弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは, i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

2019年08月

弁護士をやっていると,「あいつは,こんなに悪い奴だ。だから,悪い事情を主張して欲しい。」というような希望をよくうけます。

この根底には,悪い奴だと裁判所に理解して欲しい,だから,こんな悪い奴を勝たせて欲しくない,あるいは,その人への憎悪などの感情が背後にあるのではないかと思います。

ですが,このような主張は,よく考える必要があります。

裁判では,基本的に,請求を基礎付ける事実の有無が争われます

たとえば,100万円を貸したから返せ,というような裁判で,借主の相手方がいくら悪人であると主張しても,基本はかわりがないからです。

どんな善人でも借りた100万円は返さないといけません。逆にどんな悪人でも,借りてもいない100万円を返さないといけない,ということはありません。

もちろん,悪性を主張することが必要なケースもあります。

ただ,相手の悪性の主張ばかりをしていると,法律上の正当な理由はないが,怨恨で裁判をしているだけではないか,肝心の争点について証拠がないので,悪性の主張でお茶を濁しているのではないか,ということで,逆に不利になるケースの方が多いでしょう。

気持ちとしては理解できますが,このあたりは注意が必要です。
気をつけないと,弁護士の労力を意味のないどころかマイナスの行為に使わせて,肝心の部分が不十分ということになりかねません

過払い金返還請求が隆盛を極めた時代がありました。
莫大な売上を弁護士業界(認定司法書士や広告業界も含む。)にもたらしたといわれています。

ところで,最近,何か新しい法律問題や分野が出てくると「過払い金に続く弁護士の新しいビジネスだ」と,時には皮肉を込めて言われることがあります

こういう言葉は,簡単に当てはまる,つまりは真実なのでしょうか?

結論から言うと,ほとんど全て間違っています過払い金返還請求には特別な事情があり,だからこそ,あれだけ隆盛を極めたのです。ですが,他の事件には,同じような事情がありません。

「過払い金返還請求に続く」というためには,そうだといえるためには,過払い金返還請求がなんであれだけ流行したのか,その特殊事情を知らないといけません

そして,そのような特殊事情が,その「過払い金に続く弁護士の新しいビジネス」とやらにも当てはまらないといけません
あらゆる問題にいえることですが,分析するには,段階を踏んで分析的,論理的に検討する必要があります。

(事業者ではなく)一般市民,個人から弁護士が(金銭を請求する立場で)事件を受けるには,次のような大きな「壁」があります(念のため,これらに限られませんが,大きなものは以下のとおりです。)。
  1. 弁護士費用が支払えること
  2. 弁護士費用を支払う動機があること
  3. 事件について勝訴の見込みがあること
  4. 事件について,勝つだけではなくて金銭的評価につながる充分な証拠があること
  5. 相手方に支払いをする能力があること
  6. 相手方に強制執行をすることが容易であること
  7. 以上について見通しを立てられること
すくなくとも,金銭の支払いを請求する側に限ってみても,このような壁があります。かような事情がないと,一般市民は弁護士に依頼をすることを決断することは困難です。

まず,1についてみると,そもそも弁護士費用が用意出来ないと,法テラス等の例外がないと,依頼することは困難です。

次に,2ですが,支払いが可能であっても,その支払いが合理的であること,つまり,依頼者に支払いをする動機が必要です。お金があっても,費用対効果の問題などで,支払って依頼を決断するところまでいかないことは珍しくありません。

3はイメージしやすいと思うのですが,裁判で勝つ見込み,つまり,法的,事実上,証拠上,こちらに勝訴の見込みがないといけません。

4ですが,勝訴しても,充分な金銭的評価につながらないといけません。ネットの投稿事件などではよくあるのですが,(とある「工夫」をしないと)100万円近い弁護士費用を費やして賠償金が10万20万円というケースも珍しくありません

