弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

2018年07月

最近,違法捜査があったということで,無罪になったという報道がありました。

トイレ行かせず職質は違法で無罪

報道だけをみると,違法捜査があったので無罪,というように読めます(もちろん,もっと詳しい報道もありますが。)。
実際問題としてそうなのですが,「違法捜査があっただけで,犯罪があったのであれば有罪にするべきではないか(ただ,この見解は,実際に違法捜査がなければ有罪の立証ができていたという「仮定」に基づくものです。念のため。)」という声が,ネットにはあるようです。

実は,このように考えることは,至極もっともでありまして,前提知識を抜きに考えれば,ごく自然の感想です。

では,なぜ,違法捜査で無罪になるのでしょうか。簡単に解説してみました。

まとめ

①重大な違法性のある証拠は,裁判で証拠から排除される。
②違法捜査により収集された証拠は,程度によっては①にあたる。
③①の結果,証拠が不足して有罪が立証できなければ無罪になる。
④①のような解釈がある理由の一つは,「将来の違法捜査の抑止」のためである。

1.刑事裁判と証拠の関係

刑事裁判の事実認定は,証拠に基づかなければなりません。この証拠には,物的証拠ではなくて,人の供述等も含みます。
これを証拠裁判主義といいますが,要するに,神のお告げとか,占いとか,そういうもので裁判をしてはいけない,という意味です。
そして更に進んで,ここでいう「証拠」とは,適法な証拠をいいます。適法な証拠とは,適法に収集され,そして,適法な手続で裁判所に提出されて調べられた証拠,という意味です。

2.違法捜査で得た証拠の評価

違法捜査で入手された証拠であっても,捏造とかを別にすれば,証拠の信用性に変化はないはずです
たとえば,無令状で内緒で被告人の住居に忍び込んで,殺人事件の凶器である包丁を盗んできたとしても,その包丁の証拠としての価値は,かわらないはずです。
ですから,ある意味自然に考えれば,違法捜査であっても証拠の価値に変化はないのだから,違法捜査の責任者を処分すればいいのであって,証拠としての効力を否定する必要はないはずです
仮に否定すると,本当は犯罪の証明ができる,真犯人であると裁判で認定できるはずの被告人を,無罪ということで野に放つことになります。市民の通常の感情として,不思議に思うのは,ある意味では通常の感想かも知れません。

3.それでも違法捜査で得た証拠を裁判から排除する理由

しかし,現在の判例実務においては,違法収集証拠排除法則という考え方が採用されています。
これは,収集について重大な違法性がある証拠は,裁判所は証拠として採用しない,採用後は排除する,証拠として利用出来ない,という考えです(正確にはもう少し詳しく話す必要がありますが,概ねはこういう趣旨です。)。
2で述べた考えからすると,責任者を処罰すれば足りるはずで,「やりすぎ」に思えるかもしれません。
ですが,違法捜査について,責任者が必ず処罰されることは保証できません。また,違法捜査というのは,多くは行き過ぎで生じます。そして,その行き過ぎの原因の多く(これは異論もあるでしょうが)は,捜査官の「犯人を捕まえたい」という熱意からくるものです。
そうすると,仮に捜査官個人を処分をするとして,「処分覚悟で犯人を捕まえるんだ」というような覚悟をもたれてしまうと意味がありません。
そこで,そういう違法捜査で得られた証拠は,裁判で使えないことにすれば,犯人を捕まえたいという「熱意」で違法捜査をしても,その証拠は使えなくなる,逆に犯人を逃がしてしまう,ということになれば,あえて違法捜査をする意味が無くなります
違法捜査で手に入れた証拠を裁判で使えなくする,ということは,違法捜査の抑止のために効果的な解釈なのです

4.違法捜査で結論が無罪になる理屈

収集に重大な違法性がある証拠は,証拠から排除されます。その結果,裁判所は,その証拠があると知りながらも,それが無かったということにして,残りの証拠から判断をすることになります。
違法捜査で証拠が排除されても,残りの証拠から有罪を認定出来るのであれば有罪に,そうでなければ無罪になります。
冒頭の事件では,覚せい剤という物と,それを任意提出された経緯に関する捜査報告書等の証拠が排除されたと思われます。
残りの証拠から,覚せい剤を所持していたという事実を認定する事ができず,無罪になったものだと予想できます

※インターネットにおいては,しばしば,強引と思われる職務質問が問題視されていますが,この事件は,まさにその違法性が認められた事例です。ところが,インターネットで,この判決には批判が集まっているのは,少し興味深い現象だと思います。

ハイボールは結構好きで,缶ハイボールもよく飲んでいるのですが,こんな新製品が登場しました。

赤と黄の名作スコッチ「ホワイトホース」、缶タイプは本気度が違った(GetNavi web)

早速飲んでみましたが,競合製品と比べると,レモン風味や甘味がやや控えめ,アルコールも控えめで,かすかに木の香り,また,控えめながらもしっかりとしたスモーキーさを感じます。

ウイスキー,特にスコッチウイスキーらしい味わいのハイボールを求めている方には,よいと思います。

ホワイトホースも好きなんですが,ラフロイグかタリスカーのハイボール缶もでないでしょうか・・・。まあ,一本500円とか600円とかになりそうなんで,難しそうですね・・・。

今年2月に,共著でこういう本を出しました。

先を見通す捜査弁護術(第一法規)

