内容証明郵便という郵便があります。これは,書留の一種です。
基本的なところは,「内容証明郵便の効果と活用法と注意点」で解説しました。

これは,要するにただの手紙ですが,普通の手紙と異なり,こういう内容の手紙をこちらが相手方に送った,という事実を郵便局が証明してくれる,というものです。正確には,配達の証明については別に配達証明をつけないといけませんが普通は全てにつけます。

契約の解除など,あとで言った言わないにならないようにするために,用いられます。

なお,証明の対象は,あくまでそういう内容の手紙を送った,という事実です。内容が真実になるというのではなくて,そういう内容をこちら側が書いて送った,という事実です。たまに間違える人がいるので,注意をして下さい。

法的にはただの手紙ですし,受け取った方からすれば,「手紙についてシラを切る」ということでも考えていない限りは,内容証明郵便であろうがなかろうが,(債権譲渡などの例外もありますが)何もかわりません。要するに,基本的に受け手にとっては,内容証明郵便であるかどうかは,法的にはどうでもいいことなのです。

ですが,内容証明郵便は通常はつかわない郵便です。独特の書式ですし,仰々しく感じます。
普通の人であったら,こんなものを受け取ったら多少なりとも驚くでしょう。

ついては,郵送する側,特に代理人弁護士としては,そういう心理効果も狙っていないとはいえません
また,交渉を始める合図ということで,慣例的に送るということもあります。

逆にいうと,シラを切られるリスクが低いとか,そういう心理効果が得られない場合は,内容証明郵便は手間もお金もかかりますので,つかわない場合もあります。

典型的なのは弁護士がすでについている場合で,そうであれば,基本的にシラを切られることもないでしょうし,弁護士が内容証明郵便をみて驚くということもなく(むしろ,無駄なことをする,あるいは依頼者パフォーマンスなのか,ということで,足下を見られたりするなどマイナスの効果もあり得ます。),ファクシミリで連絡をするのが通例です。

さて,内容証明郵便が届いたらどうするべきでしょうか。

もちろん,無視せずに,それを持って弁護士に相談に行けばいい,ということになります。
まずは自分で読んでみて意味を理解したい,あるいは,実務上,弁護士の内容証明郵便の扱いとか,そういうことも念頭に置いておきたい,という気持ちもあると思います。

そこで,前置きが長くなったのですが,内容証明郵便が届いた場合について,いくつか心得,アドバイスを,弁護士的に率直に(要するに少しぶっちゃけて)お話しすることにします

まず,受け取るべきかどうかですが,これは受け取るべきでしょう。
法律上,受け取りを拒否しても,一定の場合には到着扱いになるという裁判例もあります。
また,もし届かないのであれば,特定記録郵便など,書留のように受け取りをしない形式で送られます。
要するに,無視することでは,情報が得られないなど,不利なことしかありません

次に,受け取ったあとですが,(自分宛なら)速やかに開封して,よく読みましょう。

大事なのは,誰が送ってきたか,代理人は誰か,宛先は誰か(家族のものではないか?)ということです。

その上で,請求は何か,請求の前提,理由,原因となる事実は何か,それぞれ区別して読解します。

内容証明郵便の中には,請求は明らかでも,その理由がハッキリしない,抽象的に「甚大な損害」などと書いてあるだけのものもあります内容証明郵便では,書いていないことこそポイント,相手の弱点であったり,交渉の重要点だったりしますので,その点を意識します。

その上で,相手方に交渉の意思があるのかどうか,そういう点も確認します。
中には,金銭であれば支払い方法など相談に応じるというようなことが記載されている場合もあります。
もちろん,交渉が妥結するとは限りませんが,それも大事なポイントです。

そして最後に,個人的に経験上,かなり大事だと思っているのは期限の設定です。

まず,前提ですが,この期限については,たとえば契約の解除でいついつまでに家賃を払わないと契約解除であるとか,そういうケースは別格,悪いことをしたつまり不法行為をしたから金を払え,あるいは,貸しているお金を返さないから返せ,というような期限については,法的に守る義務は(すくなくともその期限は)ありません。内容証明郵便の期限は絶対ではないことのほうが多いのです(でも,そうでないこともあるので,絶対に期限までに弁護士に相談して下さい。)。

