最近,違法捜査があったということで,無罪になったという報道がありました。
トイレ行かせず職質は違法で無罪
報道だけをみると,違法捜査があったので無罪,というように読めます(もちろん,もっと詳しい報道もありますが。)。
実際問題としてそうなのですが,「違法捜査があっただけで,犯罪があったのであれば有罪にするべきではないか(ただ,この見解は,実際に違法捜査がなければ有罪の立証ができていたという「仮定」に基づくものです。念のため。)」という声が,ネットにはあるようです。
実は,このように考えることは,至極もっともでありまして,前提知識を抜きに考えれば,ごく自然の感想です。
では,なぜ,違法捜査で無罪になるのでしょうか。簡単に解説してみました。
まとめ
①重大な違法性のある証拠は,裁判で証拠から排除される。
②違法捜査により収集された証拠は,程度によっては①にあたる。
③①の結果,証拠が不足して有罪が立証できなければ無罪になる。
④①のような解釈がある理由の一つは,「将来の違法捜査の抑止」のためである。
1.刑事裁判と証拠の関係
刑事裁判の事実認定は,証拠に基づかなければなりません。この証拠には,物的証拠ではなくて,人の供述等も含みます。
これを証拠裁判主義といいますが,要するに,神のお告げとか,占いとか,そういうもので裁判をしてはいけない,という意味です。
そして更に進んで,ここでいう「証拠」とは,適法な証拠をいいます。適法な証拠とは,適法に収集され,そして,適法な手続で裁判所に提出されて調べられた証拠,という意味です。
2.違法捜査で得た証拠の評価
違法捜査で入手された証拠であっても,捏造とかを別にすれば,証拠の信用性に変化はないはずです。
たとえば,無令状で内緒で被告人の住居に忍び込んで,殺人事件の凶器である包丁を盗んできたとしても,その包丁の証拠としての価値は,かわらないはずです。
ですから,ある意味自然に考えれば,違法捜査であっても証拠の価値に変化はないのだから,違法捜査の責任者を処分すればいいのであって,証拠としての効力を否定する必要はないはずです。
仮に否定すると,本当は犯罪の証明ができる,真犯人であると裁判で認定できるはずの被告人を,無罪ということで野に放つことになります。市民の通常の感情として,不思議に思うのは,ある意味では通常の感想かも知れません。
3.それでも違法捜査で得た証拠を裁判から排除する理由
しかし,現在の判例実務においては,違法収集証拠排除法則という考え方が採用されています。
これは,収集について重大な違法性がある証拠は,裁判所は証拠として採用しない,採用後は排除する,証拠として利用出来ない,という考えです(正確にはもう少し詳しく話す必要がありますが,概ねはこういう趣旨です。)。
2で述べた考えからすると,責任者を処罰すれば足りるはずで,「やりすぎ」に思えるかもしれません。
ですが,違法捜査について,責任者が必ず処罰されることは保証できません。また,違法捜査というのは,多くは行き過ぎで生じます。そして,その行き過ぎの原因の多く(これは異論もあるでしょうが)は,捜査官の「犯人を捕まえたい」という熱意からくるものです。
そうすると,仮に捜査官個人を処分をするとして,「処分覚悟で犯人を捕まえるんだ」というような覚悟をもたれてしまうと意味がありません。
そこで,そういう違法捜査で得られた証拠は,裁判で使えないことにすれば,犯人を捕まえたいという「熱意」で違法捜査をしても,その証拠は使えなくなる,逆に犯人を逃がしてしまう,ということになれば,あえて違法捜査をする意味が無くなります。
違法捜査で手に入れた証拠を裁判で使えなくする,ということは,違法捜査の抑止のために効果的な解釈なのです。
4.違法捜査で結論が無罪になる理屈
収集に重大な違法性がある証拠は,証拠から排除されます。その結果,裁判所は,その証拠があると知りながらも,それが無かったということにして,残りの証拠から判断をすることになります。
違法捜査で証拠が排除されても,残りの証拠から有罪を認定出来るのであれば有罪に,そうでなければ無罪になります。
冒頭の事件では,覚せい剤という物と,それを任意提出された経緯に関する捜査報告書等の証拠が排除されたと思われます。
残りの証拠から,覚せい剤を所持していたという事実を認定する事ができず,無罪になったものだと予想できます。
※インターネットにおいては,しばしば,強引と思われる職務質問が問題視されていますが,この事件は,まさにその違法性が認められた事例です。ところが,インターネットで,この判決には批判が集まっているのは,少し興味深い現象だと思います。
