子どもや学校の問題に詳しい,淺井健人弁護士(東京弁護士会)からの寄稿です。

第1 いじめの第三者調査委員会とは

 学校の設置者(公立の場合は教育委員会、私立の場合は学校法人)または学校は、いじめによって重大事態が生じた疑いがある場合には、いじめの調査組織を設置します。調査組織は、公平性、中立性が確保された組織が、客観的に事実認定をすることができるよう構成することとされ、一般に、いじめの第三者調査委員会と呼ばれています。

 重大事態とは、

1 いじめにより児童生徒に生命、心身または財産に重大な被害が生じた場合

 たとえば、自殺を企図した場合、身体に重大な障害を負った場合、金品等に重大な被害を被った場合、精神性の疾患を発症した場合などが想定されています。

 軽症で済んだものの自殺を企図した場合や、多くの生徒の前でズボンと下着を脱がされ裸にされた場合、スマートフォンを水に浸けられ壊されたといったケースでも重大事態として取り扱われたことがあります。

2 いじめにより児童生徒が相当期間学校を欠席することを余儀なくされた場合

 相当期間は年間30日が目安とされていますが、あくまでも目安であり、欠席が続く場合はより短い期間での設置も想定され、実際に30日より短い期間で重大事態として扱われた例もあります。

いじめとは

 何らかの関係がある子どもから、心身の苦痛を感じさせられる行為をされた場合は、「いじめ」にあたるとされています。

 法律では、

①児童等に対して、

②当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う

③心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、

④当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの

とされています。

第2 調査の目的

 いじめの第三者調査委員会は、学校の設置者及び学校が事実に向き合うことで、事案の全容解明、当該事態への対処や、同種の事態の発生防止を図るためのものとされ、民事・刑事上の責任追及やその他の争訟等への対応を直接の目的とするものではないとされています。

第3 調査について

 いじめの第三者調査委員会は、児童生徒や教職員に対していじめの事実関係や学校の設置者及び学校の対応等について、アンケート調査や聴き取り調査を行います。

 調査においては、学校いじめ防止基本方針に基づく対応は適切に行われていたか、学校いじめ対策組織の役割は果たされていたか、学校のいじめ防止プログラムや早期発見・事案対処のマニュアルはどのような内容で、適切に運用され機能していたかなどについて、分析を行います。

 いじめの第三者調査委員会は、いじめがあったかどうか、いじめと重大事態との間に因果関係があったかどうかなどを分析・評価したうえで、再発防止策を検討します。

 調査結果については、公立の場合は当該地方公共団体の長に、私立の場合は当該学校を所轄する都道府県知事に報告されます。

 調査結果の公表については、学校の設置者及び学校が事案の内容や重大性、被害児童生徒・保護者の意向、公表した場合の児童生徒への影響等を総合的に勘案して判断しますが、特段の支障がなければ公表することが望ましいとされています。

第4 再調査について

 報告を受けた地方公共団体の長や都道府県知事などは、重大事態への対処または再発防止のために必要があるとき(調査不十分であるときや調査委員の公平性、中立性に疑義がある場合など)は、調査の結果について、新たに第三者調査委員会を設けるなどして再調査を行うことができるとされています。

◯青森中2生徒自殺のいじめの第三者調査委員会について

 報道(https://mainichi.jp/articles/20180716/k00/00m/040/066000c)によると、2016年8月に中2生徒が自殺した問題については、市教育委員会設置の市いじめ防止対策審議会が2017年3月に報告書案をまとめたものの、遺族側が見直しを求めた結果、2017年5月末、報告書の答申をしないまま全員が任期満了で退任し、2017年12月に新たなメンバーで調査が再開されました。

その結果、2018年8月2日、自殺の主要な原因はいじめであったとする報告書が答申されました。

 答申前に遺族が見直しを求めた結果、事実上の再調査が行われた本件は、イレギュラーな流れですが、遺族および遺族代理人の強い思いと粘り強い働きかけが功を奏したケースといえるでしょう。