弁護士 深澤諭史のブログ

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2018年06月

※令和2年6月6日,改正法に言及しました。
改正法の要点→3年の実務経験のうち,これまでは1年間を上限に国内の経験を算入できたが,これが2年間になる。したがって,外国での実務経験は1年だけ,国内で残り2年,という方法で登録できるようになった。

外国弁護士の資格と日本法
ということで,解説をしましたが,その続きです。

今回は,日本人が,外国法の弁護士業務をやるために,外国弁護士,ここでは米国の弁護士資格を取得する為のハードルを解説します。
なお,私は,弁護士会で外国法事務弁護士の資格承認の審査をやっていますが,日常的に国際案件をやる弁護士ではありません。ですから,専門家からすると大雑把な解説になることはご容赦下さい。

まとめ

① 米国で弁護士資格を取得して,それを日本で使えるようになるには6年間かかる。しかも,米国法しか扱えない。
② 日本の弁護士資格は最短3年8か月で取得でき,そのまま外国法の案件も扱える。
③ 日本の弁護士資格があれば,米国の弁護士資格は,+1年で取得できる。
④ 最初に日本の弁護士資格から取得すれば,①をする時間で,日本と米国の弁護士資格の両方取得することも可能である。
⑤ 日本で米国法を扱うために,日本の弁護士資格ではなく,最初から米国の弁護士資格を取得することは,業務も限定されるし,非常に不効率である。



1.米国の弁護士資格の取得の基本

米国は州毎に弁護士資格が存在し,細かいところに違いがあるようですが(このあたりは専門ではないので詳しくありません…。),基本的に3年間ロースクールに通い,そして司法試験に合格する必要があります
当然のことですが,米国で米国の弁護士資格を取得すれば,米国内で弁護士業務ができます(州毎の資格ですので,その制限はあります。)。

2.日本で業務をするためのハードル

外国弁護士の資格と日本法で解説しましたとおり,米国の例えばニューヨーク州の弁護士資格は,そのままでは日本では一切使えません
日本国内で外国の弁護士資格を使うためには外国法事務弁護士という資格を日本で取得する必要があります。これには,原則として,原資格国で3年間の実務経験が要求されています。そうすると,司法試験の受験期間を除くとしても,ロースクール3年間+実務経験3年間ということで,合計6年間を米国で過ごす必要があります(なお,3年間の実務経験のうち1年(改正法施行後は2年)を日本国内での経験で代替することもできますが,その1年間(改正法施行後は2年間)はあくまで非弁護士としての実務経験ですので,結局6年かけないと,日本で弁護士業務ができないことにはかわりはありません。)。
結論として,例えばニューヨーク州で6年を費やすと,日本で,ニューヨーク州の法律についてだけ,弁護士業務をする事ができるようになる,ということになります。

3.短い期間で米国弁護士資格を取得する方法

ロースクール3年間については,これを短縮する方法があります。LLMというのですが,米国外で,法律の学位や資格をもっていると,9ヶ月間の短縮コースで修了をすることができます。
ですが,3年間の実務経験はそのまま要求されます。資格取得1年(9か月+受験期間として大雑把な計算です。)+実務経験3年で概ね4年を要することになります。なお,1年間(改正法施行後は2年間)を国内で代替しても3年(改正法施行後は2年)は米国で過ごし,資格取得には4年かかることにはかわりありません。

4.日本の弁護士が米国弁護士資格を取得する場合

日本弁護士が米国の弁護士資格を取得する場合は,上記の短縮コースが使えますので,9か月で済みます。
また,外国弁護士の資格と日本法で解説しましたとおり,日本国内であれば,日本の弁護士資格で世界中の法律について弁護士業務が行えます。ですから,外国法事務弁護士になる必要がありませんので,3年間の実務経験も不要です。9ヶ月間+受験期間の概ね1年間で,米国の弁護士資格を取得し,帰国して日本で,例えば「弁護士・ニューヨーク州弁護士」を名乗って仕事をする事ができます

5.日本で米国法の弁護士業務をするために米国の弁護士資格から取得するのは効率が悪い

法的には,日本の弁護士資格さえあれば,すくなくとも日本で仕事する以上は,米国法について弁護士業務をすることには支障ありません。
そして,日本では,最短2年でロースクールを修了でき,司法試験の受験期間,司法修習(司法試験合格後の実地研修)の1年をいれても3年8か月で弁護士になれます
そうすると,

A.米国で弁護士になる→6年かかる。最短でも4年かかる。長期の海外生活が必要になる。しかも,日本国内でできる業務は限定される。
B.日本で弁護士になる→3年8か月かかる日本国内で日本法でも外国法でも扱える。米国の弁護士資格を手に入れたいなら,+1年で済む

