弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

タグ:保釈

前回前々回の記事に、かなり質問が寄せられました。
質問を踏まえまして、解説を追加します。

おさらい
  • 逮捕勾留は処罰ではなくて、証拠隠滅や逃亡の防止のために行われる。
  • 上級国民は逃亡や証拠隠滅で失うものが大きい(とされる)ので、あえてしないという期待がある。
  • したがって、逮捕勾留はされにくいという傾向がある。
  • 他に、過失犯は法定刑が軽いなどの他の要因も組み合わさっている。
  • もう少し実質的に逃亡や証拠隠滅の現実的可能性を判断して逮捕勾留に慎重になるべきという意見がある

上級国民は逮捕勾留で有利でこれは超重要

犯罪を犯しても、特に初犯で刑務所に行くということは、なかなかありません。
通常は、罰金刑ないし執行猶予付き懲役刑、ということになります。
そうなると、被疑者(拘束の有無を問わず犯罪の嫌疑をかけられている人)・被告人(起訴されて刑事裁判の当事者になっている人)にとって、刑事裁判における一番の苦痛、負担というのは、判決そのものではなくて、その前の逮捕勾留ということになります
拘束されるだけでも大変な苦痛ですが、それで職業を失う、学校を留年するなどの負担も課せられることもあり得ます。
この一番の苦痛、負担を負わずに済むということは、とても重要であるといえます。

逮捕勾留を免れるということはその後の裁判でも有利

逮捕勾留されないということは、その後の裁判を有利に進めるためにも非常に重要で有利なことです。
認めている事件であろうと、なかろうと、刑事裁判には相当の準備が必要です。
弁護人がいるといっても、方針の最後の決定は被告人本人がしますし、事件について一番詳しいのは被疑者、被告人です。
そうすると、被疑者、被告人と弁護人とは打ち合わせを重ねる必要があります。
拘束されていると、弁護人は、一々、留置場や拘置所に赴く必要がありますが、釈放されていればそういう必要はありません。電子メールなどを駆使することもできます。
こういうと語弊がありますが、あえていえば、「上級国民は刑事裁判でも有利」といえてしまうと思います。

上級国民は保釈でも有利:制度の説明

上級国民といえども、逮捕勾留されることはあります。
ここで、保釈について少し説明します。かなり大雑把にいうと、刑事事件の手続きは、次のような流れで進みます。
  1. 捜査が行われる。
  2. 逮捕され、その後に勾留される。捜査も並行して続く。
  3. (起訴前の)勾留は最大20日間まで。
  4. 検察官が起訴(裁判所に訴え出ること)する。そして、その時点での勾留中の場合は、3の制限が外れて裁判が終わるまで勾留ができる。
  5. 裁判が始まり、判決が出る。
かなり乱暴なまとめですが、このような流れになります。
要するに、裁判が始まる前の勾留は20日間が上限で、その期間中に起訴をしないといけない、起訴すれば、その期間制限が外れて勾留を続けられる、ということです。

そのかわり、「保釈」という制度があります。ポイントは、保釈は起訴後つまり裁判にならないとできない、ということです。要するに、起訴後勾留は20日間制限がないので、そのかわりに、保釈制度がある、ということです。

保釈は、これも大雑把にいうと、保釈保証金というお金を裁判所に納めることと引き換えに釈放してもらう、ただし、色々と条件がつき、それに違反する保釈金が没取(ぼっしゅ。とられること。)されるというものです。要するに、お金を担保に釈放してもらう制度です。担保ですので、違反をせずに裁判が終われば、保釈金は返還されます。
もちろん、証拠隠滅の可能性が高いなどの場合は、認められないこともあります。

