最初に一言でまとめると,現在検討されている発信者情報開示請求制度の改正については,権利救済だけではなくて濫用・悪用にも配慮しつつ,基本的には合理化して,開示がスムーズに出来る方向性を持っている,ということになります。
電話番号の開示については,省令改正だけで大丈夫ですので,これはスピーディーに進むと思います。報道によると,この夏のうちに認められそうです。

現在,発信者情報開示請求の制度の在り方,もっといえば今後の改正について,検討されています
「発信者情報開示の在り方に関する研究会」という組織で検討されていますが, 過日,「中間とりまとめ(案)」が作成されました(発信者情報開示の在り方に関する研究会 中間とりまとめ(案) )。


あくまでも,「中間」であり,「案」ではありますが,検討したところ,今後の方針として,おそらくはこれと大きく異ならないのではないか,と思いますので,以下にまとめました。

弁護士向け,というよりも,個人向け(発信者情報開示請求を検討している方,あるいは,されている,もしくはそのリスクのある方)です。
なお,以下は,上記のとりまとめ案を独自に解釈したもので,あくまで私の解釈によるものです。念のため。
  1. 現状について, 匿名の違法投稿の問題もあるが,発信者情報開示請求を悪用する者もあると,双方の問題を認識している。
  2. 特定が困難であること,可能であっても負担が大きいことを問題視し,それの改善をめざしている。
  3. 電話番号の開示を認める方向である。
  4. ログイン型(記事投稿においてIP等を記録せず,ログイン時のみ記録する形式)サービスにおいて,ログイン情報の開示を認めるかは裁判所の判断が分かれている。そこで,これの開示を明文で認める方向で検討する。
  5. 発信者情報開示請求は裁判手続きが必要である。これは発信者情報開示請求の負担を大きくさせるものである。そこで簡略化も検討すべきである。しかし一方で,発信者の権利を適正に保護するため,それなりの手続きは要求するべきである。
  6. 5の帰結として,裁判所における新たな裁判(通常訴訟,民事保全)以外の手続き(新開示手続き。なお,研究会の用語ではない。)を作る方向で検討するべきである。
  7. 新開示手続きにおいては,発信者の権利はもちろん,その意見も反映される様にするべきである。
  8. 新開示手続きにおいては,現行の権利侵害の明白性の要件は緩和するべきではない,という意見が有力である。
  9. 新開示手続きにおいては,表現の自由と被害者の権利回復という両者の利益を適切に確保できるような設計をするべきである。
  10. 恫喝訴訟(スラップ訴訟)への悪用にも配慮するべきである。
  11. ログの保存義務について,一律に保存義務を課すことは適切ではないという意見が有力である。
  12. ログの保存義務について,申し立てにより,必要な範囲で迅速に保全しておく,という手続きは検討するべきである。
  13. 海外事業者への開示請求は困難だが,これは,新開示手続きを海外事業者にも使える様にして解決するべきである。
  14. 裁判外の任意請求においても,開示を促進するために,ガイドラインの整備が有益である。しかし,プロバイダが安易に開示に応じるようにするべきではなく,プロバイダが誤って開示した場合に,その責任を免除するべきではないという意見が有力である。