簡易裁判所と少額訴訟手続について,用語が創作されたり,概念がごっちゃな例がありますので,すこし整理してみました。
※少し追記しました。

まとめ

①簡易裁判所は裁判所の一つの種類で,民事裁判では140万円以下の事件を扱う。
②簡易裁判所行う手続の中で,「少額訴訟」というものがある。
③「少額訴訟」は,簡易裁判所で,60万円以下の事件について,希望すれば行える簡易迅速な手続である。
④「簡易裁判」という制度はないし,「略式裁判」というのは,おそらく他制度と混同した表現である。
⑤本人訴訟を簡単にやるための手続ではない。

解説

裁判所には,いろいろな種類がありますが,その中でも,民事では少額(140万円以下)の事件を扱う裁判所が,簡易裁判所です(なお,簡易裁判所ではこれ以外の事件も扱います。念のため。)。

簡易裁判所での裁判は,若干の特例はありますが,基本的には地方裁判所で行う通常の裁判と同様に行われます(法律上の例外はそれなりにあるのですが,実務上の扱いは地方裁判所とあまりかわりません。)。

簡易裁判所では,更に60万円以下の金銭請求について「少額訴訟」という簡易な手続を利用することができます。原則として1回の期日で終了するなど,様々な特例があります。

つまり,簡易裁判所では,140万円以下の裁判を扱うが,手続は地方裁判所はあまり変わらないのが原則である。少額訴訟という手続も使えるが,こちらは60万円以下で,それを利用する手続は別に必要,ということになります。

このあたり,インターネット上の法律情報では,簡易裁判とか簡易訴訟とか,略式裁判(刑事事件で略式命令請求という手続はありますが)とか,用語や概念がごっちゃになっています。

ですが,要するに,簡易裁判所が担当する裁判は140万円まで,さらに,60万円までの裁判で希望があれば,少額訴訟という特別で簡単な手続がある,ということにまとめられます。

法律には類似の名前があったり,よくインターネット上の法律情報では勘違いされるところなので,注意が必要です。

更に,昔から一部では,少額訴訟は,本人訴訟を簡単にやる手続だと勘違いされています。そういう制度趣旨もあることは否定しませんが,基本的に,一期日で,しかも即時に調べられる証拠に限定されますので,準備も大変です。
また,少額訴訟は,被告が異議を述べれば直ちに通常訴訟に移行するので,これを当て込むこともできません。
少額訴訟は,本人訴訟のための魔法の杖ではありませんので,この点は間違えないようにしましょう。