弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは, i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

カテゴリ: 法律

はじめに

認識していなかったから無罪という事件(話題)が、最近相次いで話題になっています。

客観的には確かに犯罪に当たる行為をしたにもかかわらず、その人に認識がないということで、無罪になる、これについては、一般の市民からは疑問の声がたくさん上がっています

そして、それは自然な感情であるといえるでしょう。

ただ、科学においては自然な感情による判断と、実際の科学的な判断、真実が一致しないことは多くあります。

そして同様に、法学、法律、法制度についても、同じことがいえます。自然な感情には反していても、よくよく検討してみると、それが合理的であり、正義にかなう、ということも実は多くあります。

そして、この「認識」すなわち「故意」の問題についても、同じことがいえます。

ここでは犯罪について、なぜ認識がないと処罰されないのが原則なのか、そして、認識がある(=故意がある。)とは一体どういうことで、どういう認定をするのか、という事についてお話ししたいと思います。

犯罪の基本:刑法に定めがある

まず、基本ですが、犯罪というのは、刑法に定められています。「刑法」という法律のほか、いろいろな特別法(ここでは、単にまとめて「刑法」といいます。)で犯罪が定義され、また刑罰が定められています。

法律に定められていない限り、犯罪ではありませんし、また、犯罪でも定められた刑罰以外の刑罰を科せられることありません。これを罪刑法定主義と言います。

認識つまり故意が必要ということも刑法に定めがある

そして、認識がないと犯罪にならないのが原則、ということについては、ちゃんと法律の定めがあります

刑法第38条には、次のように書かれています。

○刑法第38条1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

ここでいう、「罪を犯す意思」というのは、犯罪を行っているという認識、つまり故意のことをいいます。

また、「特別の規定」があればこの限りではない、とありますが、これは、例えば、自動車運転過失致死傷など、わざとでなくても不注意で処罰をする、これを過失犯といいますが、そういう規定を予定しているというものです。

故意犯処罰の原則とその帰結

このように故意の犯罪、つまり故意犯だけを処罰することが原則であることを、故意犯処罰の原則といいます。

この規定の帰結として、例えば、殺人罪で罰するためには客観的に人を殺したというだけではなく、人を殺すという意思つまり故意が必要です。あるいは、これは窃盗罪についてもいえますが、窃盗罪で処罰するためには、人のものを盗むという意思が必要です。

例えば、マネキンだと思って包丁で突き刺したんだけれどもそのマネキンが、本当は人間だった場合には、殺人罪で処罰することはできません

同様に、「ご自由におとり下さい」という事で、自由に持っていっていいものだと勘違いして、実はそうではなかった場合にも、窃盗罪で処罰することができません。

このように、認識のあるなしで、犯罪になるかならないか、あるいは、その重さが大きく変わります。

自動車の運転で、人を引き殺してしまった場合、わざとやれば最高で死刑もありますが、そうでなければ、不注意ということであれば最高で7年の懲役ということになります。

故意犯処罰の原則は、刑法の役割からして当然のこと

では、なぜこのように、大きな違いが生じるのでしょうか。実はそれは、刑法の目的からして、当然のことなのです。

刑法の役割は、大きく2つあります。1つは、法益を守ると言う役割です。法益というのは、法律によって守られるべき権利、利益といった意味です。例えば殺人罪であれば人の命を守るために存在します。

これはどういうことかと言うと、犯罪を犯すと処罰されます。処罰を受けたくないのであれば、犯罪をしないということになります。要するに、刑罰によって人を警告しあるいは威嚇して、犯罪から遠ざけようとする機能が刑法にはあるのです

次に、自由を保障するという機能も刑法にはあります。

最初に、刑法(なお、特別法含むのは上記の通りです。)で定められていなければ犯罪にならない、ということをお話ししました。

これは逆に言えば、刑法で書いていなければ、少なくとも犯罪にはならない(民事上の賠償責任とか、行政処分はあり得ます。)、という意味で、その範囲で自由が保障されるということがいえます。

