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Twitterには,リツイート(RT)という,他人の投稿をそのまま投稿する機能があります。
そのまま投稿をするといっても,それは自分のツイートとは区別され,元投稿者の投稿であるとわかりますが,そのRTをした者のフォロワーに配信されるという事になっています。

このRTについて,RTは賛同行為であり,他人の権利を侵害するツイートをRTした場合,賠償責任が生じるという趣旨の判決(令和元年9月12日大阪地方裁判所第13民事部)が出されました。

そこで,この事件の判決文を読んで分析しましたので,ちょっとコメントをしようと思います。
なお,ここでは,あくまでRTの問題に限って分析をしていること,判決文と添付別紙は検討していますが,双方の主張書面や書証を検討したものではないこと,(裁判例の解説が通常そうであるように)当事者への賛意や反対の意見を述べるものではありません。

そういう前提でお読み下さい。

まとめ
  1. 裁判所は,RTは原則として賛同行為であるとしている。
  2. しかし,法的には,賛同行為だから名誉毀損であるとはいえない。逆にある表現に反対していても名誉毀損にはなる。
  3. 2にもかかわらず,裁判所が1のようなことをいったのは,RTにはいろいろな意味があるとの被告の反論があったからである。それに対して,裁判所は,このRTは賛同だから責任を免れない,と判断したに過ぎない。
  4. 2の事情があるので,少なくともRTは全て賛同であるということ,賛同であれば責任が生じると,一般論が定立されたとまでみることはできない(ただし,反対の見解もあり得る)。双方の主張の範囲内で裁判所は判断を出すからである。
  5. RTの意味について,賛同だけではなくて批判の意味もあるなどは,裁判所も否定していない
  6. しかし,批判の意味なら本来コメントも付けるはず,とも指摘しており,注意が必要である。
  7. 5と6について,RT前後の文脈も考慮すると述べている。
  8. 書いてある内容を一般化できないのは,裁判所の仕事は第一にルール作りではなくて,あくまでもその事件を解決することだから。だから,判決文の切れ端を安易に重く見るべきではない。
事案の概要
原告Xは,甲の知事や乙の市長を務めた人物であり,現在は,弁護士やコメンテーターとして活動している者である。
被告Yは,インターネット関係企業の代表取締役であり,また,ジャーナリストとしても活動する者である。
AがTwitter上で,Xは甲の知事を務めていたころ,甲の職員を自殺に追い込んだ,という趣旨の投稿をした(本件投稿)。
Yは,本件投稿をRTしたが,その後,そのRTを削除した。

請求
Xは,Yに対し,名誉毀損に基づく損害賠償として金110万円を請求した。
Yは,Xに対し,この訴訟がスラップ(恫喝訴訟)であるとして,金300万円を請求した。

争点
  1. Yのした本件投稿は名誉毀損になるか。
  2. 本件投稿は名誉毀損になるとしても,正当な表現活動として違法性が阻却されるか。
  3. 2にあたるとして,Xの損害はどの程度か。
  4. 本件訴訟は,スラップにあたるか。
  5. 4にあたるとして,Yの損害はどの程度か。
争点1に関する判断
更に争点を分解すると,次の通り。

(1)RTの性質
(2)(1)の判断においてはどのような事情を考慮するか。
(3)以上を踏まえ,本件投稿は,元ツイートをしたAの投稿か,それともYの投稿か。
(4)本件投稿は,Xの名誉を毀損するか。

(1)RTの性質
同じ内容を投稿するもので,賛同する,批判する,他にもいろいろな目的で行うことがあるものである。

(2)(1)の判断においてはどのような事情を考慮するか。
コメントの有無や前後の文脈で判断する。
仮に批判や拡散して議論の材料にする目的であれば,何のコメントもせずにRTすることは考えにくい。
したがって,コメントなしのRTは原則として賛同の意味となる。
ただし,例外として,前後の文脈などから,違う意味とも理解できる場合がある。

(3)以上を踏まえ,本件投稿は,元ツイートをしたAの投稿か,それともYの投稿か。
コメントはなく,前後の文脈からも,(2)の例外にあたらないので,Yの投稿であって,Yが責任を負う。