ということになります。しかも,日本国内で米国法が必要になる案件というのは,日本法も関係することも多いでしょう。とすると,Aのパターンで取り扱える業務というのは,「米国法の案件だけれども,日本法は一切関係せず,それにもかかわらず日本国内で依頼したい」という,なかなか想定の難しい案件に限られてしまいます

すくなくとも,日本国内で仕事をするつもりであれば,米国の弁護士資格「から」取得するのは,かなり不効率であるといえます。資格取得という前提に時間を費やすより,その時間で実務経験を積むのが合理的でしょう。それに,業務範囲の狭さも問題です。

6.結論

日本で仕事をするつもりであれば,たとえ外国法事件しか扱わないつもりでも日本弁護士資格を取得するのが合理的である,ということになります。
というより,そもそも,日本の弁護士・外国法事務弁護士制度上,日本人が日本で仕事をするために,外国弁護士資格「だけ」取得するということは,あまり想定していないように思われます(ですから,以上のように異常に不効率になるわけです。)。

※ この記事の続編日本で働くために外国弁護士資格「から」取得する意味
最近,外国弁護士の資格をお持ちの方や,あるいは,それを目指す方が話題のようです。

そこで,今日は外国弁護士の資格と日本法についてお話ししたいと思います。

まとめ

① 外国の弁護士資格では,日本で弁護士業務ができない。その外国の法律についても同じ。
② 逆に,日本では,日本の弁護士資格さえあれば,世界中の法律について弁護士業務ができる。
③ 外国の弁護士資格+3年の実務経験があれば,日本で外国法事務弁護士というものになれる。これになると,その外国の法律についてだけ日本で弁護士業務ができる。


1.外国弁護士と弁護士の関係

まず,用語の整理ですが,日本の法律上,弁護士とは,日本の弁護士資格を有する者のみをいいます。外国の弁護士資格とは明確に区別されています。

一方,日本の法律上でいうところの外国弁護士とは,外国における日本の弁護士に相当する資格を有する人をいいます。たとえば,ニューヨーク州弁護士とか,あと中国でいえば「律師」等です。

日本の法律上,日本国内においては弁護士業務は弁護士でないと行うことができません。外国弁護士は,日本の法律上の弁護士ではありません。ですから,外国弁護士は,そのままでは日本で弁護士業務を行うことができません。これは,たとえ,その外国弁護士の資格国の法律に関する業務でも同じです。ですから,ニューヨーク州弁護士の資格を持つ者が,日本で,ニューヨーク州の法律について弁護士業務を行うことも法律で禁じられている,ということになります。

逆に,実際にできるかどうかはさておき,日本では,日本の弁護士資格さえあれば,世界中の法律に関する弁護士業務を行うことができます。

2.外国法事務弁護士という仕組み

以上の原則は,必ずしも合理的ではないことがあります。日本でニューヨーク州の法律について相談をしてもらおうとしたら,ニューヨーク州弁護士に相談することができず,(詳しいかどうか保証がない)日本の弁護士に相談をせざるを得なくなります。

そこで,作られたのが外国法事務弁護士という制度です。
これは,外国の弁護士資格を有する者は,3年の実務経験を条件に外国法事務弁護士という資格を認定し,日本国内で,その外国法について弁護士業務ができる,というものです(なお,要件は他にもあり,審査があります。)。

それでは,日本人が,外国法について弁護士業務をしようとしたら,日本の弁護士になるのがいいか,それとも,その国について外国弁護士資格を得て,外国法事務弁護士になるのがよいのでしょうか。

これについては,次回に続きます。

先日,テレビに出演する機会がありました。
出演するにあたって,こういうことをしゃべって下さい,というようなことをお願いされるのですが,人気のトピックは,「●●すると犯罪に!?」というものです。
やはり「意外なことが犯罪になる!」というのは,キャッチーらしいです。

ただ,ここで悩ましいのが,犯罪にならなくても違法行為になりますよ,という点です。

実は,法律違反でも犯罪になる行為というのは一握りなのです

すこし概念を整理してみます。

◯違法行為
法律に違反する行為をいいます。そして,ややこしいのですが,法律に明確に「●●してはならない」と書いてある行為はもちろん,明確に書いていなくても,法律の趣旨や他の条文から禁じられていると解釈できる行為は,違法行為になる可能性があります
たとえば,不倫は違法行為ですが,不倫をしてはならない,とは法律には直接書いてありません。ですが,不倫は裁判で離婚の理由になると法律に書いてありますので,違法行為であると考えられています。
違法行為をして誰かが被害を受けた場合,その損害を賠償する責任があります。この責任を不法行為責任といい,この文脈では,違法行為のことを不法行為と呼んだりします。

