弁護士 深澤諭史のブログ

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タグ:無断転載

よく「無断転載禁止」などと,イラストや文章に記載してある例がありますが,これにはどういう意味があるのでしょうか?
→関連記事:裁判無しでできる「無断転載」への責任追及方法
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1.法律上の原則は,無断転載禁止

法律上の原則は,無断転載禁止です。
原則として,全ての創作物には,著作権という権利が作者に発生します。これは,いろいろな権利が含まれますが,無断でコピーされて利用されない(ただ,例外も多くあります。),という権利も含まれます
このような権利を侵害した場合は,不法行為ということで侵害者は,賠償責任を負担します。また,犯罪にもなります
よく,テレビ番組や楽曲の無断アップロードで摘発されるという事件がありますが,それは,これによるものです。

2.基本的に,わざわざ「無断転載禁止」などと書く意味は無い

そもそも,法律上の原則は,著作権者の意思に反して転載,つまりコピーを作成することは違法であり,犯罪なのですから,「無断転載禁止」と書く意味は,法的にはありません
たとえば,「万引き禁止」「万引きは発見次第,警察に通報します」と,お店に書いてなかったとしても,「じゃあ,万引きOKなのか?」というと,そんなことはもちろんありません。

3.それでも「無断転載禁止」などと書く意味

「無断転載禁止」などと書く意味があること「も」あります。
まず,法的なところでいえば,あまり想定し難いのですが,転載自由が原則な発表の場において,自分のものはそうではない,と明確にするという場合です(もっとも,そういう場所が想定出来るのか,できるとして,注意書きとの優劣など,一概にいえない,難しい問題があるでしょう。)。
他,法的な意味はなくとも,警告的な意味はあるかもしれません

4.引用の問題

法律上の引用というのは,著作権の例外(権利の制限)で,適切な引用であれば,他人の著作物を複製して利用・配布出来るというものです
これは,法律上の,著作権の制限ですので,いくら著作権者が「引用も禁止だ」と主張をしても,適切な引用を禁止することはできません
ただ,ネット上で非常に大きな勘違いがあるのですが,引用の要件というのは,非常に厳しいものです。全体のコピーでないならOKとか,出典があればOKとか,そんな生やさしいものではありません
私の感覚的には,ネットで行われている「引用」は,特にアニメと漫画については,9割方は違法・犯罪行為に該当してしまっているのではないか,と思います。
なお,「無断引用」という言葉がありますが,そもそも,引用は無断でできる,著作権の制限なのですから,あまり意味のない用語です。
このあたりの問題については,拙著「そのつぶやきは犯罪です」でも,解説しています。

5.親告罪との関係

これもよくネットで目にする言説ですが,著作権侵害は,親告罪であるから転載が大丈夫とか,そういうことはありませんので,混同しないようにしましょう。
そもそも,親告罪は,告訴されるまで犯罪が成立しないとか,違法性を有しないとか,そういう制度ではありません

よく「Twitterの利用規約で,掲載の写真やイラストは,転載自由になる」と,まるでTwitterに掲載したらフリー素材にされちゃうような言説があります。

直接その点が争われたわけではないですが,Twitter投稿を「埋め込み式(Twitterから入手したコードを使って掲載する方式)」で転載することは認められている,だから,通常のコピーをして掲載してしまった場合の賠償金の算定においても考慮すべき,という主張がされた事件の判決がありました(東京地方裁判所判決平成30年6月7日 平成29年(ワ)第39658号 )。

今回は,この事件を紹介します(なお,念のため,本記事は,裁判例の内容を超えてTwitterの規約解釈をするものではありません。また,記載の事実は,判決文に依っていますが,わかりやすさを優先して要約してあります。)。

まとめ

①Twitterに掲載したからといって転載自由のフリー素材になるわけではない。
②無料公開されているからといって,自由に使ってよい,ということではない。
③著作権は,「『ダメ』といわれるまで『OK』」ではない,「『OK』といわれるまで『ダメ』」
(なお,裁判例の争点になっていない点も含まれます。)

1.Twitterに掲載されたイラストをウェブサイトに掲載した事件

原告はイラストレーターで,被告は,いわゆるまとめサイトの運営者です。
原告は,自分の描いたイラストを,Twitter等に掲載していました。
このイラスト3つを,被告は,自分が運営するまとめサイトに掲載しました。
原告は,著作権侵害ということで,被告に賠償請求をしたという事件です。

2.争点

争点は複数ありますが,ここで取り上げるのは,「Twitterの規約上,ツイートを埋め込む方式で掲載することは認められている。データをそのまま掲載してしまっても,方式さえ正しければ問題なかった。だから,賠償金は安くするべきか」という争点です。

3.争点に関する判断

裁判所は,2の争点については,「被告の主張を前提としても,本件における被告の掲載行為が適法となる余地はな(い)」として,ほとんど議論せずに,被告の反論を退けています。

4.判決

裁判所は,結論として,賠償金30万円と,掲載日から年5%の遅延損害金(利息)を認めました。

5.教訓

Twitterに掲載された著作物(イラストはもちろん,文章も著作物です。)については,すくなくとも,埋め込み式以外の方法で掲載すると著作権侵害になる,ということです(念のため,埋め込み式なら必ず適法になる・ならないについて判断されたわけではありません。)。
Twitterだから,作者が無料で公開しているから,ということは理由になりません。

よく,無料公開されているから転載しても大丈夫,と誤解されている人がいますが,著作権者が許しているのは「自分がする無料公開」だけです。あなた(第三者)の無料公開ではありません

また,著作権侵害は親告罪だから,権利者から苦情が来るまで大丈夫,という話もありますが,親告罪は告訴されないと犯罪にならない,という制度ではありませんし,そもそも賠償責任とは関係がありません。
本件は,平成29年に提訴されていますが,掲載日である平成26年から3年分の利用料が認められています。これは,訴えられたら違法になる,というのではなく,まさに掲載日から違法であるからに,他なりません。
要するに,「『ダメ』といわれるまで『OK』」ではない,「『OK』といわれるまで『ダメ』」,権利者(被害者)に言われるまでもなく,責任を持って行動する必要があるということです。

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