コスプレイヤー(フィクションのキャラクター(最近はフィクションに限らず,キャラクターにも限られないようですが。)等を模した格好をするパフォーマンスを行う者)の無断撮影が話題になっているようです。

被害届けを出すべきとか,いろいろな議論がなされています。

私は,盗撮事件の弁護や,同人活動の案件も取り扱っていますので,この機会に,簡単にまとめてみました。

1.まとめ
  1. コスプレイヤーの撮影は,無断撮影は違法行為になり,うち一部が犯罪になる
  2. コスプレイヤーの撮影は,承諾があれば適法である。
  3. 承諾については,明示的なものに限られない。
  4. 盗撮行為そのものを処罰する法律はない。
  5. 条例で一定の場合は処罰される。
  6. 2の「一定の場合」は大きく分けて2つあり,「下着や身体の撮影」と「困惑させる言動」である。
  7. コスプレイヤーの撮影は,下着を撮影するなどすれば犯罪になる可能性が高い
  8. コスプレイヤーの撮影は,下着の撮影でなくても,しつこい態様だと犯罪になる。
2.違法行為と犯罪
違法行為という言葉がありますが,これは全て犯罪になるわけではありません。法律に反する行為であっても,犯罪になるのはごく一部です。

違法行為は,基本的に,被害者に対して賠償をする責任が生じる,というものです(他に差止めとか行政処分とかもあり得ますが。)。
一方で,犯罪は,国家による刑罰権の行使の対象,つまりは処罰対象ということになります。

犯罪と違法行為について例示すると,殺人は,違法行為ですし,犯罪でもあります。一方で,不倫は違法行為ですが,犯罪ではありません。
犯罪というのは,違法行為の中でも,特に刑罰を持って禁圧するべきものに限ってそう定めているものです。

違法行為は,法律の明文に反するものについてはもちろん,明文に反しなくても,全体の法秩序に照らして解釈上違法であるものについては,違法行為となります。
一方で犯罪は,法律に明文で,「◯◯をした者は,1年以下の懲役に処する」というように定められている必要があります。国家の刑罰権の行使は慎重でなければならず,何が処罰されて,されないのか,ちゃんと国民に予告する必要があるからです。

なんとなく悪い,これはケシカラン,というだけで処罰されては,たまったものではないから,ともいえます。

3.コスプレイヤーの盗撮は違法行為なだけか,犯罪にもなるのか
結論からいうと,ほとんどの場合は違法行為になるが,犯罪にまでなるのは,一定の場合だけです。

まず,違法行為になるかどうかですが,一般的に肖像権といって,みだりにその容貌を撮影されない権利があります。ですから,無断撮影をしたり,それを公開する行為は違法行為であり,賠償責任が発生します。

次に犯罪になるかについてですが,まず,盗撮行為について,一般的網羅的に処罰するような法律はありません
ですが,条例(各地方で定めることができるルールで,法律の範囲内であれば法律と同様に罰則を定めることもできます。)で犯罪とされている場合があります。

東京都の場合には,通称「東京都迷惑防止条例」というものがあり,これに,痴漢行為や盗撮を処罰する定めがあります

大雑把に,今回関係になる点だけでいうと,

①公共の場所で,通常は衣服で隠されている下着または体の部分を撮影したり,撮影機を差し向けて,著しく人を羞恥させるか,不安を覚えさせること

②公共の場所で,卑猥な言動をして,著しく人を羞恥させるか,不安を覚えさせること


以上について,①は1年以下の懲役または100万円以下の罰金,②は6月以下の懲役または50万円以下の罰金が定められています。

4.下着の盗撮は犯罪になるのか
さて,3の①をみると,全ての盗撮が犯罪になるというわけではありません。要件はいくつかありますが,公共の場所でないといけない,また,通常は隠されている体や下着に撮影機を差し向けるか,撮影しないといけない,そして,羞恥ないし不安を覚えさせないといけない,とあります。

コスプレイヤーについていうと,公共の場所であるのが通常ですので,これは問題になりません。また,衣服で隠されている部分の下着とか体を撮影されたり,撮影機を差し向けられるだけで,羞恥ないし不安を覚えるのは通常でしょう。

そうなると,要件として問題になるのは,通常は衣服によって隠されている下着や体といえるかどうかです。

これについては,さほど判断は難しくないでしょう。典型的なのは,スカートの下,ローアングルから撮影をするとかです。

なお,ここは重要なポイントですが,条例で処罰されるのは,盗撮つまり撮影だけではありません。撮影機の撮影目的の「差し向け」についても,犯罪になります。

ですから,実際に撮影をしていない,シャッターを切っていない,という場合でも,差し入れた時点で犯罪は成立するということになります。

5.下着盗撮ではない盗撮は犯罪になるのか
こちらについて,3の①をみると,撮影の対象が,通常衣服で隠されている下着・身体である必要があります。
ですから,無断でそれ以外の部分,体全体とか,特定部分を撮影する行為は,違法行為ということにはなるかもしれませんが,この3の①には該当しないということになります。

