弁護士 深澤諭史のブログ

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タグ:ブラック企業

先日,取材を受けた件が記事になりましたので,お知らせです。

日本経済新聞電子版「ネット投稿巡る仮処分 目立つ企業の申し立て」 

こちらですが,転職情報サイトに企業がブラック等の悪評を書き込まれ,それで求人に差し支えが出てしまうケースが多い,という話です。

私は,この手の事件は,企業側だけではなく,(元)従業員側も,かなりの件数を担当しているのですが,中には,スラップではないか?と思わせるようなものも少なくありません

是々非々でレビューするとなると,どうしても否定的なことも書かざるを得ません。それらについても一律に法的措置をとられると,資金力を生かして評判のクリーニングができてしまうのではないか,という危惧もあります。

また,発信者情報開示請求においては,請求者側に虚偽性の立証責任があります。ですが,ブラックではないことの証明・疎明ということは難しいことも少なくありません
問題発生後に弁護士に相談するのも結構ですが,日頃から労働環境については,弁護士に相談しておけば,こういうケースでもブラックへの反証が立てやすくなるのではないか,と思います。

先日,このようなツイートをしたら,かなりの反応がありました。

この「コンボ」,本当によくあります。もちろん,請求している会社側の狙いは別にあるかもしれません。また,請求が棄却されたからといって,明白に「ブラック(労働条件が劣悪である,労働法を遵守していないという会社の状況を示す言葉)」であると立証されたとも限りません

そこで,今回は,なぜどうして,そういうことが起きるのか,簡単に解説します。

1.発信者情報開示請求の仕組み

発信者情報開示請求とは,平たくいえば,ネットの投稿について,その投稿した者がだれかを突き止める手続きです。
ネットの投稿の大部分は匿名です。ですから,その投稿により,名誉権,プライバシー,著作権が侵害されても,賠償請求や差止めをすぐに求めることはできません。その加害者つまり請求先が明らかではないからです。

詳しく説明をするときりがないので,簡単に説明します(念のため,これは原則的なケースです。)。最初に投稿などがされた掲示板の管理者(これを「コンテンツプロバイダ」といいます。)からIPアドレスと投稿日時を取得する(一回目の発信者情報開示請求),次にIPアドレスから接続に利用しているプロバイダ(これを「経由プロバイダ」といいます。)を割り出します(WHOISなどのサービスで,これは簡単に分かります。)。

最後に,その経由プロバイダに,この時間,このIPアドレスを利用していた者は誰か,住所氏名の開示を求めます(二回目の発信者情報開示請求)。ここまできて,ようやく,投稿者を突き止められる,ということになります。
つまり,2回の請求が必要になるわけです。

2.発信者情報開示請求を受けた投稿者

発信者情報開示請求があった場合,連絡が可能であれば,投稿者に「発信者情報開示請求にかかる意見照会書」なるものがプロバイダから届けられます。そこには,発信者情報開示請求があったこと,対象の投稿と理由が記載(請求者の請求理由の転送ということです。)されています。そして,開示に同意するかしないか,拒否するのであれば理由の回答を求められます

つまり,発信者情報開示請求があった場合,通常は,投稿者は発信者情報開示請求の事実と理由を知ることができる,というわけです。

3.発信者情報開示請求の要件

発信者情報開示請求が認められるには,つまり,開示が認められるための要件は,基本的には「権利侵害の明白性」です。

要するに,その投稿について,請求者の権利が侵害されたことが明白である,ということが必要です。このことは,請求者が証明しないといけません

通常の名誉毀損においては,名誉権を侵害する内容であれば,その表現をした者の方で,その内容が真実かすくなくとも相当な根拠があること,そして社会の正当な関心事であることを証明する必要があります。

ですが,発信者情報開示請求においては,その証明する責任が請求者に転換されています
ですから,請求者,つまり投稿で被害を受けたと主張する側が,真実ではないし,社会の正当な関心事ではない,と証明をすることが求められます

4.発信者情報開示請求の意見照会書と3の関係

発信者情報開示請求にかかる意見照会書が送られるのは,以下の理由からです。プロバイダは投稿者ではありませんし,投稿の根拠については,投稿者しか知りません。ですから,プロバイダが開示を判断するため,あるいはプロバイダが訴えられた裁判で,勝つ(=非開示)にするためには,投稿者からの意見,証拠が裁判で反論するため必要なためです。

5.転職情報サイトにおける問題

以上をまとめると,ブラック企業情報においては,ブラック企業といわれた会社は,発信者情報開示請求において,ブラックではない,ということを証明する必要があります

発信者としては,発信者情報開示における意見書において,ブラックであるという証明をする必要はありません。ブラックではないという証明がされない程度に反論することが要求され,かつ,それで足ります

ですから,会社によっては,ブラックではないという証明が十分にできない,あるいは,一旦できても,発信者側の意見書による反論が効果的にされると,「権利侵害の明白性」を満たせない,ということで,開示請求が棄却になる,ということになります。

ようするに,ブラック企業と言われた側では,そうではないという証明をする必要があり,かつ,それは簡単ではなく,しかも,効果的に意見書で反論されると,開示が認められることは難しい場合もある,ということです。
もちろん,会社側としては,ブラックではないと証明するコツ・テクニックはありますし,逆に,投稿者側でも発信者情報開示請求に対する意見書作成におけるテクニックはありますが,以上のような事情があるのが現状です。

反響があるようであれば,裁判例(実例)を,次の機会に少し紹介,解説したいと思います。

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