弁護士 深澤諭史のブログ

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タグ:民事執行法

以前から紹介してきました民事執行法改正要綱の答申がされたとのことです。

競売で暴力団排除策など民事執行法の改正要綱答申

報道によると,「債権者が申し立てれば、裁判所が金融機関や市町村などに命じ、債務者の預貯金や株式、土地・建物や勤務先に関する情報を取得できるようにする。」とのことです。

詳しい解説は,こちら「泣き寝入りはなくなるか?民事執行法大改正!」でもしていますが,大きな前進であるといえるでしょう。

昨日寄稿してもらいました「泣き寝入りはなくなるか?民事執行法大改正!」の反響が大きかったので,それを踏まえて少し解説します。

なお,前回は,やや専門家向けでしたが,今回は,市民向けの説明も随時入れることにします。

また,前回のように詳しく資料を分析する,というスタンスではなく,率直に,じゃあ,いまからどうするの?という話をしています。その前提で,仮定に仮定を重ねている,という話であることに留意をして読んで頂ければと思います。

結論からいうと,特に事情がないならば,時効にかけちゃわないように判決等の債務名義をとっておけ!ということになります。

1.強制執行とその難しさと悩み
 回収困難な債権の債権者(債務者に請求権を持っている人。ここでは,概ね,お金を払えという権利,金銭債権をもっている人,という意味で使います。)にとって,執行の難しさというのは,頭の痛い問題です。
 これはどういうことかというと,通常,裁判に勝っただけ,支払いを命じる判決を得ただけでは,自動的に国家が取り立ててくれるとか,そういう仕組みにはなっていません
 相手方が任意に払ってくれればいいのですが,そもそも判決まで拗れた事件で,素直に判決通りに従うとは限りませんし,それに,「お金がない」などといって拒む場合もあります。
 そして,これも債権回収の経験がある専門家・企業からすると常識に近い話なのですが,債務者(債権者に対して債務を負っている人)のいう「お金がない」は信用できるとは限りません。これは,単に「(お前に払う)お金がない」というだけだったりすることは,よくあることです。

2.支払ってくれない債務者には「強制執行」
 債務者が,任意に支払いに応じない場合,強制執行といって,裁判所に頼んで債務者の財産を差し押さえてもらって回収をするという手続を取る必要があります
 強制執行には,債務名義というものが必要です。債務名義は,例えば判決とか,とにかく国家が債権を公的に証明してくれているものをいいます。
 ところが,この強制執行というものがくせ者で,通常は,財産を特定することが求められます。どこの銀行口座とか,どの勤務先への賃金とか,どこの不動産とか,どの車とか,などです。
 これは,債務者つまり他人の財布の中が分からないといけないのですから,かなり難しい話であるとは,容易に想像できると思います。
 要するに,裁判所の判決といえども,たびたび,絵に描いた餅になってしまうのであり,それは民事執行(強制執行)が難しいから,難しいのは,債務者の財産を特定しないといけないから,ということで,要約できると思います。

3.民事執行法の大改正の焦点
 今回,民事執行法の大改正により,財産の発見がしやすくなり,執行がやりやすくなります。
 財産の発見が(債務者にそもそも金がない,つまり無資力を除けば)一番のネックだったわけですから,これは,大きな前進です。
 しかし,どのように改正されるのかは,不透明なところがあります。財産の調査というのは,債務者のプライバシーと激しく対立する場面でありまして,何でもかんでも開示,ということにはいかないと思われるからです。
 また,この改正は将来の話です。つまり,まだ改正されてはいません。ですから,前回の「泣き寝入りはなくなるか?民事執行法大改正!」で指摘されているとおり,予想や仮定に過ぎない話です。

4.今からできる/やっておくべきことはないか!?
 そういうことで,今からでもできることはないか,もっといえば,やっておかないといけないことはないか,という観点から少し考えてみました。
 まず,第一に検討するべき事は,債務名義を取るべきかどうか(つまり,裁判等を起こして判決を取っておくべきかどうか。)です。これは,基本的に取るべき,絶対に相手に財産がない,それは将来のことを考えてもそうである,というのでない限りは,今からとっておくべきでしょう。
この場合の将来において,という中には相続とか今後の就労とか,そういうことも考慮に入れておくべきでしょう。
 「今から」という点ですが,これは,時効の問題があります。現行法上,債権の時効は,ものによりますが,大雑把にいうと,最長で10年,事業用資金,商売の関係ですと5年,事件や事故などの不法行為の場合は3年ということになっています。
 通常は充分な長さではありますが,回収困難な債権ですと,これが近づいているものも多いと思います(時効の計算は専門的ですので,自分で即断せず,弁護士に相談をお勧めします。)。時効が経過してからでは,相手方に承認でもしてもらわない限りは遅いです。
 一方で,例えば判決で債務名義を得れば,原則として判決確定日から10年に延長されます。
 その10年の間に別の作戦(以下に述べるように民事執行法の改正を利用する。)とることもできるかも知れません。

5.改正の恩恵は従来の債務名義に適用されるのか?
 次に,民事執行法の大改正があるとはいっても,その適用は,改正前に入手した債務名義にも適用されるかどうかです。
 これはどういう問題かというと,せっかく民事執行法の改正で強制執行がやりやすくなっても,不公平を避けるために,改正前に入手した債務名義については,改正前のルールでしか民事執行(財産開示)ができないのではないか,という話です。
 これについては,まず適用されると考えてよい,そのように予想します。実体法つまり,権利義務の発生原因や内容を定める法律については,基本的に遡って適用はありません。あとでルールを変えるのは不公平だからです(たとえば,借金後に契約にないのに急に利息が2倍になったら不公平でしょう。)。
 ですが,民事執行法のような手続法,手続法とは権利義務を確定したり,実現したりするルールの法律をいいますが,これについては遡って適用しても不利益は通常はないからです。
 特に民事執行法は,判決等により公に確定した権利義務の実現手続です。
 もとからある権利義務が変更されるのではなくて,それの実現が簡単になる話であり,そもそも民事執行法の改正の有無にかかわらず,「支払うべき,履行すべき,従うべき」だったわけですから,改正が不都合というのもおかしな話です。
 ですから,今後,権利実現の為の手続が容易になることを期待して,時効にかからないよう,今のうちに判決を取って10年としておくことは,大事なことではないかと思います。
 気持ちの問題としても,開き直って踏み倒している債務者を前に泣き寝入りするよりはよいのではないか,と思います。
 もっとも,民事執行法の大改正だといっても,どういう内容になるのかはまだ不透明です。万能の制度になるわけではありません。また,そもそも持っていない人から回収することはどうやっても無理です。
 民事執行の関係,執行の難易,可能性に関する判断,見通しというのは,弁護士はあえて,(悪用されると困るので)公に述べないいろいろなアレコレ(!)がありますので,できれば,弁護士に相談して,債務名義をとるかどうか,決断をしたほうがよいでしょう
 この記事にも反響があるようであれば,次は,予想される改正内容について,すこし議論してみたいと思います。

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