弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

2018年08月

話題だったので読みました。

基本,裁判とか司法とかの話は,「ねーよwww」とか思って白けるので面白くないので読んでいませんが,これは面白いです。

この裁判体くらい,いろいろ熱心に調べてくれるところばかりだったらいいんですけれどねぇ。

1話は,ここから読めるそうなので,是非是非(・∀・)

http://www.moae.jp/comic/ichikeinokarasu

先日,このようなツイートをしたら,かなりの反応がありました。

この「コンボ」,本当によくあります。もちろん,請求している会社側の狙いは別にあるかもしれません。また,請求が棄却されたからといって,明白に「ブラック(労働条件が劣悪である,労働法を遵守していないという会社の状況を示す言葉)」であると立証されたとも限りません

そこで,今回は,なぜどうして,そういうことが起きるのか,簡単に解説します。

1.発信者情報開示請求の仕組み

発信者情報開示請求とは,平たくいえば,ネットの投稿について,その投稿した者がだれかを突き止める手続きです。
ネットの投稿の大部分は匿名です。ですから,その投稿により,名誉権,プライバシー,著作権が侵害されても,賠償請求や差止めをすぐに求めることはできません。その加害者つまり請求先が明らかではないからです。

詳しく説明をするときりがないので,簡単に説明します(念のため,これは原則的なケースです。)。最初に投稿などがされた掲示板の管理者(これを「コンテンツプロバイダ」といいます。)からIPアドレスと投稿日時を取得する(一回目の発信者情報開示請求),次にIPアドレスから接続に利用しているプロバイダ(これを「経由プロバイダ」といいます。)を割り出します(WHOISなどのサービスで,これは簡単に分かります。)。

最後に,その経由プロバイダに,この時間,このIPアドレスを利用していた者は誰か,住所氏名の開示を求めます(二回目の発信者情報開示請求)。ここまできて,ようやく,投稿者を突き止められる,ということになります。
つまり,2回の請求が必要になるわけです。

2.発信者情報開示請求を受けた投稿者

発信者情報開示請求があった場合,連絡が可能であれば,投稿者に「発信者情報開示請求にかかる意見照会書」なるものがプロバイダから届けられます。そこには,発信者情報開示請求があったこと,対象の投稿と理由が記載(請求者の請求理由の転送ということです。)されています。そして,開示に同意するかしないか,拒否するのであれば理由の回答を求められます

つまり,発信者情報開示請求があった場合,通常は,投稿者は発信者情報開示請求の事実と理由を知ることができる,というわけです。

3.発信者情報開示請求の要件

発信者情報開示請求が認められるには,つまり,開示が認められるための要件は,基本的には「権利侵害の明白性」です。

要するに,その投稿について,請求者の権利が侵害されたことが明白である,ということが必要です。このことは,請求者が証明しないといけません

通常の名誉毀損においては,名誉権を侵害する内容であれば,その表現をした者の方で,その内容が真実かすくなくとも相当な根拠があること,そして社会の正当な関心事であることを証明する必要があります。

ですが,発信者情報開示請求においては,その証明する責任が請求者に転換されています
ですから,請求者,つまり投稿で被害を受けたと主張する側が,真実ではないし,社会の正当な関心事ではない,と証明をすることが求められます

4.発信者情報開示請求の意見照会書と3の関係

発信者情報開示請求にかかる意見照会書が送られるのは,以下の理由からです。プロバイダは投稿者ではありませんし,投稿の根拠については,投稿者しか知りません。ですから,プロバイダが開示を判断するため,あるいはプロバイダが訴えられた裁判で,勝つ(=非開示)にするためには,投稿者からの意見,証拠が裁判で反論するため必要なためです。

5.転職情報サイトにおける問題

以上をまとめると,ブラック企業情報においては,ブラック企業といわれた会社は,発信者情報開示請求において,ブラックではない,ということを証明する必要があります

発信者としては,発信者情報開示における意見書において,ブラックであるという証明をする必要はありません。ブラックではないという証明がされない程度に反論することが要求され,かつ,それで足ります

ですから,会社によっては,ブラックではないという証明が十分にできない,あるいは,一旦できても,発信者側の意見書による反論が効果的にされると,「権利侵害の明白性」を満たせない,ということで,開示請求が棄却になる,ということになります。

ようするに,ブラック企業と言われた側では,そうではないという証明をする必要があり,かつ,それは簡単ではなく,しかも,効果的に意見書で反論されると,開示が認められることは難しい場合もある,ということです。
もちろん,会社側としては,ブラックではないと証明するコツ・テクニックはありますし,逆に,投稿者側でも発信者情報開示請求に対する意見書作成におけるテクニックはありますが,以上のような事情があるのが現状です。

反響があるようであれば,裁判例(実例)を,次の機会に少し紹介,解説したいと思います。

ちょっとTwitterで反応が大きかったので,すこし関連することを解説します。
この分野に限らないのですが,法律情報には,「議論が白熱すればするほど,都合のよい法律デマが出てくる」という現象があります。
そこで,ここでは,よくあるデマ,誤解を簡単に解説します。

