欠席裁判で原告の請求(主張)を認める判決が出た。しかし,これは欠席裁判なので,主張された被告の行為の違法性が認められたわけではない。」という趣旨の言説がネットで話題になっています。

結論から言うと,これは不正確です。少なくとも,「裁判は欠席したら負け」ということだけを知っている一般市民の方に対しては,大いなる誤解を招きかねません

そこで,今日は,欠席裁判について,説明します。

まとめ
① 「裁判に欠席したら敗訴する」ということを直接に定めた法律はない。
② 「争わない事実は,原則その通り認定される」というルールはある。
③ 裁判に欠席すると,事実を争わないことになる結果,相手の言い分通りの事実が認定されて,それに基づいて判決される。
④ 「争わない事実」はそのまま認定されるが,法的評価,法律解釈は,裁判所が独自に決める

1.裁判に欠席したら敗訴する,と直接定めた法律はない
裁判に欠席したら敗訴する,ということをそのまま直接定めた法律はありません
結果的に裁判に欠席すると敗訴するということになるだけです。なお,珍しい例ですが,被告が欠席したのに原告が敗訴するということも理論的にあり得ます。

2.裁判の基本的なルール
民事裁判における基本的なルールは,原告と被告の両当事者が,主張や証拠の主導権を持つ,というものです。これを当事者主義といいます。
また,事実の認定は,当事者双方が主張した事実,提出した証拠に基づくことが原則です。これを弁論主義といいます。
また,争いのある事実は証拠で認定をしていくことになりますが,逆に争いが無い事実については,そのまま認定されます(正確にいうと,この「事実」は全ての事実ではありませんが,細かいので省略します。)。
お互いに争いがないのであれば,裁判所が証拠から認定する必要性は低いです。それよりも,争いのある,つまり争点に限って認定することが適切です。
また,民事上の争いは,基本的に個人の権利義務の争いです。そうであれば,争わないという当事者の意思を尊重することが大事なので,このようなルールになっています。

3.欠席裁判の意味
被告が欠席をした場合,法的には,どのような扱いになるのでしょうか。
裁判においては,初回については答弁書を出すだけでいいなどの例外はありますが,原則として,出頭が求められます。出頭をしないと何かを主張した扱いにはなりません
ですから,欠席をした場合は,なにも主張をしない,相手方の主張する事実についても何も言わない,という扱いになります。
相手方の主張する事実について何も言わない,というのであれば,それは争った,ということになりません。そうすると,相手方つまり原告の主張する事実は,争わない事実,ということになります。したがって,2で説明したように,裁判所は,その通り,つまり原告主張通りの事実を認定します
要するに,欠席すれば敗訴という直接のルールはなくて,欠席すると争わないことになる,争わないと事実がそのまま認定される,だから結果として敗訴する,ということになるわけです。

4.欠席裁判の結果
3の結果として,原告主張の事実は全て認められることになります。
そして,裁判所は,そうであれば証拠を調べたりする必要も(通常は)ないので,審理を終わりにして,直ちに判決をする,ということになります。
この場合,原告の主張する事実は全部その通りと認定されるので,通常であれば,原告の望む判決となります

5.争わないとそのまま認定されるのは事実のみ
争わないとそのまま認定されるものは,事実のみです。法律とか法律解釈,法的評価には及びません
ですから,「1万円を貸した。だから1万円返せ。」という理由で裁判をして欠席裁判になった場合は,1万円の支払いが認められます。これは,貸したお金は返すという法律があるからです。
一方で,「親しい友達である。だから1万円くれ(!)」という裁判の場合,相手方被告が欠席しても1万円の支払いは認められません。
なぜなら,親しい友達であれば1万円払う義務がある(!)なんて法律はないからです。
では,「1000万円の価値のある絵画を被告に壊された。また,この絵画は1000年来の先祖伝来のものなので,精神的苦痛も負った。慰謝料は200万円である。だから,1000万円+200万円で1200万円払え」という事件で,被告が欠席したらどうでしょうか。
絵画が1000万円であることについて争いがないので,基本的にそのまま認定されます。与えた損害は賠償しろという法律もありますので,1000万円については認められるでしょう。
では,慰謝料についてはどうでしょうか。1000年来の先祖伝来のものであることについては,争いがないので,そのまま認定されるでしょう。ですが,1000年来の先祖伝来の物が壊されたから慰謝料が発生するかという法的な問題をどう判断するかについては,裁判所は拘束されません。また,慰謝料がいくらになるかについても,法的評価なので,裁判所は拘束されません。
ですから,残り200万円については,どれくらい認められるかは,裁判所の裁量になります。
以上のとおり,裁判所は,欠席裁判においては原告の主張する事実には拘束されます。ですが,その事実の法的評価,つまり原告の主張する事実が被告との関係で違法といえるのかどうか,いえるとしても,どの程度の損害が生じたかどうかは,その裁量で判断します
ですから,欠席裁判の場合,原告主張通りの事実は真実である,といえるかは微妙ですが,原告主張の事実は被告にとの関係で違法であるとか,その程度の賠償に値するとかは,裁判所がちゃんと審理した結論であるといえます。
なお,その関係で,欠席裁判であっても慰謝料の金額については,原告の請求額満額が認められないこともあります。請求額は上限になってしまうので,むしろ,これは通常のことであり,原告の請求が過大とか,そういうことは意味しません。