自由な社会とその発展のためには、自由が保障されていることが重要です。

したがって刑法は、定められていない部分において、自由を守るという機能を持っています。

そして、この2つの機能からすれば、認識がない行為、つまり故意がない行為を処罰するというのは、意味がないし、むしろ有害である、ということがいえます。

なぜ、故意犯処罰の原則が刑法の機能から当然といえるのか

最初に、法益を守る機能の視点から考えています。

そもそも刑法は、刑罰を予告して警告して、威嚇して犯罪から遠ざけようとするものです。

これは、例えば立入禁止の立て札のようなものです。

実際に立入禁止かどうかは、地面の色が変わっているわけでもなければ、わかりません。

しかし、立て札があることで、そしてそれを現に見ることで、ここに入ってはいけないということが認識できます。

つまり人間は、当たり前のことですが、禁止されているということを認識していなければ、それを守ることができないのです

別の例として、他人に荷物を運ぶことを依頼されたとしましょう。

これが、例えば覚醒剤であるとか、特殊詐欺の被害品であるとか、あるいは爆弾であれば、罪に問われることになります。

もしそれを知っていれば、処罰されないために、それを断ると言うことになります

一方で、それを知らなければ、断るというところまで、考えが及びません。つまり、認識のない行為を処罰したところで、人間は、そういう行為を回避するようにならない(つまり、刑罰の威嚇がきかない。)ので、意味がないのです。

自由を保障する機能という点から見ても、同じことがいえます。

自分が認識していない、あずかり知らないところで、自分の行為が犯罪になるとすれば、人は怖くて行動などできません。

例えば、お店で包丁を売る場合でも、この人がこれから人を殺すために包丁を買うんだと言うことを知っていながら、あえて売ればそれは殺人の幇助になります。

ここで、それを知らなくても殺人の幇助になる、ということになれば、いちいち詳細に確認しなければならないですし、仮に確認しても、巧妙に隠されてしまえばそれまでです。

そうなると、怖くて、商売などできたものではありません

このように、刑法の役割から考えれば、認識のある、つまり故意の行為だけを処罰すれば、基本的には必要にして十分です。ごくわずかな例外で、過失つまり不注意を処罰すればそれで足りる、ということになります。

逆に、認識がない行為、つまり結果的に犯罪ということがわかれば、後付けで処罰されてしまう、という制度を作ったとしても、それで溜飲を下げる人はいるかもしれませんが、刑法の役割からすると、社会を犯罪から守るとか、あるいは自由を保障するとか、と言う観点から全く関係がなく、有害であると言うことになります。

故意はしらを切れば否定されるというものではない

それでは、次に問題になってくるのが、「そうはいっても、認識がなければ処罰されない、ということになれば、しりませんでした、わからなかったと、しらを切ればそれで済むのではないか。それは不当ではないか。」ということです。

結論からいうと、そんなことありません。

認識つまり故意というのは、わざとやる、あるいはそうなっても構わないという認識、心理状態のことをいいます

そうなりますと、これは頭の中の事ですから、外から見てもわかりません。

では、実際にどのようにそれを認定するかというと、客観的な行動など、種々の事情から認定をしていくことになります

例えば覚せい剤の密輸であれば、高額な報酬を約束されていたとか依頼の状況とか、あるいは殺人の故意、つまり殺意であれば、武器を使ったとか使ってないとか使い方であるとか、攻撃をした場所とか、そういうことから認定することになります。

実務上も、単にしらをきればそれが通じるとか、そんな単純な話ではありません

まとめ

さて、この問題については、認識がなければ無罪放免か、という素朴な感情の問題、そして認識つまり故意に関する事実認定の方法など、複数のトピックが絡んできます。

複数の論点がある問題については、ネットでの議論というのは混迷しがちで、現に誤解に基づく批判や議論などが繰り広げられています。

疑似科学とか、インチキ治療法が蔓延するのと同様に、素朴な直感による結論と、専門分野における結論、というものは、必ずしも一致しません。

まずは、立ち止まって、問題をよく分解して考えることが大事ではないか、と思います。

「使えない」上司に責められ…退職代行、私が頼んだ理由 「会社辞めます」怖くて言えない

基本的に個別具体論ということになります。

一般論としては、弁護士的には、非弁の「疑い」レベルの業者でも、これに協力することは、弁護士職務基本規程に違反することになりますので、注意が必要です。
協力したり、顧問弁護士に就任する場合は、適切かつ十分な検討が必要になるでしょう。


結構反響があって驚きました。
実際問題、弁護士ドットコムニュースの法律に関する報道は、非常にクオリティが高いと思います。
司法といえども、市民社会の批判を常に受けてその正当性が検証されるべきです。
ところで、今の大手メディアは、そういう検証に必要なクオリティからはるかに遠い報道も多いので、残念です。
(・∀・;)