家賃であれば,それを過ぎると契約解除ということで,追い出されるリスクもありますので,大事です。
ですが,それ以外の,つまり圧倒的多数,契約が背後にない場合であるとか,あっても,貸金などすでに返済期限を過ぎている場合は,内容証明郵便の期限の意味はさほど大きくありません。

不法行為(物を壊したとか怪我をさせたとか,ネットであれば違法投稿とか)であれば,そもそも支払期限は,その事件の日ですから,内容証明郵便がきた時点では既に過ぎています

よく,どうしても守らないと,と,気になさる方が多いのですが,実はそうではないことが多い,ということです。

それより大事なのが設定された期限の長さです。

期限が短ければ相手は弱気,長ければ強気という傾向が,確実はいえませんが,かなりそういう傾向があります

期限を短くするのは,相手方の不安をあおり,早めに,できれば弁護士から充分な助力を得る前に従わせようという狙いがあることがしばしばあります。特に1週間ないしそれ以下であれば,その傾向が強いでしょうかなり威勢が良くても,口だけで裁判をする気が無いことも珍しくありません

2週間であれば標準ということになります。ここから何かを読み取ることは難しいです。

一方で3週間ということであれば,これはかなり強気の可能性もあります。じっくり検討されたところで請求の正当性は揺らがないこと,裁判でも勝てそうではある,希望が通りそう,というケースです。

ならば,慌てさせる必要はありません。そして,勝てるとわかっている裁判ほど無駄な裁判はありません。結論が同じなら,裁判外で,よくよく考えて貰って,こっちが譲歩しても任意に払って貰った方が,安く早く済むからです

なお,期限を過ぎると,即刻提訴だと書いてあって,だから守らないといけない,と感じる方も居ます。

もちろん,期限が過ぎることには,交渉を打ち切られるリスクがあります。ただ,相手にとっても,せっかく内容証明郵便で請求しているのに,それを打ち切るのはコストだし,リスクでもあります。

ですから,期限徒過=直ちに交渉打ち切りで提訴ともいえないのが実情です。

特に,一度期限が徒過しても,そのあとも期限を再設定するとか,そういうケースでは提訴を避けたい事情が裏にある事もあります。一度の連絡毎に期限を設定するケースなどもそれがいえます。

次に文面についてですが,いわゆる強気,威勢の良い文言については,相手方の自信のなさの現れであることも少なくりません

期限を1週間以下にし,至急,即刻提訴だの,威勢のいい文面が踊っているケースほど,実際は提訴もしてこないというようなケースが多くあることを感じます

また,内容証明郵便に限らず,最初の請求で,余りに威勢をよくしすぎる,過大ないし恫喝的な表現を使うと,まとまる話もまとまらなくなってしまいます。これは,むしろ,交渉の上手い下手の問題といえます

ケースによっては,「こんな恫喝的な文書が来た」ということで,ネットに晒されて(もちろん,これは別に不法行為になり得ます。),依頼した請求者と弁護士が共々炎上してしまう(ネットトラブルにおける「共炎現象」と,勝手に個人的によんでいます。)こともあります

ですから,基本的には,特別の事情がない限り悪手でしょう。

以上は,これまでの経験,特にネットで連絡先を出している関係上,「いきなり請求された・訴えられた」という,「請求される側」の相談が多いところ,実情を踏まえた感想です。

もちろん,これが確実に当てはまるわけではありませんし,事件分野にもよります。少なくとも知る限り,以上の傾向は強く感じています

ただ,何事についてもいえますが,形式的な当てはめにとらわれることには要注意です。
以上のような予想を立てるのも大事ですが,その後でもいいので,とにかく早めの弁護士への相談を強くおすすめします。