トイレ行かせず職質は違法で無罪
報道だけをみると,違法捜査があったので無罪,というように読めます(もちろん,もっと詳しい報道もありますが。)。
実際問題としてそうなのですが,「違法捜査があっただけで,犯罪があったのであれば有罪にするべきではないか(ただ,この見解は,実際に違法捜査がなければ有罪の立証ができていたという「仮定」に基づくものです。念のため。)」という声が,ネットにはあるようです。
実は,このように考えることは,至極もっともでありまして,前提知識を抜きに考えれば,ごく自然の感想です。
では,なぜ,違法捜査で無罪になるのでしょうか。簡単に解説してみました。
まとめ
①重大な違法性のある証拠は,裁判で証拠から排除される。
②違法捜査により収集された証拠は,程度によっては①にあたる。
③①の結果,証拠が不足して有罪が立証できなければ無罪になる。
④①のような解釈がある理由の一つは,「将来の違法捜査の抑止」のためである。
1.刑事裁判と証拠の関係
刑事裁判の事実認定は,証拠に基づかなければなりません。この証拠には,物的証拠ではなくて,人の供述等も含みます。
これを証拠裁判主義といいますが,要するに,神のお告げとか,占いとか,そういうもので裁判をしてはいけない,という意味です。
そして更に進んで,ここでいう「証拠」とは,適法な証拠をいいます。適法な証拠とは,適法に収集され,そして,適法な手続で裁判所に提出されて調べられた証拠,という意味です。
2.違法捜査で得た証拠の評価
違法捜査で入手された証拠であっても,捏造とかを別にすれば,証拠の信用性に変化はないはずです。
たとえば,無令状で内緒で被告人の住居に忍び込んで,殺人事件の凶器である包丁を盗んできたとしても,その包丁の証拠としての価値は,かわらないはずです。
ですから,ある意味自然に考えれば,違法捜査であっても証拠の価値に変化はないのだから,違法捜査の責任者を処分すればいいのであって,証拠としての効力を否定する必要はないはずです。
仮に否定すると,本当は犯罪の証明ができる,真犯人であると裁判で認定できるはずの被告人を,無罪ということで野に放つことになります。市民の通常の感情として,不思議に思うのは,ある意味では通常の感想かも知れません。
3.それでも違法捜査で得た証拠を裁判から排除する理由
しかし,現在の判例実務においては,違法収集証拠排除法則という考え方が採用されています。
これは,収集について重大な違法性がある証拠は,裁判所は証拠として採用しない,採用後は排除する,証拠として利用出来ない,という考えです(正確にはもう少し詳しく話す必要がありますが,概ねはこういう趣旨です。)。
2で述べた考えからすると,責任者を処罰すれば足りるはずで,「やりすぎ」に思えるかもしれません。
ですが,違法捜査について,責任者が必ず処罰されることは保証できません。また,違法捜査というのは,多くは行き過ぎで生じます。そして,その行き過ぎの原因の多く(これは異論もあるでしょうが)は,捜査官の「犯人を捕まえたい」という熱意からくるものです。
そうすると,仮に捜査官個人を処分をするとして,「処分覚悟で犯人を捕まえるんだ」というような覚悟をもたれてしまうと意味がありません。
そこで,そういう違法捜査で得られた証拠は,裁判で使えないことにすれば,犯人を捕まえたいという「熱意」で違法捜査をしても,その証拠は使えなくなる,逆に犯人を逃がしてしまう,ということになれば,あえて違法捜査をする意味が無くなります。
違法捜査で手に入れた証拠を裁判で使えなくする,ということは,違法捜査の抑止のために効果的な解釈なのです。
4.違法捜査で結論が無罪になる理屈
収集に重大な違法性がある証拠は,証拠から排除されます。その結果,裁判所は,その証拠があると知りながらも,それが無かったということにして,残りの証拠から判断をすることになります。
違法捜査で証拠が排除されても,残りの証拠から有罪を認定出来るのであれば有罪に,そうでなければ無罪になります。
冒頭の事件では,覚せい剤という物と,それを任意提出された経緯に関する捜査報告書等の証拠が排除されたと思われます。
残りの証拠から,覚せい剤を所持していたという事実を認定する事ができず,無罪になったものだと予想できます。
※インターネットにおいては,しばしば,強引と思われる職務質問が問題視されていますが,この事件は,まさにその違法性が認められた事例です。ところが,インターネットで,この判決には批判が集まっているのは,少し興味深い現象だと思います。