最近、ネット投稿について、投稿された人から、あるいは投稿した人双方から、よく相談を受けます。

いずれも、弁護士に相談前によくお調べになっているようで、多くの場合、話はスムーズです(念のため、そんな予習しなくてももちろん相談は問題ありません)。

ところが、最近は、インターネットの投稿で名誉棄損されるなどの被害にあった場合の慰謝料額や(支払いを請求できる)弁護士費用の関係で、やや誤解があるようなのでちょっとここで補足して解説しておきたいと思います。

1.慰謝料制度について

まず、日本の法律制度では、慰謝料というのは、その精神的苦痛を慰謝(見合う?癒す?)するのに足りるような金額、ということになっています。
ただ、これはある意味でフィクションでありまして、例えば、本人の死亡の慰謝料や親族の死亡の慰謝料は、いくらお金をもらったところ慰謝しようがありません。
と言うことでこれは、一種の擬制、フィクションであると考えてください。

2.慰謝料金額を決めるもの

さて、この慰謝料の金額というものは、当たり前ですが、その精神的な苦痛に比例します。
したがって精神的な苦痛が大きい事案ほど、その金額も大きくなります。逆もまた然りです。
ただ、これは主観的なものではなく、客観的に判断することができる範囲で、ということになります。

そして、ネットの投稿による被害については、ちょっと誤解を生じやすいところもあります。
この場合の精神的苦痛というのは、そういう投稿をされたことによる苦痛です。もっと言えば、自分がそういう投稿を読んで、自分自身が傷ついたというのは、一定程度考慮される可能性はあるかもしれませんが、基本的に基準となるものではありません

具体的にどういったものが基準になるかというと、第三者つまり一般読者がそれを読んで、どの程度の、どういう気持ちを抱くかによって決まります。つまり、基準は、書かれた人間が読んでどう思うかではなくて、一般読者が書かれた人間についてどう思うか、というのが中心となります。

3.実際の判断考慮要素

ですから、厳密には、同じ内容であれば、書かれた人間はそれを読んで同じような気持ちを抱くでしょう。しかし実際は、同じ内容であっても、誰もアクセスしない、あるいは信用性が著しく乏しいサイトに書かれた内容と、著名なニュースサイトに書かれた内容、あるいは新聞や週刊誌に書かれた内容では、同じ内容でも、被害の程度が違ってきます。
ですから、慰謝料の算定に当たっては、内容はもちろん、書かれた場所とか、書かれた人の立場とか、これまでの言動であるとか、そういったいろんな事情を考慮する必要があります。
投稿内容だけで決まるということではありません。

4.実際の金額とその問題

最終的な金額については、同種案件を多数取り扱っている弁護士にとってもその予想は極めて難しいものです。
また、残念ながら通常は、被害者が思うほどは金額が高くならないことがほとんどです。これは、ネットトラブルに限らず、慰謝料全般についても言えることです。
しかし、ネットトラブルは被害者の被害感情が、当然のことではありますが、非常に強いことが多いです。ですから、自分が望む慰謝料額と実際の裁判で認められる金額の乖離が問題になることもとても多いです。

すこし例を、それもここ最近の例(つまり最新傾向)に絞って例を挙げますと、次のようなものがあります。
とある会社の著名な製品について、専用のサイトを作ってまでひたすらダメな製品であると中傷を続けた事件で65万円、30件以上も、その業務について、客に対して暴力をふるとか、ひどいことを繰り返したなどの投稿をした事件で40万円、暴力団関係者だの逮捕されただの、犯罪者呼ばわりした投稿について36万円、さらに女性に対して、性的に乱れているとか、性産業に従事しているなど、ここにはとてもとても書けないような汚い言葉で10件以上も投稿を繰り返した件について39万円ということになっています

これらの金額は、いずれも数百万円、あるいは1000万円などの金額を請求したが、最終的に裁判所で判決で認められた金額です。

したがって、発信者情報開示請求のための弁護士費用も、損害賠償請求裁判をするための費用も、全部この中から出さなければなりません
ですから、多くの被害者にとっては、納得がいかないというケースも多くあるのではないかと思います。

