弁護士をやっていると,争い事を扱うということがあります。というか,それはしょっちゅうです。
そして,争い事ということになると,話し合いで決着がつかないのであれば,裁判で解決することになります。ご存じの通り,裁判は弁護士にとってよくある仕事です。

ところで,裁判になるのは,お互いに言い分が違うからです。
そうなると,単なる記憶違い,ということ等は別として,基本的にどちらか一方が嘘をついている,ということになります

そういうわけで裁判では,争いのある事実は,証拠により認定しないといけません。裁判当事者は,自分の言い分が認められるように,頑張って証拠を提出するわけです。

さて,やはり証拠として強いのは書類です。客観性があるからです。契約書であるとか,領収書とか,報告書とか,あと遺言書とかです。
もっとも,さほどたくさんあることではないですが,書類について,嘘,偽造のものが出てくることもあります

そうした場合,弁護士としては,内容の矛盾であるとかそういった点をつくのですが,そう簡単に矛盾する書類は出てきません。また,矛盾というのも主観的な問題です。
もっと客観的な点をつくことができれば,それに越したことありません

そこで大事になってくるのが,作成時期の問題です。作成時期の問題は,内容と比べて,ある程度客観的に判断しやすいので,そこから矛盾を突くことができれば,かなり有力な材料になります。

領収書や印紙等は,実は定期的にデザインが変わっています。また,一般的に書類等の作成に使われる文房具なども,内容やデザインが変わっています。
白いコピー用紙に書かれたものであればともかく,便箋や,ノート,あるいはそれらを入れた封筒,というものは,その書類の真否であるとか,作成時期を特定するのに役に立ちます

よくあるのが,その当時は存在していないデザインの印紙であるとか,領収書が使われたケースです。
またちょっと変わったところでは,文房具類が,その当時は存在しなかったデザインであるとかいうケースもあります。
実際に私も,ある封筒に入った書類の真否が問題になっているケースで,その封筒のデザインが当時は存在しないものであったため,偽造である可能性が指摘された,というケースに触れたことがあります。

他,写真であれば,当時は存在しない建物,製品が写り込むとか,そういうケースもあります。 

もちろん,作成時期の問題は,直ちにその書類の真否を決めるものではありません。
ただ,いつ作ったかどうかという根本的な部分で,間違いがあるのであれば,その信頼性は大いに揺らぐでしょう。その当事者が提出する他の書類,主張の信用性も大きく揺らぐことになりかねません

また,いつ作られたかが,書類の価値において重要な意味合いを持つ場合には,なおさらのことです。例えば遺言書が,その遺言者の死後の時期に書かれたものである,というような証拠が出てくれば,それはかなり信用性が低下する(というより,遺言書であれば,それは偽物,ということになるでしょう。)ということになるでしょう。

この辺,弁護士は鑑定人ではありませんので,すぐに間違いとか,おかしいところに気がつくわけではありません。
ですが,例えば,印紙についてはデザインの変更があるとか,文房具類については,業界団体があって,それに聞けば,このデザインの製造時期はいつであるとかわかるとか,そういう引き出しを持つ,気がつかなくても・気が回る,というのが弁護士にとって大事な技術だ,といえます。