1.よく遭遇する「法律体験談」
法律相談をしていると,あるいは,相手方が本人で交渉,裁判をやっていると,よく「ネットのこの投稿を見て欲しい。こういう案件で交渉で,裁判で勝ったそうだ。だから,自分も同じようになる(はずだ)」という話に遭遇します。

こういう話は,絶対に鵜呑みにしてはいけません。いろいろ理由があります。

2.内容が真実かはわからない
私は,弁護士になって以来,膨大な数のネットの投稿,表現(名誉毀損からプライバシー侵害,著作権侵害や,脅迫などなど)に関する事件を扱ってきました。

その経験からいうと「匿名での投稿は,嘘をつくハードルが異常に低い」ということです。
日常生活で嘘をついた経験がほとんどなさそうな,とても誠実な人ですら,匿名での情報発信,それも,自分の関係する紛争分野になると,嘘をついてしまうことが珍しくありません

すなわち,そもそもの前提として,真実かどうかわからないから,参考にならない,ということです。

3.話を盛られている可能性が高い
紛争というのは,感情的になるものです。

そして,そうなると,これまでも度々語ってきましたが,お互いが正しいとおもっている,だから,「正しい自分の言い分が通った話にする,そういう方向で話を盛るのは正当化される」ということになりがちです。

実際問題として,ある程度の「長さ」の「法的紛争の体験談」は,弁護士からみれば,「そんなことにはならんだろ」ということで,矛盾に気が付けます。

そういうプロの目で見てみると,どう考えても作り話の体験談が蔓延しているというのが実情です。

4.そもそも参考に出来ない
紛争というのは,単純ではありません
本体の事実だけではなくて,周辺の事情,当事者の属性,感情などなど,考慮するべき事情が膨大にあります。

病気でいえば「熱が出ていたので風邪薬を飲んだら治った」という話を自分に応用できることはほとんどありません。発熱がただの風邪であるとは限らないからです。

同じく,紛争についても,そもそも「体験談」に現れている事実は,ごく一部の事実であり,処方箋になり得ません

5.まとめ
以上のとおり,ネットに転がっている「法律体験談」「法的紛争の体験談」を自分に応用するのは,危険なことです。
自分の大事な人生を,そういう無謀な賭け事のチップにすることはおすすめできません
特に頻出の,気をつけるべき体験談パターンを以下に挙げます。
  1. とりあえず相手方の人格非難が多い→感情的に話を盛られている可能性がある
  2. 楽勝とかそういう言葉を使う→法的紛争のコスト,困難性を実際に体験すれば,そういう言葉を使うことはためらうはずであり,空想の可能性がある
  3. なぜか相手方代理人弁護士を非難する,あるいは自分の弁護士が相手方代理人弁護士を嘲笑したとかいうエピソードが出てくる→弁護士であれば,相手方代理人の主張は,代理人だけの判断ではなくてそれなりの事情があることくらい想像できるので,そういう発言は控える
  4. ネットで調べて大丈夫だったという話→どこで調べたか明らかではなく,自分で自分を慰め,勇気づけているパターンが多い