また、保釈金の金額は、逃亡の抑止になるよう、被告人の財産などを考慮して決定されます。

上級国民は保釈でも有利:その理由

上級国民は、証拠隠滅の可能性が低いと評価されやすいという話をしました。

保釈の許可においてもこれは考慮されますので、上級国民は、保釈されやすく、つまり保釈でも有利ということになります。

それだけではありません。上級国民には財産がありますから、保釈金の用意においても有利です。せっかく保釈が許可されても保釈金が用意できなければ、保釈はされません。
上級国民は財産がありますので、保釈金の用意も可能でしょう。もちろん、財産状態も考慮されますので、上級国民の保釈金は高額になるでしょうが、問題なく過ごせば、全額返還されますので、大きな問題ではありません。

そして、逆に財産がない(上級国民ではない。)と保釈は難しくなります。先程、保釈金は財産状況も考慮されると説明しました。
そうなると、財産がないのであれば、保釈金も安くなるので大丈夫そうに思えます。
しかし、実際にはそうではありません。法律上、保釈金には上限も下限もありません。実際にも保釈金には上限はありません。ですが、下限はあり、概ね150万円程度となっています(もっとも、これより安い例に接したことはあります。)。
今日日、150万円を現金で用意出来る人は限られているでしょう。保釈においても、上級国民は一般国民より有利であるといえます

なお、保釈金については、立て替えを受ける方法もありますが、「手数料」が必要になります。

上級国民は判決でも有利

上級国民は判決でも有利です
すなわち、すでに見てきたように、釈放されているというのは、裁判準備において有利です。
準備が十分にできれば、裁判でも有利になります。

また、量刑(刑の重さのこと。あるいは、刑の重さを決めること。)においても有利です。

事件により、失職する、資格を失うなど、それまでの地位と立場を失うことがあることは、上級国民であってもなくてもかわりありません(しかし、逮捕勾留されないことで、それを免れる上級国民も多いかもしれません。)。

ですが、上級国民は、それまでの地位が高いので「失うものが大きい」です。そうなると、量刑においても、「失職するなど社会的制裁を受けている」などということで、有利な量刑を得ることができます

また、財産があれば、被害弁償をして示談をすることも可能になりますし、これはかなり有利な情状となります。

事実を争う事件においても、調査や鑑定のために十分なコストを費やすことができ、その点でも上級国民は有利です

上級国民は自分や家族で弁護人をつけることができるので有利

国選弁護という制度があり、お金がなくても弁護人をつけることは可能です
しかし、国選弁護は、自分でどの弁護士がいいとか選ぶことは、基本的にできません。
また、裁判前かつ身柄拘束されていない場合には、国選弁護はつきません(なお、未だに起訴後でないと国選弁護がつかないとか、「原則として起訴後」というような解説がありますが、不正確だと思います。)。

弁護士費用を用意できる上級国民であれば、自分や家族が、自分の希望や方針に合致した弁護士を選ぶことができます。これは大きな強みと言えるでしょう。

もちろん、国選弁護だから弁護の質が低いというわけではありません。国選弁護人も私選弁護人と同じ権限、そして責任を負います

しかしながら、国選弁護は十分な報酬が支給されていないだけではなく、コピー代等実費すら十分に出ません。一面において、弁護士が頑張れば頑張るほど損をする、弁護士の心を全力で折りにいくという逆インセンティブ報酬制と評価できるような制度が採用されています。もちろん、それでもほとんどの弁護士は熱心に弁護士しますし、赤字になることも厭いません(私もそういう経験があります。)。
ただ、弁護士の自己犠牲の良心に頼り切った制度であり、さらに弁護士が選べない(つまり信頼関係が作れないリスクもある。)ことも相まって、不安を感じてしまうのはやむを得ない面もあると思います。

なお、私選弁護人をつけている、ということは、逃亡や証拠隠滅の可能性を減じる事情にもなりえます。
これは、自分で選んだ弁護士であるから弁護士との高度の信頼関係と弁護士による監督が期待できるためです(もっとも、これには反対意見も多いと思います。)。
また、わざわざお金を出して弁護士をつけておいて、逃亡したりはしないだろう、ということも、常識的に考えられることです。