ですが,たとえば執拗に女性の胸部を撮影する,お尻を撮影するなどされた場合,3の①に該当はしないといっても,相当な迷惑な行為です。これを罪に問うことはできないのでしょうか

そこで,3の②が問題になります。これは,「公共の場所で,卑猥な言動をして,著しく人を羞恥させるか,不安を覚えさせること」が犯罪になります。

そうすると,しつこい,特に特定部分の撮影が,卑猥な言動であり,かつ,著しく人を羞恥させるか,不安を覚えさせるといえるか,が問題になります。

まず,常識的に考えて,羞恥と不安については認められる余地は十分あるでしょう。誰だって,自分の体の性的と捉えうる一部をしつこく撮影されることは,嫌なことです。しかも,今日のインターネットの普及に鑑みれば,そういう写真がどこに流れるか解らない,ということで,そこまで考えると,とても恥ずかしい(羞恥)と思うか,不安になることは十分考えられます。

次に,特定部位の撮影という行為が,卑猥な言動になるかというと,これはかなり抽象的な定めで,難しい問題です。

ですが,実は,これについては有名な最高裁の判例(平成20年11月10日最高裁判所第三小法廷決定,判例タイムズ1271号346頁)があります。

その事案では,場所はショッピングセンターで,コスプレの事案ではなかったのですが,5分間,40メートルにわたり女性を追跡し,1メートルから3メートルの距離で,ズボンのお尻部分を約11回撮影したが,被撮影者はこれには気が付いていなかった,という事案でした。

これについて,最高裁判所は,

被害者がこれに気付いておらず,また,被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえる

として,条例に違反すると判断しました(なお,これは東京都条例ではありませんが,定めは同様です。)。

6.コスプレイヤーの下着以外の盗撮は犯罪になるのか
5を前提とすると,程度次第では犯罪になるということになります。すなわち,
  1. 場所が性的な特定部位にどの程度集中しているか
  2. 回数や時間の多さ
  3. 拒絶されたにもかかわらず繰り返しているか
概ね,以上のような事情が,判断材料になるでしょう。

要するに,恥ずかしさ,不安の度合い,そして卑猥さ(性的いやらしさ)の程度の問題ということになります。

普通に全身を撮影したくらいでは,犯罪になる可能性は低いでしょう。やや性的な部位を強調した写真でも,なかなか犯罪にはなりにくいと思います。

一方で回数が多いとか,あるいは,1回でも,部位の強調の程度では,犯罪になる可能性は出てくるかもしれません。

7.防犯対策
いろいろありますが,次の様な方策が考えられます。
  1. そういう撮影の禁止と撮影前に同意を得るべきルールをわかりやすく明示すること
  2. 防犯カメラが設置できるのであればしておくこと
  3. そういう人,怪しい人が居たら注意をすること
  4. 犯罪になる程度の悪質な行為は現行犯逮捕もすること
  5. 撮影者については登録制にして身元を明らかにさせること
  6. 以上を明示すること
基本的に同意があるか,あるいは同意を誤信すると犯罪になりません。あくまで,違法だったり犯罪になるのは,同意がない行為です

通常は誤信することはないでしょうが,明示しておくべきです。また,防犯カメラがあれば有効ですが,設置が難しいこともあるでしょう。

さらに注意をされても続けることは,卑猥な言動,羞恥,不安にさせるという評価につながりますので,注意警告も大事です。

また,そもそも,この手の盗撮は,その場で犯人を捕まえないと,責任追及は極めて難しくなります

現に犯罪をしていることが明らかな者を逮捕することは,私人であってもできますので,余りに悪質な場合は現行犯逮捕して警察に突き出すことも考えてもいいでしょう

ポイントは,撮影をしていなくても,撮影目的で撮影機を差し向けた時点でも犯罪になるというところです。

他,撮影者の登録制とか,明示をしておく(ようするに,ここでそういうことをするリスクが高いことを知らしめる。)ということも,有効です。この種事件に限りませんが,「うちは,違法行為にはちゃんと法的措置をしますよ」という姿勢は,意外と有効なのです。

8.補足
さて,少し話がそれますが,以上の見解は,批判もあるところです。要するに,処罰範囲が広すぎる,これでは「ケシカラン罪」ではないか,というものです。

刑罰法規の解釈には,謙抑性が必要です。刑罰というのは,社会にとってのよく効く薬ですが,行為者に大きな不利益をもたらします。

また,刑罰の範囲が広いということは,捜査できる範囲も広いということであり,捜査できる範囲が広いということは,処罰だけではなくて,家宅捜索や逮捕勾留のできる範囲も広い,ということです。
あまり刑罰を広く考えると,ちょっとしたことで犯罪の疑いで捜索を受けるとか,そういう社会になってしまいます。

言動というと,言葉だけではなくて行動も含みます。また,卑猥というのは性的にいやらしいという趣旨で,かなり広く理解できてしまいます。

そういうことで,安易に広く解釈することについては,反対論も多いです。上記の最高裁判例でも,裁判官の一人が反対意見を述べています。