5については,ない人からはとれない,ということで,相手にお金がある必要があります。

6については,お金があっても,強制執行つまり差押えができるかは別の問題です。強制執行しやすい事情も必要です。

7について,以上,これだけの条件があっても,実際にそれがわからないと意味がありません。これもハードルです。

以上,これらを全て満たすというケースはそう簡単にありません。

ですが,過払い金返還請求は,以上の条件を全て満たしていることが多い,希有なケースなのです(なお念のため,必ずしも全て当てはまるわけではなく,しかも過払い金返還請求が必ずしも簡単な事件というわけではありません。しっかりとやろうとするほど,かなり難しい論点もあります。過払い金返還請求は簡単すぎるというような指摘もありますが,そんなことはありません。)。

まず,1についてですが,過払い金返還請求においては,過払い金で弁護士費用を支払えますので,これを満たします。

次に2についてですが,回収後,過払い金から報酬を控除して支払う,という形式つまり完全成功報酬制ですので,依頼者に負担感が少なく,支払う動機があるといえます。

3について,充分な判例の蓄積がありますし,4の事情も相まって勝訴の見込みがあるといえます。

4についてですが,過払い金返還請求においては,証拠となるのは取引履歴です。そして,これは,請求をすれば,金融業者は開示しないといけません
さらに,そこに記載されているのは,まさに具体的な金額ですから,証拠,勝訴がそのまま金銭的評価につながります

5について,これは業者次第ですが,現在も経営しているのであれば,支払い能力はあることが通常でしょう。

6についても,法人については差押えの制限がほとんどありません。また,取引口座もわかることが通常です。更に,テクニックとして,「その業者からお金を借りている人に,過払い金債権を売却する」ことでも回収が可能です。どういうことかというと,100万円借りている人に,70万円で100万円の過払い金債権を売却する,とか,そういうものです。
借りている人は,自分の借金と過払い金債権の相殺を主張すれば,100万円の借金を70万円で返済出来る,ということになります。

そして,7について,これは関連する書籍もメーリングリストも多数あり,情報を手に入れる機会は十分にあります。


過払い金返還請求事件というのは,これらの特殊事情が大量に重なっているものであり,これは希有なケースです。

特に,取引履歴が開示されるというのは,決定的証拠がちゃんと保存されている,しかも相手から出てくるというものであり,これは中々ありません(残業代請求はそれに近いところがありますが,取引履歴ほど証拠としての価値は高くありませんし,ないこともあります。)。

「●●は弁護士の新しいビジネスだ」みたいなことをいわれるとき,なぜか●●には経済的にペイしない事件ばかり入るのが不思議ですが,とにかく,そういう言説については,以上のような実務上の事情を考慮しないと評価が出来ない,ということになります。

法律相談をやっていると,「こんな書類が来ました!」ということで,請求を受けた人の相談を,届いた書面を見ながら相談をすることがよくあります。

ところで,その中には,期限の設定があり,それが一週間以下とか,数時間(!)とか,そういったこともあります。特に短い期限設定は,弁護士がついていない案件や,OJTの機会が乏しかった可能性のある若い弁護士の案件で多いように感じます。

法律上,守らないと大きな不利益のある期限もあります。たとえば,控訴期限とかが典型です。

しかし,事実に争いがある事件で,相手方から相手の見解に基づき請求され,そのときに一方的に指定された期限については,守らないことで大きな不利益が生じることは稀です(ないわけではないです。)。

交渉段階で相手方が設定した期限を守ることが大事なのは,相手方の提案が相場より有利か,すくなくとも相場通りである場合,です。

なお,以上はあくまで原則です。交渉というのは,いろいろ事情がありますので,下手に慌てるのはもちろん,逆に高をくくって無視することなくて,すぐに相談に行くことが絶対に大事です。

ネットのデマ信じ「上申書」で出頭拒否 速度超過容疑で男逮捕

こんなニュースが話題です。

インターネットは,自分にとって都合のよい情報だけかき集めることが出来る,紛争の渦中の当事者が,みずから都合の良い法律情報を広めているなどの事情で,「インターネット上の法律情報の注意点」があるというのは,過去に取り上げました。

交通刑事事件に限らず,法律情報一般,特にネットトラブルの法律情報は,非常にデマが多いです。

そして,そのデマの影響力が大きいことも,法律相談をこなしている中で痛感することもしばしばです。

分野を限定しなくても,弁護士であれば,「私は法律に詳しい。私はネットde真実の法律情報に目覚めましたので,そのとおりにしてください。『ネットde真実』の通りにならないのはおかしい!」というような趣旨のことを言われた経験をするのは珍しいことではありません。

