弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

2018年11月

著名人、あるいは企業が、法的措置、具体的には訴訟などをされた場合、あるいはこれからしようとする(場合によっては、それをした後)場合に、ネット上でそれを公表することがあります。

要するに、「これから弁護士に依頼して訴えます(あるいは、訴えることを検討します。)」とか「訴えられたとの報道があったので、これから適切に対応します。」などです

結論からいうと、極力、こういう発表は弁護士に依頼して、その後に弁護士の助言に基づき行うべきでしょう
理由はいろいろありますが、要するにリスクがある、不利になるかもしれないからです。

まず、裁判を起こす、起こした、当事者の情報というのはプライバシーにあたることもあります。
事案や当事者によっては、裁判を起こしたという情報を公表するだけで不法行為責任を問われる可能性も、ないではありません。

次に、訴えを予告する過程で、あるいは、訴えられた事情を説明する過程で、不利な事実をしゃべってしまう、あるいは、余計なヒントを相手方に与えてしまうリスクというものもあります

繰り返し述べていますが、自分にとって不利な事実をしゃべった場合、それはそのまま信用されてしまう、という原則があります。お金を借りていない、という話は信用できるかどうか吟味が必要ですが、お金を借りた、という話は信用されるのが通常です。要するに、人はわざわざ自分に不利な嘘はつくことは、あまりないだろう、ということからです。

弁護士として、「これから訴えます」「訴えられたけれども・・・」というような言動をネットでしている人をみると、しばしば、なんでそんなオウンゴールみたいなことをするのか、ネットで公表するのだろうと思うことがよくあります

実際に、最近も、あるゲームソフト会社が訴えられた、ということで、そのゲーム会社の広報が「お知らせ」をしているのを見ました。

そんなに長くない文章なのですが、一読しただけで、まだ弁護士に依頼や相談をしていないか、すくなくともその助言を得て発表をしていないこと(弁護士であれば絶対に間違えない手続き上の説明の誤りがあったためです。)、さらに、裁判において不利になるだろう事実が含まれていることに驚きました
私が相手方代理人であれば、証拠として保存しておき、提出を検討するレベルです。相手方の自白ほど、有力な証拠はないからです。

ですから、訴える、訴えることを検討している、あるいは訴えられた場合は、ぜひ、それを公にする前に、弁護士に相談することを強く勧めます


ということで、二弁の研修で、語る予定です(・∀・)

インターネットの普及により、誰もが手軽に情報の発信者となることができました。
それに伴い、これまで、放送業界や著述業など、プロだけが意識をすればよかった名誉権、プライバシー、著作権の問題について、一般市民も発信をする以上は意識をすることが必要になってきました。

と、こういう枕詞を、もう述べることが野暮というか、古臭く感じるくらい、市民による情報発信は普及し、あるいは常識になっています。

ここでは、著作権に関するデマ、特にネットで流布され、行われているデマについて、紹介しようと思います。

ちかく、ひょっとしたら、権利者側(無断転載の被害者)からのデマについても解説するかもしれません。

1.引用だから大丈夫
一番多いのですが、過去に解説した通り、引用の要件は、かなり厳しいです。出典を明記すればよいとか、そういうものではありません(そもそも、正確に言えば、出典の明記は引用者の義務ですが、引用の要件ではありません。)。

2.少し転載しただけだから大丈夫
よく漫画の転載である話ですが、一巻丸ごとではないから大丈夫とか、そういう話があります。
一話丸ごとであれば、基本的に引用の要件は満たさないでしょう。また、場合によっては1ページ程度でも、引用の要件を満たさない場合がありえます。
この辺りは、形式的に決められる話ではありません。

3.お金を取っていないから大丈夫
そういうルールはありません。転売目的でないなら泥棒しても良い、というようなレベルの話です。

4.苦情があれば削除するから大丈夫
そういうルールもありません。
万引きしてもばれたら商品返すから大丈夫って、ネットで言ったら袋叩きにあいそうな話と、同レベルです。

5.親告罪だから大丈夫
親告罪は、告訴されないと犯罪にならないという意味ではありません。また、それが不法行為であることとも関係ありません。
一例を挙げれば、器物損壊罪も親告罪ですが、だからといって、気軽に日常的に人の車のエンブレムを剥ぎ取っていいわけがありません(どこかの漫画の主人公がやっていましたが)。
4についてもいえますが、「ずーっと、苦情を言われなかったので・・・」ということになると、賠償額が積算されてとんでもないことになる可能性もあります。

6.二次創作だから大丈夫
これは、二つ意味があって、二次創作についても、二次創作者は著作権を有します。
ですから、二次創作を勝手にコピーなどすると、二次創作者の著作権侵害となります。
一方で、原著作者は、二次創作物についても権利を保持します。
ですから、自分が作ったといえども、それが二次創作であれば、原著作者の許可なく、公開すると著作権侵害に問われかねません。
イラストではなくてグッズだとまずいとか、いろいろな言説があるみたいですが、法的には同列です。
二次創作物の頒布等は基本的に犯罪です。訴えられたらどうとか、そういう以前の話です。
(もっとも、私はこういう規制は厳しすぎるし、ファンアートは素晴らしい文化なので、これに一定の配慮をする必要もあると思います。緩和する立法をするか、それがないのであれば、ぜひ、権利者は、二次創作ガイドラインを策定してほしいと思います。)

インターネットでは頻出の話題、論点ですが、引用と著作権の問題について、解説しました。

こちらのリンクからどうぞ
 

法律デマについては、しばしばネットで発信してきましたが、一定の傾向があるようです。

それは「悪い奴を懲らしめる」という場面で、単純明快で、形式的な行為をすれば、それで解決する、というものが、かなりウケがいいようです。

もちろん、これさえすれば、形式的な対処で万病が治る治療法がないことと同じく、法律問題についても全く同じことがいえます。

他者からの権利侵害など、法律問題でお悩みの方は、ぜひ、ネットの法律デマではなく、実際に弁護士に相談することをお勧めします。 

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