弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは, i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

2019年01月


弁護士広告、特に振興事務所のそれは、賛否両論、あるいは厳しい目が向けられています。
でも、確実に救われた命は、すくなくはないのではないか、と思います。

もちろん、広告重視の法律事務所の事件処理には、問題のあるケースもあるでしょうが。。。 

SNSやブログを通じて積極的に情報発信をしていると、誹謗中傷などの被害を受けることは珍しくありません。
このような場合、投稿者は通常は匿名ですので、発信者情報開示請求という手続きを通じて、投稿者の住所氏名を割り出して、責任を追及するという流れになります。通常の事件と異なり、投稿者を見つけるという、ワンステップが挟まれるというのが特徴です。

このような事件類型はネットトラブルとしては、非常にメジャーなトラブルです。最近は、優れた解説書も多数出版されていますので、多くの弁護士が通常業務として取り扱っています。

請求をされた方としては、発信者情報開示請求に係る意見照会書という書類を使っているプロバイダーから受け取ることになります。この時点で、自分が責任追及されていると言うことを初めて知るということです

ところで、発信者情報開示請求は、必ず認められるというものではありません。色々と要件がありますが、基本的には、権利侵害が明白であるということの証明が必要です。どちらかといえば違法であるとか権利を侵害されたかもみたいな程度では開示されないことが多いです。
もっともこれは、プロバイダーの主張や、意見照会への回答次第というところもありますので一概にはいえません
ですが、他の事件と同様に、多数の裁判例が積み上がっており、ある程度の傾向であるとか基準といったものを見出すことはできます。

私も、この種の事件は、請求者だけではなく発信者・投稿者の側でも扱うことが多いのですが、常に裁判例等を収集して分析しています。

ところで最近、注意を要するような傾向を感じています。
というのも、以前は、開示が認められるかどうかについては、投稿者・発信者はどういう投稿したかという点だけ(つまり投稿内容だけ)でほとんど決まっていました
しかしながら最近は、請求者側の事情も考慮する、特に言動については考慮するという傾向が強くなっているように感じます

目につくのは、中傷、名誉棄損にあたりそうな表現をされていたとしても、そのされている側つまり請求者側が、日常から辛辣な言動をしている、他人に対して厳しい表現をしている、批判をしているという場合には、違法性を否定する、というものです。

これを、大雑把に言ってしまうと、普段から辛辣な批判とかを自分がしているのであれば、同じようなことを他人からされたとしても、それについて違法性を主張すべきではない、ということになります。
要するに、乱暴にいえば、どっちもどっちであり甘受すべきであるというような話です。私は、これを勝手に、甘受基準と呼んでいます。
典型的には、辛口の批評家が、その業務である批評の内容について、辛辣な批判を受けた場合、一定程度甘受すべき、というようなケースが考えられます。 
 
もちろん、このような理論には、妥当性に疑問がないわけではありません

名誉棄損の法解釈を従前通りインターネットに当てはめてしまうと、表現の自由の観点からはやや問題が起きそうなケースもあります。そこで裁判所は、その微妙な調整を、特に名誉棄損の従来の法理を大きく変更することなくするために、このような考え方を持ち出したのかもしれません。

そういうことで、ここでの教訓としては、SNSなどで積極的に発信する場合には誹謗中傷の被害などにも警戒すべきだということ、それについて的確に被害回復・責任追及を図りたいのであれば、言動については自分自身も慎む必要がある場合もあるということ、それをしないのであれば、ある程度の強い批判については、甘受すべきであろうということではないでしょうか。
また、そういう立場で発信者情報開示請求をするのであれば、提訴の段階から(訴状というのは、裁判所に事件に予断を持ってもらえる最初で最後のチャンスです。)、これを意識した主張立証をすべきでしょう。 

一方で、発信者情報開示請求を受けた人としては、この点を考慮して、相手方の言動についても主張立証していくという必要があるでしょう。ただ、この点については、不要な主張立証をすると逆に自分にとって不利になるということがよくあります。
かなり微妙なさじ加減が必要なところですし、一般に想像されているルールと、実際の名誉棄損のルールはかなり乖離のあるところですので、できれば弁護士に相談した方が良いでしょう(上記の話も、単に、辛辣な言動をしていれば適法化されるとか、そこまで単純ではありません。裁判例は、一定の基準をもって、問題となる投稿との関連性を検討しています。)。

自分が出した書面に、自分にとって不利な事実が含まれると、裁判は一気に不利になります


少し、反響のあったツイートですので、このトピックについて解説します。
本人訴訟の危険性については、いろいろな法曹が解説しています。私において、これに付け加えることはほとんどありません。ですから、ここでは一般的なことは語りません。

取り扱い分野の関係で、名誉棄損事件、特にインターネットを利用した名誉毀損案件については相談を受けることが非常に多いので、この分野に絞って解説します

インターネット上での名誉棄損事件については、表現者側、被害者側(なお、念のため、ここでは必ずしも違法行為の被害者という趣旨ではなくて、違法行為の被害を受けたと主張している者、という意味で用いています。)、いずれでもよく相談を受けることがあります。

経験上、本人訴訟の罠にはまってしまっているというケースが珍しくありません
もちろん本人訴訟のリスクは、名誉棄損事件に固有ではありません。ですが、他の種類の案件と比べて、ネット名誉棄損案件においては、本人訴訟のリスクは特に高いと感じています。