5.ネット投稿における判決と和解金額の注意点

以上は、判決までもつれたというケースです。そして、私の経験上からいっても、この種事件で判決で出てくる金額というのは、和解する金額よりも低いことがほとんどです。
となると被害者としては、判決が出る前に和解をまとめる方が、金銭的には有利であることが原則であるといえます。ですから、交渉においても、その点も考慮する必要があります。
そして和解の金額というのは、判決と言う形を公になることもありません。

また、発信者情報開示請求に使った弁護士費用は、相手方に請求できると言う主張があり、実際にこれにそう判決も複数出ています
もっとも、ごく最近の裁判例、つまりここ1年位に限ってみると、この費用を否定するような見解もまた有力であり、それに従った判決も複数出ています。どちらかというと否定例が有力(ただし絶対ではありません)です。

特に、実費費用が60万円ないし70万円を超える程度になりますと、判決は実費を認めてくれない傾向があるようです。
また、弁護士との契約のやり方とか、そういったものも大きく影響します。ですから、金額と形式については、絶対に事前に、どうすれば実費が認められやすいかを弁護士と相談して慎重に決めておきましょう。その配慮を欠くと、あとで取り返すことは極めて難しいです。

6.まとめ

ネット上の法律情報、特に表現活動に関するそれは、お互いが感情的ということもあり、かなり不正確だったり、正確でも誤解を招く情報が多々あります。
特に、揺れ動きというか、傾向の変化も早いので、弁護士向け書籍に活字になっている情報が、もう古くなっている、その古い情報で助言をされてしまうリスクもあります。

また、実際には双方の主張次第という側面もあり、なかなか予想が難しい問題です(私の経験上も、事業上の重大な損害が生じたので賠償金300万円程度を主張された事案で、きめ細かく反論したら判決では数万円になったという事案もあります。)。
ですが、安易に、投稿で200万円取れるとか、弁護士費用も別に取れるとかそういった言葉を信用するのは、後で弁護士との間でトラブルになりかねないので、注意が必要でしょう。
実際に私も、相手方代理人弁護士と相手方本人が喧嘩を始めてしまったのではないか、というようなケースは度々遭遇しています。
またそうなってしまった方からの相談というのも何度も受けたことがあります。

ですから、見通しが難しいと言うと、厳しくなることもありうるという事、これらについては、ちゃんと依頼する弁護士とよく打ち合わせ議論をしておく必要があると思います。そうしないと、どちらも不幸になってしまう、ということもあります。

不要な土地というのものは、そのままですと草刈りなどの維持管理費もかかります。

また、処分しようにもそう簡単に引き取り手は見つかりません。「負動産」なんて言葉もあるくらい、悩ましい存在になることがあります。

今回は、そういう問題に対する国の施策について解説します。

以下は、淺井健人弁護士(東京弁護士会)からの寄稿です。

 

1 財務省の動き

不要な土地・建物、国に寄付可能に 財務省検討

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42380600S9A310C1MM8000/

 

これまで、財務省は、土地等の寄付は原則として受け付けていませんでしたが(https://www.mof.go.jp/faq/national_property/08ab.htm)、骨太の方針2018(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/2018_basicpolicies_ja.pdf)でも掲げられた所有者不明土地への対策のために、動き出したようです。

 

2 法律改正の動き

所有者不明土地への対策のためには、民法等の改正も必要になることから、民法及び不動産登記法について、平成31年2月14日に法制審に諮問がなされ(http://www.moj.go.jp/content/001284667.pdf)、2020年までに急ピッチで改正がなされる見込みとなっています(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shoyushafumei/dai2/schedule01.pdf)。

法制審の準備としてなされていた登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会では、最終報告(https://www.kinzai.or.jp/uploads/touki_houkoku_20190228_1.pdf)では、所有者不明土地への対策のために、


相続登記を義務化するか、

義務化した場合に罰則等を設けるか、

義務化した場合に相続登記へのインセンティブ(登録免許税の減免等)を付与するか、

土地建物の放棄を認めるか、

認めるとしてどの範囲で認めるか、費用負担を求めるか


といったことも検討されていました。

 

3 まとめ

売却できない固定資産税だけかかる負動産を相続等で取得された方としては、今後、不要な土地建物の寄付が認められる場合には、どの範囲で可能となるのか、費用負担付となるのかといった点は、注目されるところです。

相続登記をされていない方にとっては、相続登記が義務化されるのか、罰則等が設けられるのか、相続登記へのインセンティブが設定されるのかといった点は、注目されるところです。

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