◯犯罪行為
犯罪に当たる行為をいいます。違法行為と異なり,法律に明確に犯罪になることが書いていないといけません。これを罪刑法定主義といいますが,国家が,気まぐれに市民を処罰することを防ぐために,犯罪として刑罰を科すためには,何が犯罪になるのか,それに対していかなる刑罰が科されるか,明確にされていないといけない,と考えられています。
そして,犯罪行為は基本的に不法行為になり,被害者に賠償する責任が生じます(ただし,覚せい剤の自己使用など,個人的な被害者のいない犯罪はその限りではありません。)。
たとえば,人の物を壊した場合は,器物損壊罪ということで犯罪になりますが,同時に,被害者に賠償をしないといけない不法行為でもある,というわけです。


基本的な構造,姿勢としては,法律違反の行為の中でも,特に悪質な行為だけを犯罪とする,ということになります。
ですから,不倫については不法行為ではあるが,刑罰で抑止するほどではない,ということで,不法行為になっても,犯罪にはしていないということになります(なお,かつては,姦通罪といって犯罪になる場合がありました。)。

このあたり,基本といえば基本ですが,なかなかイメージの持ちにくいところですので,メディアで説明するときはもちろん(といっても,時間等の都合で,なかなかそうはいかないのですが。),法律相談でも意識して解説をするようにしています。

4年ほど前に,市民向けにわかりやすく「法律の基礎」とネットの表現活動にまつわる法律を解説したものです。私を含む5名の共著になっています。

近代社会では,一応,建前としてはあらゆる場面に法律が登場し,法律を遵守することが求められます。サッカーの試合では,試合に参加する者には,試合中はルールを遵守することが求められます。同じように,近代社会に参加する者には,法律を遵守することが求められる,ということになります。

ところが,普通に日常生活を営んでいる限りは,法律を意識すること,あるいは,それが求められることは稀です。コンビニで買い物をすれば売買契約が締結(契約を結ぶこと)されて履行(契約の義務を果たすこと)され,また,日々勤務先に出社することは,労働契約の義務の履行に他なりません。

ですが,こういう日常の法律関係は,私たちにとって,いわば生活に溶け込んだ存在になっており,なにかトラブル,イレギュラーな事態にならない限りは,法律を意識することはありません。例えば,常識的に考えれば,コンビニで代金を支払わずに,あるいは誤魔化せばトラブルになることはわかるわけですから,そんなことは通常は行いません。

しかし,表現特にインターネットの世界における表現は,そうではありません。物の売り買いほど,日常的な行為ではありません。そして,表現にまつわる法規制は,非常に判断が難しい場面も多々あります(現に,マスコミを相手取った訴訟というのは珍しくありません。)。

また,かつて,公衆に表現をすることが出来るメディアは,新聞やテレビといった,表現者がプロフェッショナルである,というものだけでした。ですが,インターネットは,プロではない一般市民も容易に表現者になることが出来ます。しかし,一般市民だから,インターネットだからといって,適用される法律が大きく異なるということはありません。

かくして,インターネットにおいては,一般市民が,容赦なく「これまでプロフェッショナルだけが知っていればよかった法規制」に晒されることになります。現に,「まさか,これが違法(あるいは犯罪)だったなんて」という相談を受けることもよくあります。

そういう時代ですから,一般市民向けに,インターネットの表現にまつわる法律を,わかりやすく解説したものが本書です。

なお,類書も多い分野ですが,本書では,特に以下のような点に留意しました(もっとも,本書は共著ですので,あくまで,著者の一人である私の考えですが。)。

  1. 法律の基礎,入門から始める。基礎を知らずして応用であるネットの表現ルールは理解出来ないため。
  2. 1については,ネットでよくある勘違い,いわゆる法律デマを一掃できるように,特にその点に重点を置いて解説をした。
  3. 被害者になるリスクのみならず,加害者になるリスク,ルール違反を犯すリスクも重点的に解説をした。
  4. ネットトラブルを扱う弁護士としての経験から,頻出の問題について,実例を解説することに重きを置いた。
特に,1と2の点については,個人的にはかなり力を入れたポイントです。インターネットには,法律デマともいえるような情報が多数流通しています(→なぜ法律デマは出回るのか 約13万件、弁護士への組織的な「懲戒請求」を考える)。これにより思わぬ被害に遭う人も後を絶ちません。

インターネットの社会というのは,全くこれまで関わりのなかった人と関係が作られる社会です。そういう場面では,いわゆるコミュニティ固有の「以心伝心」であるとか「暗黙の了解」が通じにくいということになります。

ですから,法律に則った関わり方,解決が求められます。そういうネット社会で,身につけておくべき法律の基礎を解説することを目標にしました。



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