その理由ですが、名誉棄損訴訟における構造や特性が原因ではないかと思っています。

大きく分けて、正しいという確信の強さがもたらす誤解、そして自分は詳しいから大丈夫という誤解の2つに分けられると思います。

まず、一つ目ですが、これは、他の紛争についてもある程度共通しますが、次のようなことが言えます。

紛争にはいろんなものがありますが、多かれ少なかれ、みんな自分のほうが正しいと思っています。そうでなければ、紛争が裁判所やあるいは専門家の手に持ち込まれる前に解決している、あるいは紛争にすらなっていないからです。

しかしながら、この自分が正しいと思う気持ちにはそれなりに濃淡があります。
例えば交通事故においては、自分も少し過失があるとかそういった点について、一部の事実や評価については争わないケースもあります。
また、単にお金を貸したので返してくれ、というような案件であっても、この貸金は、ある程度返ってこないということを見込んでいた、そういうリスクも承知していた、ということで、すぐに返してくれるなら全額でなくてもいいとかそういう形式で和解がなされるということも、ありえます(もちろん、経済力や執行の難しさの影響も大きいです。)。

紛争というのはお互いが正しいと思ってはいますが、自分が100%正しいであるとかそこまで信じてるという案件ばかりではありません

しかしながら名誉棄損事件においては、少し異なります。
特に表現をした、投稿した側からすれば、その時点で、ほとんどの場合は自分の投稿がその対象になった人の名誉を傷つける、社会的評価を低下させる、そこまでいかなくても、相手はいい思いは、しないであろうという事は自覚しています。
もちろん、まさかここまで大事になるとは知らなかった、思わなかった、ということに珍しくありません。ですが、少なくとも自分の投稿を読んで相手方は気分を悪くするだろうということ、そしてそれが公開されている以上は、その人に対する評価が低下するであろうという事は皆さん、程度の差はありますが承知の上で投稿しています

そうすると、そういうことをしながらあえて投稿している以上は、そういう投稿をしてもよいと思っている、許されると思っている、ということがあります
名誉棄損事件の投稿者側としては、相手に被害を与えても自分の行為は正当化されると考えているケースが多いのです(また、実際問題として、特にインターネット上の表現においては、結果的に相手方の名誉を毀損するということになっても適法であるとか、あるいは法的な責任を問われる程度に至っていないという判断がされることも珍しくありません。そういうわけで、こう思ってしまうことも、仕方がないと言う側面もあります。)。

一方で、インターネット上の名誉棄損事件における被害者の被害感情は、かなり厳しいものがあります。他の事件類型と比べても、かなり被害感情が強いということを感じています。
インターネット上で名誉棄損されて、それで専門家に相談をする人は、やはりかなり被害感情が激しい人に限られるというのも影響してるのではないか、と思います。
このように、インターネット上の名誉毀損案件においては、お互いにお互いが正しいと思っており、かつ、その感情的対立が厳しい、ということが(もちろん、当然ながら他の事件でもありえますが、類型的に傾向が強い。)特徴であります。

そうすると、裁判は正しい者が勝つ、そして自分は絶対に正しい、だから自分は絶対に勝つ、そうでなければおかしい(だから、留保をつける助言をする専門家の言うことは信用できないに決まっていると思い込む。)、ということになります。

絶対に勝って当然であれば、わざわざコストを費やして、弁護士に依頼するまでもない、あるいは弁護士に相談するまでもない、俺は絶対に勝つともう決まっているんだから、という考えに嵌ります。

本人訴訟共通に見られる見られる現象ですが、インターネット上の名誉棄損訴訟においては、この点は特に顕著です。

次に、第2の点ですが、インターネット上の名誉棄損は、なんらかの議論の過程、問題点、トピックに関する議論や意見表明の過程で行われることが多いです(政治上の問題や、芸能活動をしている者への評価、同人創作活動などがありますが、これらに限られません。)。
そうすると「問題のトピック」についてよく知っている、自分は非常に詳しい方であると自認している、だからこそ、自分で充分に自分の正当性を裁判所で主張立証できると誤解してしまっているということが多くあります。

これが例えば交通事故であれば、専門的な鑑定などが必要とされる、専門知識が必要である、ということから弁護士に相談する依頼するという選択肢も現実的に出てきます。
ですが、インターネット上の名誉毀損においては、以上のような「俺は詳しいんだぞ」という気持ちが邪魔をして、相談に至らない、相談時点で手遅れというケースも少なくありません。

インターネットの名誉毀損は、通常の流れでは、最初に発信者情報開示請求に関する意見照会書が届き、開示後に、裁判外で請求が来て、それで交渉してまとまらなければ訴訟、場合によって刑事事件についても並行する、という流れになります
この時、照会書が来た時点で適切に対応していれば何らの責任も追及されなかったのに、あるいは、その程度は低くても大丈夫だったのに、わざわざ先行して自白するようなことをしてしまってズルズルと状況が悪くなってしまう、最終的に開示になった、あるいは請求され、訴訟を起こされた時点で相談に来るというケースもそれなりにあります。
ただ残念ながら、遅くなったというだけではなく、自分で先行して自白する(特に、発信者情報開示請求に関する意見照会書に対する回答書で、これをやってしまう人が非常に多いです。)など、不利な内容を含む書面を(知らずに)提出してしまった後ですと、なかなかリカバリーをそこからすることは簡単ではありません

特に、インターネットを色々と見てみると、インターネット上の名誉棄損トラブルについては、本人訴訟になってしまったという事例をよく見ます。
取り返しのつかないことになる前に、そしてなによりも、腹が立つ相手に(必要以上に)大負けに負けて、悔しい思いをしてしまわないうちに、早めに弁護士に相談するということをお勧めします

最近は、私もそうですが、電話での無料相談なども受け付けている弁護士などもありますので、検討してみると良いでしょう、相談したからといって、絶対に依頼する義務などあるわけはないのですから。

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