① 真実であれば何を書いてもよい。
→そんなことはない。真実で免責されることは稀で難しい。
② 有名人などは「公人」であり,その人達については何を書いてもよい。プライバシーも保護されない。
→ とんでもない。「公人」が一律どうであるとかそんな都合のよい法律はない。
③ 悪い人,悪事については,自由に投稿して良い。世直しだ。
本当に多いが,そんなことはない。ただのリンチである。というか,なぜそれを匿名でやるのか。
④ 違法な投稿をしている者については,自由に中傷してもよい。
→同じ穴のムジナである。暴力団同士の抗争だって処罰される。
⑤ 公開情報であれば,他の場所(=ネット)で公開してもよい。
誤解である。これについては先例になる裁判例もある。また,「「うっかり写っちゃった!?」ネット写真投稿の法律問題」も参照。
⑥ 「引用」だから問題ない。
「引用」として適法になる要件は非常に厳しい。
⑦ 苦情が出たら,やめればよい。
もう遅い。法的責任は苦情時ではなく行為時に生じる。

個人のインターネット利用のリスク問題,誹謗中傷をしてしまうとか,あるいはされてしまう,情報漏洩,悪徳商法,出会い系サイトトラブルなどについては,いろいろと講演をしたり,テレビ等で解説する機会があります。

また,数年前の書籍ですが,その「つぶやき」は犯罪です―知らないとマズいネットの法律知識―というものを,共著で出したこともあります。一般向け書籍なのに,法律文書の書式を掲載するなど,ちょっと変わったものに仕上がっています。

さて,最近のトレンドは,「特定」の問題です。先日の「サタデープラス(平成30年6月9日放送)」でも解説しましたが,写真をネットにアップすると,意図しない映り込みにより,たとえば電柱の表示から住所がバレてしまう,集合住宅だと階数がわかってしまう,などです。

最近,特に話題になっているのは,「自分の顔の映り込み」です。これはどういうものかというと,インターネットで普段匿名で活動している人が,写真をアップしてみたところ,予期せぬ形で,撮影者,つまり自分の顔が映り込んでしまう,要するに「顔バレ」してしまう,というものです。

鏡はいうに及ばず,ガラス,テレビやパソコン(特にパソコンの液晶は反射しやすいものが多いです。),プラスチック,変わったものでは,美味しそうな生卵やお吸い物(お腹減ってきました。),そこら中に「落とし穴」があります

撮影している方は,被写体に注意が向いているので気が付きにくい,でも,見ている方はそうとは限らない,だからこそ,意外に見落としがちというわけです。

こういった場合,大急ぎで削除しても,既に拡散されてしまっているということが少なくありません。

この場合の法的な問題ですが,拡散・転載をしている方は,「写っちゃった人」に対する肖像権やプライバシー侵害が認められる可能性が高いです。

これについては,「少なくとも,最初は自分の意思で全世界に公開した画像なのだから」というような反論があるかも知れません。
ですが,そもそも「写っちゃった人」は,そのような形で公開する意思はなかったはずです(この点については,黙っていないでちゃんと明確に述べておいた方がよい場合もあるでしょう。)。そして,プライバシーは自己の情報をコントロールする権利であり,肖像権についても同様のことがいえます。

ですから,原因が自分にあったとはいえ,その意思に反する形で自己の容貌を扱われるいわれはない,ということが原則になります

実際に,過去に類似の事例つまり一定の範囲での公開を許可することが,他者が勝手に更に公開することについて許可することを意味しない,という趣旨の裁判例もあります。

もちろん,以上は原則です。場合によっては,プライバシーや肖像権が制限される場合もあり得ます。
また,この種事件については,実務上,事件処理上の大事な点が他に1つあります。投稿された側,投稿した側をよく弁護することがある関係で,あえて解説には含めておりませんが,その点とは一体何か,その点をどうするべきかは,よく弁護士とも相談した方がいいでしょう

インターネット,特にSNS,その中でもTwitterをやっていると,しばしば,「こいつ(個人だったり会社だったり)は,こんな悪いことをした!拡散希望!」みたいな投稿に出くわします。

ケシカラン人はケシカランですし,そういう気持ちはわかりますが,こういった行為は,かなりハイリスクです。

人に知られたくない情報を公開することはプライバシーの侵害ですし,また,その人(会社)の社会的な評価を低下させる投稿は,名誉毀損に該当する可能性があります。
また,社会的評価を低下させる表現であれば足り,その真否は問われません。本当のことであっても,悪事は不名誉な事実ですので,名誉毀損となる可能性が高いのです。

もっとも,例外として,①真実性について相当の根拠があり,②公共の利害に関わり,③公益を図る目的があれば,適法になるということになっています。

②③はさておくとしても,①については,それなりにハードルが高いです。たとえば,食品への異物混入の場合,その証拠を保存しておけるか,といった問題があります。

また,②③も,表現の方法が人身攻撃に及ぶとか,不穏当な表現,不合理な評価をするとかで否定される事例も多々あります
投稿された側を代理する弁護士としては,結構②③もポイントであり,「ネット民」にありがちな表現の行きすぎを指摘して,②③を否定することで違法性を主張立証するというテクニックがあります。

世直しのつもりが,違法行為をするという点では同じ穴の狢,正義の鉄槌のつもりが法的責任追及の鉄槌が自分に下されることのないよう,注意が必要です

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