ぱっと思いつくだけでも「ネット投稿:発信者情報開示請求と賠償責任に関するデマと誤解」に掲載したように沢山のデマがあります。

気休めのデマと心中しないように,ご自身の問題については,なるべく早くに弁護士に相談しましょう。

内容証明郵便という郵便があります。これは,書留の一種です。
基本的なところは,「内容証明郵便の効果と活用法と注意点」で解説しました。

これは,要するにただの手紙ですが,普通の手紙と異なり,こういう内容の手紙をこちらが相手方に送った,という事実を郵便局が証明してくれる,というものです。正確には,配達の証明については別に配達証明をつけないといけませんが普通は全てにつけます。

契約の解除など,あとで言った言わないにならないようにするために,用いられます。

なお,証明の対象は,あくまでそういう内容の手紙を送った,という事実です。内容が真実になるというのではなくて,そういう内容をこちら側が書いて送った,という事実です。たまに間違える人がいるので,注意をして下さい。

法的にはただの手紙ですし,受け取った方からすれば,「手紙についてシラを切る」ということでも考えていない限りは,内容証明郵便であろうがなかろうが,(債権譲渡などの例外もありますが)何もかわりません。要するに,基本的に受け手にとっては,内容証明郵便であるかどうかは,法的にはどうでもいいことなのです。

ですが,内容証明郵便は通常はつかわない郵便です。独特の書式ですし,仰々しく感じます。
普通の人であったら,こんなものを受け取ったら多少なりとも驚くでしょう。

ついては,郵送する側,特に代理人弁護士としては,そういう心理効果も狙っていないとはいえません
また,交渉を始める合図ということで,慣例的に送るということもあります。

逆にいうと,シラを切られるリスクが低いとか,そういう心理効果が得られない場合は,内容証明郵便は手間もお金もかかりますので,つかわない場合もあります。

典型的なのは弁護士がすでについている場合で,そうであれば,基本的にシラを切られることもないでしょうし,弁護士が内容証明郵便をみて驚くということもなく(むしろ,無駄なことをする,あるいは依頼者パフォーマンスなのか,ということで,足下を見られたりするなどマイナスの効果もあり得ます。),ファクシミリで連絡をするのが通例です。

さて,内容証明郵便が届いたらどうするべきでしょうか。

もちろん,無視せずに,それを持って弁護士に相談に行けばいい,ということになります。
まずは自分で読んでみて意味を理解したい,あるいは,実務上,弁護士の内容証明郵便の扱いとか,そういうことも念頭に置いておきたい,という気持ちもあると思います。

そこで,前置きが長くなったのですが,内容証明郵便が届いた場合について,いくつか心得,アドバイスを,弁護士的に率直に(要するに少しぶっちゃけて)お話しすることにします

まず,受け取るべきかどうかですが,これは受け取るべきでしょう。
法律上,受け取りを拒否しても,一定の場合には到着扱いになるという裁判例もあります。
また,もし届かないのであれば,特定記録郵便など,書留のように受け取りをしない形式で送られます。
要するに,無視することでは,情報が得られないなど,不利なことしかありません

次に,受け取ったあとですが,(自分宛なら)速やかに開封して,よく読みましょう。

大事なのは,誰が送ってきたか,代理人は誰か,宛先は誰か(家族のものではないか?)ということです。

その上で,請求は何か,請求の前提,理由,原因となる事実は何か,それぞれ区別して読解します。

内容証明郵便の中には,請求は明らかでも,その理由がハッキリしない,抽象的に「甚大な損害」などと書いてあるだけのものもあります内容証明郵便では,書いていないことこそポイント,相手の弱点であったり,交渉の重要点だったりしますので,その点を意識します。

その上で,相手方に交渉の意思があるのかどうか,そういう点も確認します。
中には,金銭であれば支払い方法など相談に応じるというようなことが記載されている場合もあります。
もちろん,交渉が妥結するとは限りませんが,それも大事なポイントです。

