「ネットで相談してる場合じゃない」のに,必死で食い下がる人,よくあるケースです
特に,ネット上の表現トラブルにおいて,そういうケースが多いと感じています。

ところで,私はこの問題,「ネットで相談してる場合じゃないのにネットで相談を続ける」というよりも,ネットで相談してる場合じゃないくらい,状況が悪化,不利な立場だからこそ,ネットで相談を続ける」という側面もあるのではないか,と思っています。

ネット上の相談というのは,通常の法律相談,対面はもちろん電話と比べてもですが,決定的に違うところがあります。それは,相談者は質問をするだけであり,相談者自身は質問をされない,ということです。

ですから,相談者は,自分が聞きたいことだけを聞きますし,事情も話したい事だけを話します
そして,多くの法的紛争に共通することですが,みんな,自分が正しいと思っています。自分が正しいから譲歩はしない,だからこそ,紛争になる,というわけです。
ところが,自分が正しいと思っているのに,自分の意向に沿わない回答を受けると,それは嘘だ,と信じたくなります。甚だしくは「この回答は,自分の相手方の弁護士,あるいは,類似する事件をやっている弁護士による工作だ。私がネットde真実に目覚めることを妨害している!」と思い込んだりします
笑ってしまうような話ですが,実はそこまで珍しいことではありません。

そして,そういうことを繰り返すと,自分に不利な事情を把握することになります。自分にはこの事情があるから不利な回答を弁護士にもらう,だから,そのことは黙っていよう,というわけです

自分に不利な事情を黙って,有利な事情だけを話して質問すれば,基本的に自分の意向に沿う回答を得ることが出来ます。
不安な,特に訴えられている,請求を受けている立場としては,そういう回答を集めたくなる心理は,自然なことであり,やむを得ないものではあります。ですが,それでは問題は解決しないどころか,それに頼ることは,状況を悪化させる原因にしかなりません。

一方で,実際に弁護士に相談をする,面談はもちろん,電話でもですが,自分が聞きたいこと,つまり望む結論だけが聞けるとは限りません。また,自分にとって不利な事情も質問されれば答える必要があります。
そうなると,結局,自分が望む答えが出てこない可能性も高いということになります。

そういうことに,薄々気づきながら,「ネットde(自分に都合がいいだけの)真実に目覚めよう。画面の向こうには沢山の味方がいる(はずだ)。」という精神状態になってしまうのかもしれません。

ですが,これは病気でもそうですが,不安が強いからといって,自分に都合の良いだけのデマにすがりついても,デマと心中するのが関の山です。「画面の向こうの味方」は,あなたを自分に投影しているだけで,「お前は大丈夫。(だから俺も大丈夫だと信じたい)」というだけで,決して,最後まで寄り添ってくれません

ネットde真実に目覚めるよりも,専門家で現実に気づくことが大事です。それが,よりよい結果に結びつきます。