約2年ぶりの単著です。テーマは,インターネット上の権利侵害,表現トラブルについてです。弁護士向けの専門書です。
この分野については,削除請求や発信者情報開示請求について,非常に素晴らしい書籍が多数出ています。

ただ,実際に開示請求をするべきかどうか,見通しはどうか,あるいは賠償金はどうなるか,特に開示請求の弁護士費用実費が認められるかどうか,交渉はどうするべきか,賠償請求の裁判で主張立証すべきは何か,という点については,発信者情報開示請求本体ほどには,あまり書籍で解説がされていなかったように思えます。

また,私はネットに書かれた側の弁護をやっていますが,実は書いた側の弁護もかなり多数,遠方の方も含めて行っておりまして,その中で,判決だけではなくて和解の相場についても,いろいろと思うところがありました
更に,請求者について,本来は賠償請求する権利があるにもかかわらず,請求方法が不適切ではないか,そのせいで本来得られるはずの賠償金を得られないということになってしまったのではないか,と感じるケースにも遭遇してきました。
逆に,スラップ訴訟(恫喝訴訟)に近いのではないか,と疑問を感じるケースにも接したことがあります

また,書き込んだ側の弁護をしている中で,相手方(書かれた側)の賠償金についての期待が高いせいか,思うように弁護士とコミュニケーションが取れていない,甚だしくは弁護士とトラブルになっているのではないか,というケースにも複数遭遇してきましたケースによっては,余りに恫喝的な賠償請求をするせいで,弁護士と依頼者が共同炎上(共炎)してしまったのではないか,というケースもあります。

他にも,和解に応じないと弁護士会照会で得られた情報を公にするぞと予告したり(もちろん,この情報は目的外使用禁止です。),子どもへの危害を予告するかのような言動をするといった,請求する弁護士の言動も問題ではないか,と感じるケースも多々ありました

おそらく弁護士がこういう言動をしてしまうのは,受任時の説明が不十分なせいで依頼者とのトラブルが生じていることが原因ではないか,と思っています。

これは,書かれた側,書いた側,どちらについてもいえることですが,ネットトラブルの法律問題というのは,ネットで法律情報が手に入りやすい。その中で,書き込まれた側は「何百万円取れて当然!」という情報ばかりつまみ食いし,逆に書き込んだ側は,「少ししか取れない!弁護士費用実費は取れない!こんな事件をやっている弁護士は三流!ネットで真実に目覚めよう!」みたいな情報を信じ込んでしまっているケースがあります。

実際に相談者から,そういう情報のコピーを見せてもらったこともありますが,不正確を通り越して,よくもまあこういう思いこみをするものである,どういう理由で思い込んだのだろうか興味深い,と感じました(弁護士に相談したんだけど,と枕詞があっても酷い内容だったりします。)。

そういうことで,削除請求や発信者情報開示請求について相談を受けて受任するべきかどうかの判断や,説明の注意点,頻出のトラブル,そして,開示の可否や賠償金額について,豊富に裁判例を引用してQ&A形式で解説をしました。

ここまで書いて開示が不可になることがあるのか,とか,賠償金はこの程度で済むのか,興味深い裁判例も多数盛り込んでいます。
特に,発信者情報開示請求の弁護士費用実費を認めるかどうかは,一大論点ですが,裁判所の判断を分けたポイントについても考察を加えています。

また,類書にあまりない試みとして,和解金額の実際であるとか,発信者情報開示請求に係る意見照会書の意味あいとか,記載内容とか,開示請求に与える影響とか,そのあたりについても踏み込んで解説しています。

投稿により被害を受けたケースはもちろん,逆に責任追及をされている事件の処理の役に立つものと考えています。

(・∀・)おかげさまで,非常に好評を頂戴しています!!