弁護士向けの専門書で,捜査段階,つまり起訴されて裁判が始まる「前」までの刑事弁護について,いろいろな技術・知識を解説した書籍です。
刑事弁護の分野に限りませんが,意外と活字化されていないノウハウ,テクニックがありますので,その点に重点を置いて解説しました。書面の提出先といった形式的なところから,身柄解放や保釈のための準備などについても解説しています。

なお,私は,ちょっと変わったテーマですが,児童買春の事案をテーマに,「まだ捜査の手が及んでいない」「自首をするべきかどうか」「自首するならどうするべきか」ということを解説しています。
かなり取り扱いの多い分野ですが,あまり解説がないので,これまでの経験を盛り込んで解説をしました。

以前,こんなツイートをしたことがありました。


実際問題として,相談を受ける際,私に限らず弁護士は,聞き取った事情を整理して,双方の主張はどういうものか,証拠はどういうものがあるのか(あると想定出来るのか。)を把握して,見通しを立てます。
話を聞いていると,十分に勝てそう,望む結果が得られそうだと想定して「大丈夫です。確実なことはいえないですが,概ね,ご希望に添う結果が期待できます。」っていったところ,その直後に,
「ですよね!それで,自分で●●やってみたら●●になっちゃったんで,それで相談に来ました!」
等といわれると,「やはり,もう難しそうですね」と,見通しを撤回せざるを得ない,残念な思いをしたことが何度かあります。
弁護士に相談したからといって依頼する義務があるわけではないので,自分でやってみる前に,成功をふいにしたり,あるいはできないことに無駄なコストを費やす前に,相談をした方がいいと思います。




内容証明郵便とは,確かにその内容の手紙を送ったことを郵便局が証明してくれる形式の郵便です。
契約の解除とか,債権の請求とか,「言った・言わない」の争いになると困るものについて,利用することが多いです。
反面,この効果について,いろいろと誤解があるようですので,簡単にまとめてみました。

まとめ
①内容証明郵便は,差し出した内容を郵便局が証明してくれる郵便である。
②「配達証明」も付けるのが通常である。これは,配達された事実も証明してくれる。
③実費費用は2000円前後
④ただの手紙であり,これ一通で事件が解決することもあるが,通常は難しい。魔法の紙ではない。

1.内容証明郵便とは
内容証明郵便とは,郵便の一種で,郵送した内容を郵便局が証明してくれる,というものです。
また,証明のために,郵送した書面の控えを受け取ることができます。
通常は,配達証明というものも一緒に付けることが多いです。これは,配達をしたことを証明してくれるというサービスで,証明書がもらえます。
通常の郵便より費用がかかり,概ね2000円前後と見ておくといいでしょう。他,書式などいろいろな制限があります。
最近は,電子内容証明郵便といって,ネット上から内容証明郵便の送付を依頼することができます。この場合,判子が押されないことになりますが,法的な効果に基本的には違いはありません

2.内容証明郵便は基本的にはただの手紙
内容証明郵便は,内容と配達の事実(配達証明を付けた場合)を郵便局が証明してくれますが,それ以外は,ただの手紙と変わりはありません。
勘違いされている方が多いのですが,別に内容証明郵便にしたからといって,特別な法的効果が与えられるとか,そういうことはありません(債権譲渡などの例外はありますが,基本はそうです。)。
あくまで証明されるのは,そういう内容の手紙を送りました,というだけであって,書いた内容の真否,有効性,法的効果について,なにか郵便局が関知する,というものではありません
費用も手間もかかりますので,内容証明郵便は,いつでもなんでも使えばいい,というものではありません。

3.内容証明郵便を使うべき場合
基本的に,「言った・言わない」で揉めることは避けたい場合,あるいは,相手方に今後の法的措置を予告するような場合に使うべきです。
具体的には,たとえば,クーリングオフの通知であるとか,大家さんであれば家賃未払いのため借家契約を解除して立ち退きを求めるとか,あるいは,時効が切迫している貸金の請求など,です。
また,そういうような事情がなくても,「自分は,このまま泣き寝入りするつもりはない」という,強い意思を示す場合にも使います。

4.内容証明郵便の作成を「専門家」に頼む場合の留意点
内容証明郵便の作成を依頼するのであれば,基本的には,弁護士か,認定司法書士(140万円以下の事件の場合)に依頼するべきでしょう。
行政書士であっても,業務としてこれを行うことはできますが,基本的に関与できるのは,依頼者であるあなたの言い分を整理して,意味が通るようにする程度の関与しかできない,それを超える場合は,無効になる可能性もある,と理解されています
ですから,書くべき内容が全部決まっているのであればともかく,希望は決まっているが,どういう主張をすれば有利なのか,不利なのか,そういう専門的なアドバイスを得たい,というのであれば,上記の通り,弁護士か認定司法書士に依頼をするべきでしょう。
弁護士として,非弁護士が作成した内容証明郵便をよく目にするのですが,かなりの割合で,「わざわざ,自分のお金を使ってまで自分に不利な事情を自白して証明する」というものになっています。
基本的に,自分で自分に不利なことをいった場合,それは有力な証拠にされてしまいますので,注意が必要です。
また,内容証明郵便1つで事件が解決することは,多くはありませんが,無いわけではありません。せっかくの「チャンス」ですから,それをふいにしないためにも,できれば,専門家に依頼をするべきでしょう。

◯参考
非弁行為とは?:書面作成/代行だから非弁ではない!?


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