実際に、私の経験上も、時効間近の法定刑の重い犯罪について私選弁護人が2名というケースで、裁判所が、弁護人をつけていることを指摘して勾留を認めなかった事例や、弁護人の監督を理由(条件)に保釈を許可してもらった事例があります。

やっぱりこれは大問題

以上、いろいろと解説してきましたが、由々しき事態であるとおもっています。
以前の記事でも解説しましたが、逮捕勾留の判断にあたっては、もっと実質的に、現実的な逃亡の可能性、証拠隠滅の可能性を検討するべきですし、保釈においても同様です(そもそも、保釈されて逃亡や証拠隠滅で保釈金が没取されたケースは稀です。)。特に、保釈金の下限については、検討の余地は大いにあると思います。

要するに、上級国民に対する対応が、不十分とはいえ、本来の刑事裁判、刑事司法に近づいているだけであって、真に問題にすべきは、市民全体に対する扱いです。

さらに、国選弁護においても、少なくとも労力比例、そして実費はしっかりと出るような制度改革は喫緊の課題であると思います。
経済的事情で、刑事司法が、ひいては正義が左右されることがあってはなりません

なお、私たち弁護士は、以上について手をこまねいているわけではなく、日本中の弁護士が出し合ったお金で、無料で逮捕直後に弁護士を呼べる「当番弁護士制度」や、刑事被疑者弁護報酬の支援、再審の支援などもおこなっています。弁護士全体が、莫大な費用と労力を費やして、刑事司法の改善に努力を続けています。
かつては、国選弁護人は、裁判が始まるまでつかなかった(したがって、裁判が始まるまで、漫然と身柄の拘束が続けられてしまう結果、不利な調書が作られるなど、冤罪の温床にもなりかねない状態になっていました。)時代もありました。ですが、以上の弁護士会の活動も功を奏し、今日では裁判前でも国選弁護人がつくようになりました。

前回の「「上級国民だから逮捕されない」は弁護士から見ても本当と思う理由」については、多くの方に読んでいただきました。
また、いくつかご質問、疑問も頂戴しました。
*裁判に関する解説も追加しました→ 「『上級国民』は刑事裁判で有利」と弁護士が思う理由

SNS等の削除という事情

いろいろとありますが、特に多かったのは、これはあくまで報道ベースの話にすぎませんが、「事故直後にSNS等の削除を依頼していたのだから、証拠隠滅をしているのではないか。だから、証拠隠滅を疑うに足りる相当な理由はあるのではないか。」というものです。

この点について、やはり釈然としない、というのは健全な市民感情として、もっともな話だと思いますので、すこし説明を付加したいと思います。

それでも、これらの事実を逮捕勾留の理由にすることは難しい

一見ごもっともな話ですが、実は、これは、

①逮捕や勾留の理由になるような証拠隠滅にはあたらないし、

②また、SNS以外にも証拠隠滅の可能性はなさそう、

ということで、やはり逮捕勾留の理由とすることは、難しいのではないか、と思います。

順を追って説明しましょう。

罪証隠滅の「証拠」とは?

逮捕勾留の理由としての証拠隠滅は、もっと正確に言えば罪証隠滅、つまり、あらゆるなんらかの証拠という意味ではなくて、犯罪に関する証拠に限定されます。
この犯罪に関する証拠というのは、たとえば殺人事件であれば、凶器であるとか、血のついた着衣、遺体、また、被害者と被疑者との関係を知る人の供述とか、そういったものがあります。
また、それだけではなく、犯罪の証明に直接必要ではないが、情状つまり、被害者が従前、被疑者に暴力を振るっていて、命に関わる暴行もされていたとか、そういう事情も含まれます

SNS等の削除は、罪証隠滅といいにくい(①)

