をもって判断する必要がある,ということです。

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