民法は,市民社会の取引ルールを定める他,相続など親族関係についても定めています。
相続に関するルール,つまり,だれがどの程度,何を相続するか定めた部分を相続法ともいいますが,それが,1980年以来,約40年ぶりに大改正されました。

相続するのも,そしてされるのも,人生においてほぼ避けることはできません。
そういう意味で,私たち全員に直接関わる大事な法律の,大きな改正であるといえます。

今回は,淺井健人弁護士(東京弁護士会)に,改正に関する資料をまとめてもらいました。

なお,今回は個別に解説をしていませんので,専門家向けの記事となります。

Ⅰ 成立
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律及び法務局における遺言書の保管等に関する法律が2018年7月6日に成立しました。
そこで、改正の概要や、施行日、附帯決議、改正経緯をまとめてみました。
ニュース
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32689360W8A700C1EAF000/
 
Ⅱ 法律案
法務省の条文へのリンク
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_0021299999.html
法務局における遺言書の保管等に関する法律案
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
 
Ⅲ 概要
今回の改正では、以下の点などが新たに設けられました。

① 配偶者が死亡した場合に残された配偶者が希望した場合は、原則として死亡するまで居住し続けることができる配偶者居住権(長期)(民法1028~1036条)
② 残された配偶者が遺産分割の終了時まで無償で居住し続けることができる配偶者居住権(短期)(民法1037~1041条)
③ 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が居住用不動産を遺贈または贈与した場合には持ち戻し免除の意思表示があったとする推定規定(民法903条4項)
④ 遺産分割前の預貯金について、一定額につき審判を経ずに仮払いする制度(民法909条の2)、審判における保全処分の要件緩和(家事事件手続法200条3項)
⑤ 自筆証書遺言の一部を自筆でなくてもよいとする方式緩和(民法968条2項)
⑥ 自筆証書遺言を法務局において保管する制度(法務局における遺言書の保管等に関する法律)
⑦ 遺留分減殺請求権の法的性質の変更(金銭債権)(民法1046条)
⑧ 相続人以外の者の特別の寄与(民法1050条)
 
Ⅳ 施行日
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律は、2019年7月までに施行されることが予定されています。なお、自筆証書遺言、秘密証書遺言については2019年1月まで、配偶者居住権は2020年7月までに施行されることが予定されています。
法務局における遺言書の保管等に関する法律は、2020年7月までに施行されることが予定されています。
 
◯ 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案
附則第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
二 第一条中民法第九百六十八条、第九百七十条第二項及び第九百八十二条の改正規定並びに附則第六条の規定 公布の日から起算して六月を経過した日
四 第二条並びに附則第十条、第十三条、第十四条、第十七条、第十八条及び第二十三条から第二十六条までの規定 公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日
法務局における遺言書の保管等に関する法律
附則 この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
 
Ⅴ 附帯決議
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案、法務局における遺言書の保管等に関する法律案には、それぞれ附帯決議が出されています。
 
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(衆議院)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/houmuEE07E0F85FCC24AF492582B1002A32CA.htm
 
一 現代社会において家族の在り方が多様に変化してきていることに鑑み、多様な家族の在り方を尊重する観点から、特別の寄与の制度その他の本法の施行状況を踏まえつつ、その保護の在り方について検討すること。
 
二 性的マイノリティを含む様々な立場にある者が遺言の内容について事前に相談できる仕組みを構築するとともに、遺言の積極的活用により、遺言者の意思を尊重した遺産の分配が可能となるよう、遺言制度の周知に努めること。
 
三 法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の実効性を確保するため、遺言者の死亡届が提出された後、遺言書の存在が相続人、受遺者等に通知される仕組みを可及的速やかに構築すること。
 
四 法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の信頼を得るため、遺言書の保管等の業務をつかさどる遺言書保管官の適正な業務の遂行を担保する措置を講ずるよう検討すること。

 
法務局における遺言書の保管等に関する法律案に対する附帯決議(衆議院)
http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/houmuFCC244D52C7AEFE9492582B1002A62E8.htm
 
一 現代社会において家族の在り方が多様に変化してきていることに鑑み、多様な家族の在り方を尊重する観点から、特別の寄与の制度その他の本法の施行状況を踏まえつつ、その保護の在り方について検討すること。
 
二 性的マイノリティを含む様々な立場にある者が遺言の内容について事前に相談できる仕組みを構築するとともに、遺言の積極的活用により、遺言者の意思を尊重した遺産の分配が可能となるよう、遺言制度の周知に努めること。
 
三 法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の実効性を確保するため、遺言者の死亡届が提出された後、遺言書の存在が相続人、受遺者等に通知される仕組みを可及的速やかに構築すること。
 
四 法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の信頼を得るため、遺言書の保管等の業務をつかさどる遺言書保管官の適正な業務の遂行を担保する措置を講ずるよう検討すること。
 
Ⅵ 議事録
 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案、法務局における遺言書の保管等に関する法律案に関する、衆議院、参議院の議事録は以下のとおりです。

第196回国会 衆議院法務委員会 第20号
平成30年6月13日議事録
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000419620180613020.htm
第196回国会 衆議院本会議 第39号 
平成30年6月19日議事録
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000119620180619039.htm

第196回国会 参議院法務委員会 第19号
平成30年6月28日議事録
http://online.sangiin.go.jp/kaigirok/daily/select0103/main.html


Ⅶ 改正経緯
1 諮問
平成27年2月24日に法務大臣によって以下の諮問(法制審議会第174回会議)がなされました。
http://www.moj.go.jp/content/001136891.pdf
高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の 社会情勢に鑑み、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活 への配慮等の観点から、相続に関する規律を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい。
2 審議会
その後、法制審議会-民法(相続関係)部会において検討が重ねられました。
http://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_00294.html
 
(1)中間試案
第13回会議(2016年6月21日開催)では、中間試案が提出されました。
民法(相続関係)等の改正に関する中間試案
http://www.moj.go.jp/content/001201997.pdf
民法(相続関係)等の改正に関する 中間試案の補足説明
http://www.moj.go.jp/content/001198631.pdf
自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例
http://www.moj.go.jp/content/001198632.pdf
(2)追加試案
第23回会議(2017年7月18日開催)では、追加試案が提出されました。
中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)
http://www.moj.go.jp/content/001231522.pdf
中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案 (追加試案)の補足説明
http://www.moj.go.jp/content/001231524.pdf
(3)要綱案
第26回会議(2018年1月16日)では、要綱案(案)が作成され、法制審議会第180回会議(2018年2月16日開催)において要綱案が報告されました。
民法(相続関係)等の改正に関する 要綱案
http://www.moj.go.jp/content/001250062.pdf
補足説明
http://www.moj.go.jp/content/001246035.pdf
(4)法案提出
 その後、2018年3月13日に国会に法案が提出されました。