証拠の問題を交通事故について考えてみると、次のような証拠が想定されます。
すなわち、①加害車両、②被害車両・被害者の状況、③現場の遺留物、それに④ドライブレコーダーがあればそれ、⑤目撃者の目撃供述、さらに⑥周囲の監視カメラの映像も重要な証拠でしょう。⑦実況見分調書なども大事です
また、⑧被疑者の過去の運転歴、違反歴、⑨任意保険の加入条件、高齢であれば⑩健康状態に関する資料(カルテ)も大事でしょう。

これらは、いずれも、過失運転致死傷の罪体(犯罪の本体)や情状に関する重要な証拠です。

一方で、SNSに、たとえば事件が飲酒運転であり、その直前に「ビール5杯飲みました!」などと投稿をしているのであれば別格、普段の日記などであれば、犯罪とはなんらの関係もありません。犯罪の情状にも関係がありません。メディアの中には、被疑者の「人となり」を知るためにSNSを調べる傾向がありますが、それは、犯罪の成否、軽重にかかわるものではありません。
SNSの内容で、犯罪になったりならなかったり、あるいは、軽くなったり重たくなったりすることは、通常はあまり考えられません。

ですから、犯罪の証拠ではないから、罪証隠滅ではない、だからこそ、逮捕勾留の理由にすることは難しいのではないか、と思います。

SNS以外の証拠も隠滅し難い(②)

さらに、「SNS等の削除が証拠隠滅ではないとしても、何かを消したことに間違いはない。そうなると、やはり犯罪の証拠も削除するのではないか?そう疑うべきではないか?」という意見もあり得ます。

ですが、本件では、そもそも証拠隠滅それ自体が困難です。
先程、いくつか証拠を列挙しました。①②③④は、いずれも直ちに捜査機関が確保しています。まさか被疑者が警察に忍び込んで廃棄するなんてことは、現実的に無理でしょう。
さらに、⑤についていえば、周囲の目撃者は顔見知りではないでしょうし、どこの誰かわからない全員について、いちいち口裏わせを依頼することも無理というほかありません。
⑥もじきに確保されますし、被疑者がその存否をすべて把握することも不可能です。⑦は警察が作成して保存しますので、同じく手を触れることもできません。
⑧⑨⑩は関係機関に問い合わせればわかりますし、これを書き換えることも現実的ではありません。
つまり、本件に限りませんが、事案によるとはいえ、一般的に交通事故は、証拠隠滅が非常に難しい事件(違反者のなりすまし、飲酒運転などは除くとして)です。
この点からも、逮捕勾留をしない理由になります

なぜ、SNS等の削除がこんなに問題視されたのか

これは、証拠隠滅の文脈というより、通常、事件の被疑者は、SNSをはじめとするプライベートの資料がメディアにより公開されて、「人となり(!)」を大きく報道される傾向があります。
私はこれ自体、とても賛同できないのですが、これが一種の制裁になっていることは、間違いないでしょう。
つまり、今回、報道によれば疑われている行為があり、それで一つの制裁手段がなくなって、そして、メインの制裁である逮捕勾留もされていない、ということで、世間の一部からの反感をより強く買ってしまった、つまり「普段の制裁はなぜないのか!できないのか!」ということになってしまったのではないか、と思います。

ただ、以上の事情は、いわゆる「上級国民」と言われる人でなくても同じことです。ですから、本来の慎重な対応で、なぜ統一できないのか、そういう疑問は残ると思います。
そして、これは、大きな問題だと思っています。


*裁判についての解説も追加しました→「『上級国民』は刑事裁判で有利」と弁護士が思う理由
立て続けに、大きな交通事故がおきました。

その交通事故をめぐって、あの人は逮捕されたのに、この人は逮捕されないのはなぜか、それは上級国民だからではないか、などという議論が、ネットで巻き起こっています。

この上級国民というのは、ネット上のスラングの一種です。高級公務員や大企業の重役、あるいは、政権の関係者、それらの経験者など、とにかく偉い人で、特別扱いを受けるべき人、という程度の意味だそうです。
さて、上級国民といわれるような方々は、本当に逮捕されない、あるいは、普通だったら逮捕されるのに、上級国民だと逮捕を避けられるとか、そういったことがあるのでしょうか。