そして最後に,個人的に経験上,かなり大事だと思っているのは期限の設定です。

まず,前提ですが,この期限については,たとえば契約の解除でいついつまでに家賃を払わないと契約解除であるとか,そういうケースは別格,悪いことをしたつまり不法行為をしたから金を払え,あるいは,貸しているお金を返さないから返せ,というような期限については,法的に守る義務は(すくなくともその期限は)ありません。内容証明郵便の期限は絶対ではないことのほうが多いのです(でも,そうでないこともあるので,絶対に期限までに弁護士に相談して下さい。)。

家賃であれば,それを過ぎると契約解除ということで,追い出されるリスクもありますので,大事です。
ですが,それ以外の,つまり圧倒的多数,契約が背後にない場合であるとか,あっても,貸金などすでに返済期限を過ぎている場合は,内容証明郵便の期限の意味はさほど大きくありません。

不法行為(物を壊したとか怪我をさせたとか,ネットであれば違法投稿とか)であれば,そもそも支払期限は,その事件の日ですから,内容証明郵便がきた時点では既に過ぎています

よく,どうしても守らないと,と,気になさる方が多いのですが,実はそうではないことが多い,ということです。

それより大事なのが設定された期限の長さです。

期限が短ければ相手は弱気,長ければ強気という傾向が,確実はいえませんが,かなりそういう傾向があります

期限を短くするのは,相手方の不安をあおり,早めに,できれば弁護士から充分な助力を得る前に従わせようという狙いがあることがしばしばあります。特に1週間ないしそれ以下であれば,その傾向が強いでしょうかなり威勢が良くても,口だけで裁判をする気が無いことも珍しくありません

2週間であれば標準ということになります。ここから何かを読み取ることは難しいです。

一方で3週間ということであれば,これはかなり強気の可能性もあります。じっくり検討されたところで請求の正当性は揺らがないこと,裁判でも勝てそうではある,希望が通りそう,というケースです。

ならば,慌てさせる必要はありません。そして,勝てるとわかっている裁判ほど無駄な裁判はありません。結論が同じなら,裁判外で,よくよく考えて貰って,こっちが譲歩しても任意に払って貰った方が,安く早く済むからです

なお,期限を過ぎると,即刻提訴だと書いてあって,だから守らないといけない,と感じる方も居ます。

もちろん,期限が過ぎることには,交渉を打ち切られるリスクがあります。ただ,相手にとっても,せっかく内容証明郵便で請求しているのに,それを打ち切るのはコストだし,リスクでもあります。

ですから,期限徒過=直ちに交渉打ち切りで提訴ともいえないのが実情です。

特に,一度期限が徒過しても,そのあとも期限を再設定するとか,そういうケースでは提訴を避けたい事情が裏にある事もあります。一度の連絡毎に期限を設定するケースなどもそれがいえます。

次に文面についてですが,いわゆる強気,威勢の良い文言については,相手方の自信のなさの現れであることも少なくりません

期限を1週間以下にし,至急,即刻提訴だの,威勢のいい文面が踊っているケースほど,実際は提訴もしてこないというようなケースが多くあることを感じます

また,内容証明郵便に限らず,最初の請求で,余りに威勢をよくしすぎる,過大ないし恫喝的な表現を使うと,まとまる話もまとまらなくなってしまいます。これは,むしろ,交渉の上手い下手の問題といえます

ケースによっては,「こんな恫喝的な文書が来た」ということで,ネットに晒されて(もちろん,これは別に不法行為になり得ます。),依頼した請求者と弁護士が共々炎上してしまう(ネットトラブルにおける「共炎現象」と,勝手に個人的によんでいます。)こともあります

ですから,基本的には,特別の事情がない限り悪手でしょう。

以上は,これまでの経験,特にネットで連絡先を出している関係上,「いきなり請求された・訴えられた」という,「請求される側」の相談が多いところ,実情を踏まえた感想です。

もちろん,これが確実に当てはまるわけではありませんし,事件分野にもよります。少なくとも知る限り,以上の傾向は強く感じています

ただ,何事についてもいえますが,形式的な当てはめにとらわれることには要注意です。
以上のような予想を立てるのも大事ですが,その後でもいいので,とにかく早めの弁護士への相談を強くおすすめします。

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