弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

カテゴリ: 法律

今年初めくらいから,「ネット投稿の賠償金は判例で決まる,とききました。この投稿の判例を教えてください。」 という相談が増えました。そして,この相談は,もちろん投稿された側からの相談もあるのですが,投稿をした側の相談の方が非常に多かったです。

結論からいうと,デマといって差し支えありません。すくなくとも,個別具体的な投稿の賠償金を決定するに足りるような「ネット投稿の賠償金判例」というものはありません

それはなぜでしょうか。
まず,賠償制度について説明します。

日本の民事事件の賠償制度は,填補賠償と呼ばれる制度を採用しています。
これはどういうものかというと,実際に生じた損害について,その損害を填補つまり回復,補うのに足りる賠償金が認められる,というものです。

100万円の品物を壊せば100万円の賠償が認められる,ということになります。

このルールは,ネット投稿の賠償金の問題でも変わりありません。この投稿によりどの程度の損害,価値の減少や本来得べかりし利益を損なったか,ということで金額は算定されます。

賠償額においては,基本的に行為の悪質性は問われません
ですから,わざと10万円の品物を壊すことと,ミスで15万円の品物を壊すこと,前者は犯罪になりますので,より悪質であるといえるでしょう。
しかし,賠償金の金額でいうと,それぞれ10万円,15万円となり,後者の方が高額になります。

さて,判例というのは,一定の類型化が可能なもの,普遍化が可能なトピックでないといけません。
ネット投稿の賠償問題でいえば,「発信者情報開示請求に使った弁護士費用は,発信者に損害として請求出来るか」という論点があり,裁判例(最高裁判所以外の判例は,こういう言い方をするのが通例です。)は,肯定説と否定説に別れています。

ですが,ネット投稿の賠償金本体は,そういう類型化はできません。投稿の文言はバラバラです。投稿された場所もバラバラです。更にもっといえば,それにより実際にどういう被害が生じたのか,というのもバラバラです。類型化は不可能です

もう少しわかりやすい例えをすれば,同じ重さ,大きさの石を,窓から人の家に投げ入れた場合の賠償金の問題に似ています。

そのときの賠償金はバラバラでしょう。窓が割れただけであれば,それだけの賠償金です。しかし,家の中に飛び込んだ石が,家具を破壊すればさらに賠償金はあがります。そこに人がいて怪我をしたらどうでしょうか。当たり所が悪かったらどうでしょうか。更に賠償金は引き上がる,ということになります。

賠償金の類型化としては,交通事故についての「赤い本」というものがあります。後遺症であるとか,入通院慰謝料,死亡慰謝料などの金額を列挙したものです。

これはある意味,「賠償金が判例で決まる」ともいえます。
しかしながら,それを決めるには,実際にそういう損害が生じたか,という論点を避けて通ることはできません。

加えて,裁判所が「判例で決める」としても,実務上,当事者がちゃんと主張する必要があります。裁判というのは究極の自己責任の世界です。そして,裁判所は,公平性の観点から,一方当事者のために詳しく調査をしてくれません
「本人訴訟でOK。裁判所はきっと,公平に判断してくれますよね?」なんて質問を受けることも最近増えましたが,それは逆です。
裁判所は公平に判断します。公平に判断するからこそ,あなたの法律上,事実上の主張を勝手に補充したり,善意解釈してくれません

裁判所は公平に判断するからこそ,本人訴訟には上記のリスクがあります。
公平に判断するから本人訴訟でOKということではなくて,公平に判断するからこそ,本人訴訟にはリスクがある,ということです。

大きな差のついた裁判例をあえてあげると,
性的悪口,氏名住所,顔写真の投稿,本人訴訟→1件当たりで3万円
性的悪口→1件当たり100万円超
みたいなケースもあり得ます(念のため,欠席裁判ではありません。)。

別に本人訴訟は絶対ダメ,とはいいませんが(おすすめはしません。),せめて,相談には行きましょう。

本日より,改正司法書士法が施行されました!
改正点はいろいろありますが,一番大きいと個人的な事情で一番思っているのは,1条の改正です。

新司法書士法1条では,司法書士の職責,使命を明らかにしています。
他の士業法に倣ったものですね(・∀・)
司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。 

ネット上では,法律問題について匿名で質問できる,そして匿名(弁護士も,それ以外の者も含む)の答えが戻ってくる,という場所が多くあります。

よく弁護士からはいわれていることですが,「唯一のアドバイスは,ここで質問をしていないで,早く弁護士に相談に行くべき」というものです。 

もちろん,こういうQ&Aサイトも集合知の一種ということで,役に立たないことがないではありません。
しかし,なにかされるかも,という不安を超えて,具体的に請求を受けているというのに,未だにネットで,資格者かどうかどころか,誰が書いたか解らないような怪情報をかき集め続けるということは珍しくありません

私の経験上も,最初の時点で弁護士に相談していれば,お金を1円でも払うどころか不安になる必要すらなかったのに,対応を間違えて大金を支払うことになったり,さらにその段階でも,まだ弁護士を付ければ,元通りは無理でも,なんとかなるのに,それもしない,ということはしばしば目にします。

では,どうして,オウンゴール,にっくき自分の敵対者に色々献上する結果になるのに,弁護士には相談せずにネットで質問を続け,情報を集め続けるのでしょうか。

この理由として,弁護士の敷居が高い,お金がかかる,という指摘があり得ます。
この要素もゼロではないですが,匿名の情報をかき集めるのも大変ですし,今は無料相談もありますので,これだけでは説明は難しいのではないかと思います

やはり,一番の原因は,都合の良い情報だけをかき集めることができる,ということにあるのではないでしょうか。 
エコーチャンバーといって,同じ意見の人ばかりの中で意見交換をして,その意見が唯一無二の真理のように思ってしまう現象があります。
特に法的紛争は,双方が正しいと思っていますから,「自分が正しい。だから自分にとって都合の良い情報は真実であり,都合の悪い情報は真実ではない。」という思い込みをしてしまう下地があるといえます。

すなわち,ネットのQ&Aサイトや掲示板で,法的紛争について質問をし,答えが戻ってきたり,それを閲覧する人の心情としては,

自分に都合の良い情報→やっぱりそのとおり!ネットde真実に目覚めることができた!やっぱり専門家(弁護士)よりすごい!もっともっとネットde真実の法律情報を集めて準備するぞ!