これについてですが、誤解を恐れずに、でも、はっきりと申し上げると、「上級国民は逮捕されにくい」という事は間違いなくいえると思います。

それは、どういう理由からでしょうか。

逮捕やそれに続く勾留(両者は別物ですが、解説すると長くなるので、一括して説明します。)という手続き・身体拘束は、懲役刑など、刑罰としての拘束とは異なります。
逮捕や勾留は、有罪判決の確定前に行われているのであり、決して刑罰ではありません。

逮捕や勾留は、捜査の適正の確保のため、あるいは裁判の維持のため、あるいは判決後の刑の執行の確保のために行われるものです。

これは、どういうことかというと、例えば、被疑者(犯罪の嫌疑を受けている人をいい、逮捕の有無は問いません。)が逃亡してしまった場合には、裁判にかけるという事はできません。
また、判決が出ても、刑を執行するということができません。さらに、そもそも裁判を開くこともできなくなってしまいます。

さらに被疑者が、関係者と口裏合わせをしたり、証拠品を廃棄したりなどすると、これまた、捜査は適正に行えませんし、真実も発見できず、適正な裁判を行うことも難しくなります。
逮捕や勾留は、このような弊害を避けるために、被疑者に、犯罪の疑いがあることを前提として、証拠隠滅したり、逃亡するような危険がある場合に限り認められます
正確には、これらの疑いには、そう疑うに足りる相当な理由、というレベルの根拠が必要であるとされています。

そして、証拠隠滅や逃亡の可能性というのは、理論上は犯罪の疑いとは別の概念です。

犯罪をしたというのは間違いなく認定できたとしても、逃亡や、証拠隠滅の可能性がなさそうであれば、逮捕勾留されないこともあります。また、犯罪をしたという事について、確信がもてない場合であっても、逃亡や証拠隠滅をする可能性が高い、というケースでは、逮捕勾留が認められやすくなります。

以上を前提に、上級国民について、考えています。

上級国民は、通常、職業や、住居がしっかりしている、また、財産もあるでしょう。ですから、それらを全部なげうって逃亡するという事はなかなか考えにくいです。そうすると、逃亡する可能性はほとんどないという判断に結びつくでしょう。

また、上級国民といえども、証拠隠滅をすれば身柄を拘束されることになります。そうなると、そんなリスクを冒して証拠隠滅をする可能性もない、ということになるでしょう。
上級国民は、身体拘束で失うものが大きいので、そんなリスクを無視して、証拠隠滅には及ばない、ということです。

さらに、上級国民は、前科や前歴もなく、証拠隠滅をそそのかすような組織、団体との関わりもないでしょう。
加えて、上級国民は、殺人や放火など、法律上、重たい法定刑が定められている犯罪を犯す、疑いをかけられることは稀であり、通常は、過失犯など法定刑がそこまで重くない犯罪が中心になります。
そうなると、20年、30年の服役の可能性があるのであれば別格、執行猶予の可能性が高い、実刑になっても、2、3年というのであれば、情状が悪くなる、身体拘束される、あるいは終わりのない不自由な逃亡生活を覚悟して逃亡し、証拠隠滅をする可能性は、ますます下がります。

そういうわけで、上級国民という身分(そんなものがあるわけではないですが)そのものに着目をしているというわけではありませんが、結果的に、上級国民の持つような属性が、逮捕勾留を否定するような事情になっている、ということがいえると思います。