(4)本件投稿は,Xの名誉を毀損するか。
具体的な事実を摘示する物で,Xの社会的評価を低下させるので,Xに対する名誉毀損行為となる。

争点2~5に関する判断
2.Xの言動で甲の職員が自殺したとの事実は真実と認められず,Yもそのように信じておらず,本件投稿は適法化されない。
3.Yはフォロワーが多数おり,社会的な影響力もあり,拡散された情報はインターネットから完全に削除はできない。これらの事情を考慮すると被害額は30万円であり,弁護士に依頼していることから,3万円を加算する(弁護士費用名目で損害額の1割を加算するのは通常の扱いであり,弁護士費用が3万円である,という認定ではない。)。
4&5.以上のように,Yの本件投稿はXへの名誉毀損であるので,XのYに対する訴訟はスラップではない。

コメント
本判決を見ると,RTは原則として賛同だから責任を負う,というように読めます。また,それが素直な読み方であると思います。

もっとも,疑問として,賛同であろうがなかろうが,名誉毀損の成否に関わらないのが原則です。
名誉毀損は,社会的評価を低下させることをいいます。ですから,「アイツは人殺しだ」という怪文書を,「これは私は賛同できませんが・・」といいながら広める行為も,名誉毀損になります。賛同されようが,反対されようが,不名誉な事実の記載のある書類が頒布されるのであれば,社会的評価は低下することには変わりないからです。

では,なぜ,裁判所はこういう判断の枠組みをとったのでしょうか。

裁判所の仕事は,何よりも,その事件1つを解決する事にあります。よく「判例」といって,裁判所の判断枠組みを法律の解釈論に使うことがあります。
それ自体は間違いではないのですが,裁判所は,ルールを作ることが仕事ではありませんし,それを仕事にすることは,立法権を侵害することにもなります。
あくまで,個別事件の解決の為の判断の過程で,ルールができていく,という事実上の効果に過ぎません。ですから,裁判所は,憲法や法律には拘束されても,判例には拘束されません(上告において配慮されますが,判例違反が禁じられるものではありません。判例に違反するけれども自分はこう判断する,という判決だって現にあります。)。

これは,あくまで想像なのですが,Twitterの利用実態からして,RTは賛同であると評価することは,やや難しいのではないかと思います。また,賛同を理由にして責任を認めることも,妥当性を欠くと思います。

かなり想像が入りますが,両当事者の主張を考慮し,特に,両当事者の対立関係であるとか,あるいは,内容が非常に直接的で重大な事実を摘示するものであったことを考慮したのではないかと思います。その根拠として,裁判所は,かなり前後のツイートを考慮しているようで,
その上で,結論としてはYに責任を負わせることにしたが,その結論を導く過程で,Yの主張について裁判所が,それは採用できないと判断した,その過程で,賛同していたように読める,と判断したのではないかと思います。

裁判所はあくまで,当事者の主張を前提に,その事件を解決する限りで判断を下します。
本件では,Yが,RTはいろんな意味で行われるのだ,という反論をしたところ,それをしりぞけるために,この事案において,本件投稿は,賛同の意味に読める,だから,たとえRTにいろんな意味があるにしろ,本件ではYの賛同と評価できるので責任を否定する理由にならない,いろんな意味の中の「賛同」にあたるのではないか,と判断したに過ぎない可能性もあります。

当該事案限りの解決のためだけに判断を示すことを事例判断とか,事例判決などといいますが,本判決は,その可能性も高いのではないかと思います。

ここからは,判決から離れた私の考えです。

個人的には,RTに責任が生じるかどうかについては,前後の文脈はもちろんのこと,その内容そのものについても考慮し,そのRT行為が,元投稿と同程度あるいはそれ以上の影響力があるかどうか,を検討し,そうであれば責任を負担する,というのが合理的ではないかと思います。

したがって,元投稿が,断定的に違法,犯罪行為をしたという内容であったりすれば,RTだけで責任を問われる可能性は高いと考えるべきで,逆に,そこまで悪質でなければ,元投稿主だけが責任を問われ,RTについては責任を問われない,と考えるのが相当でしょう。

このあたり,考えはいまいちまとまっていません。

ただ,今の名誉毀損法制度がネット時代にマッチしていない,というところもあります。
例えば,転職サイトで少し否定的なことを書くと,原則的には名誉毀損ということになってします。
近時は,裁判所は,そのあたりの判断ロジックを工夫して,いわゆる「口コミ」の類について,名誉毀損の成立の幅を狭めているところです。