自分に都合の悪い情報→これはデマだ!たぶん,相手方・敵方の情報工作に違いない!陰謀団の秘密工作員には騙されないぞ!ネットde真実に目覚めた私には通用しない!

というものがあると思われます。

一方で,弁護士に相談をする場合は,まさか,「回答が自分の思い通りではない!だから,この弁護士は相手方から派遣されてきたスパイに違いない!」みたいな思い込みは,そう簡単にできません。

専門家は,ウソの気休めで喜ばせるのが仕事ではなく,相談者の将来を予測し,その利益を最大化し,不利益を最小化するのが仕事です。ですから,不利な要素も率直に話します(下手に不正確なことをいって受任してもトラブルになるのが関の山だからです。)。

そうすると,上記の様な思い込みをする「逃げ場」がなくなってしまうので,相談を忌避してしまう,ということもありそうです。 
ネット上の表現トラブルにおいては,当事者双方がネットに親和性があるので,こういう状態に陥りやすい傾向があると思います。
参考: ネット投稿者の責任についてのまとめQ&A(+ネット上の誤解)

最初に一言でまとめると,現在検討されている発信者情報開示請求制度の改正については,権利救済だけではなくて濫用・悪用にも配慮しつつ,基本的には合理化して,開示がスムーズに出来る方向性を持っている,ということになります。
電話番号の開示については,省令改正だけで大丈夫ですので,これはスピーディーに進むと思います。報道によると,この夏のうちに認められそうです。

現在,発信者情報開示請求の制度の在り方,もっといえば今後の改正について,検討されています
「発信者情報開示の在り方に関する研究会」という組織で検討されていますが, 過日,「中間とりまとめ(案)」が作成されました(発信者情報開示の在り方に関する研究会 中間とりまとめ(案) )。


あくまでも,「中間」であり,「案」ではありますが,検討したところ,今後の方針として,おそらくはこれと大きく異ならないのではないか,と思いますので,以下にまとめました。

弁護士向け,というよりも,個人向け(発信者情報開示請求を検討している方,あるいは,されている,もしくはそのリスクのある方)です。
なお,以下は,上記のとりまとめ案を独自に解釈したもので,あくまで私の解釈によるものです。念のため。
  1. 現状について, 匿名の違法投稿の問題もあるが,発信者情報開示請求を悪用する者もあると,双方の問題を認識している。
  2. 特定が困難であること,可能であっても負担が大きいことを問題視し,それの改善をめざしている。
  3. 電話番号の開示を認める方向である。
  4. ログイン型(記事投稿においてIP等を記録せず,ログイン時のみ記録する形式)サービスにおいて,ログイン情報の開示を認めるかは裁判所の判断が分かれている。そこで,これの開示を明文で認める方向で検討する。
  5. 発信者情報開示請求は裁判手続きが必要である。これは発信者情報開示請求の負担を大きくさせるものである。そこで簡略化も検討すべきである。しかし一方で,発信者の権利を適正に保護するため,それなりの手続きは要求するべきである。
  6. 5の帰結として,裁判所における新たな裁判(通常訴訟,民事保全)以外の手続き(新開示手続き。なお,研究会の用語ではない。)を作る方向で検討するべきである。
  7. 新開示手続きにおいては,発信者の権利はもちろん,その意見も反映される様にするべきである。
  8. 新開示手続きにおいては,現行の権利侵害の明白性の要件は緩和するべきではない,という意見が有力である。
  9. 新開示手続きにおいては,表現の自由と被害者の権利回復という両者の利益を適切に確保できるような設計をするべきである。
  10. 恫喝訴訟(スラップ訴訟)への悪用にも配慮するべきである。
  11. ログの保存義務について,一律に保存義務を課すことは適切ではないという意見が有力である。
  12. ログの保存義務について,申し立てにより,必要な範囲で迅速に保全しておく,という手続きは検討するべきである。
  13. 海外事業者への開示請求は困難だが,これは,新開示手続きを海外事業者にも使える様にして解決するべきである。
  14. 裁判外の任意請求においても,開示を促進するために,ガイドラインの整備が有益である。しかし,プロバイダが安易に開示に応じるようにするべきではなく,プロバイダが誤って開示した場合に,その責任を免除するべきではないという意見が有力である。

法律が改正されました。施行は今後です。 

いろいろ改正されてはいますが,資格関係で一番大きいところを,まとめました。
海外で弁護士資格を取得して,日本で活躍,ということがますます増えるかもしれません(念のため,外国法事務弁護士では,日本国法は取り扱えません。)。 
  1. 外国法事務弁護士として登録するには,海外の弁護士資格+3年間の実務経験が必要であった。
  2. 1の経験について,原資格国での経験を原則とするが,1年を上限に国内での経験を算入できた。
  3. 2により,原資格国で2年,日本国で1年の経験で登録が可能であった。
  4. 改正法では,2の国内での算入上限を,1年かあ2年に引き上げた。
  5. 改正法により,3について,原資格国で1年,日本国で2年の経験で登録が可能になる。 

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