以上乱暴にまとめてしまうと、上級国民だと逮捕されにくいというのは、一応は真実であるといえると思います。

もっとも、私としては、このような取り扱いが、妥当であると思いません。

上級国民は逃亡したら失うものが大きいから逃亡するという事はなかなか考えにくい、とはいえるかもしれませんが、それは、上級国民に限りません。
上級国民の持つ高い地位、生活など「だけを」特別扱いして、そうでない人の立場を軽視するような判断は、あまり賛成できるものではありません。

これは、上級国民「も」逮捕しろ、ということではありません。上級国民でなくても、しっかりと逃亡や証拠隠滅の現実的な可能性、相当な理由を確実な資料から認定し、そうでないなら、「一般国民」も逮捕勾留するべきではない、ということです。上級国民でない人々にも、かけがえのない生活があることには変わりありません。

今回、このような疑問が湧き上がったのは、市民の認識としては、悪いことをしたから逮捕勾留されるという認識が強い一方で、法律上は、それだけでは足りず、証拠隠滅や逃亡の可能性が審理されるということ、そして、いわゆる上級国民といわれる方々については、犯罪の内容や身分・地位から、逃亡や証拠隠滅のリスクが比較的低いと判断されやすい、こういう、認識のギャップというか、食い違いが、誤解を生んだのではないか、と思います。


今回は、淺井健人弁護士(東京弁護士会所属)からの寄稿です。
保釈条件について解説します。

1 保釈条件

報道(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO42083750W9A300C1EA2000/)によると、


住居は届け出たものに制限される

事件関係者への接触禁止

パスポートは弁護士が預かる

住居の出入口に監視カメラを設置する

パソコンは弁護士事務所のインターネット接続のないもののみ使用可

携帯電話はネットとメールが使えず通話先も限定したものを使用する


等の保釈条件が付けられたとのことです。


このうち、①、②は保釈条件として通常設定されるもので、

③も外国人の場合、外国に逃げられてしまうと困るので、通常設定されます。

今回、特徴的なものは④~⑥です。

 

2 保釈率の上昇と判断の変化

保釈率は裁判員裁判導入の影響もあって、10年で2倍となり、平成28年には28.8%に上昇しています。

https://www.sankei.com/west/news/181227/wst1812270046-n1.html

そのようななかで、従前は、罪証隠滅の可能性を抽象的に判断しているかのような裁判所の判断もありましたが、現在では、罪証隠滅の可能性は具体的に判断されるようになってきています

 

3 本件の特徴

今回の保釈条件④~⑥は、事件関係者との接触可能性を最大限減らすことで、具体的な罪証隠滅の可能性を可及的に低いものとするものです。このような条件のついた保釈はおそらく前例のないものであり、画期的であるとともに、今後の保釈請求の参考にもなるものです(もっとも、本件は司法取引がおこなわれた事件であり捜査機関が早期に証拠収集可能であったことや、外国籍の大企業の社長であり、勾留の継続への批判が強かったことには留意が必要です)。

今回の保釈によって、カルロス・ゴーン元会長との打ち合わせや証拠の精査がしやすくなったことで、裁判に向けてより充実した準備をすることができるようになったことは、公正な裁判のためにも重要なことであったといえます。


参考:刑事弁護士.jp「保釈」

今年2月に,共著でこういう本を出しました。

先を見通す捜査弁護術(第一法規)

弁護士向けの専門書で,捜査段階,つまり起訴されて裁判が始まる「前」までの刑事弁護について,いろいろな技術・知識を解説した書籍です。
刑事弁護の分野に限りませんが,意外と活字化されていないノウハウ,テクニックがありますので,その点に重点を置いて解説しました。書面の提出先といった形式的なところから,身柄解放や保釈のための準備などについても解説しています。

なお,私は,ちょっと変わったテーマですが,児童買春の事案をテーマに,「まだ捜査の手が及んでいない」「自首をするべきかどうか」「自首するならどうするべきか」ということを解説しています。
かなり取り扱いの多い分野ですが,あまり解説がないので,これまでの経験を盛り込んで解説をしました。

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