ちょっと今回は長文になりますが、ダウンロードの違法、犯罪となる対象の拡大について論じます。
前回、違法ダウンロードと犯罪ダウンロードの話をしました。
要約すると、ダウンロードは原則は適法だが、法改正で一部のダウンロードが違法あるいは犯罪になりました。
違法ダウンロードになるのは、違法配信サイトからの動画と音楽のダウンロードです。犯罪ダウンロードになるのは、違法ダウンロードのうち、(他の場所で適法に)有償配信されている著作物のダウンロード、ということになります。
今回、さらなる法改正、違法となるダウンロード、犯罪となるダウンロードの範囲の拡大が予定されているとのことです。
具体的には、漫画、雑誌、写真もその対象に加えられるとのことです。
法改正後は、音楽や映画だけではなく、漫画、雑誌、写真などの画像やテキストデータを違法配信サイトからダウンロードする行為は違法ダウンロードとなり、それらが有償配信されているのであれば、犯罪となる、ということになります。
方々から批判されている改正案ですが、私も、この改正案には反対です。理由は次の通りです。
まず、第1に、クリエイター保護に一切繋がらないからです。
そもそも、刑事罰を科したところで、極端な話、違法ダウンロードする者を火あぶりにしたところで、クリエイターには、報酬は1円も入りません。
第2に、抑止効果も不明だからです。
違法配信を行う者は別格、ダウンロードするユーザーつまり利用者は、ボタン一発でダウンロードし、利用するだけです。楽しむことはできても、それで金銭的利益を得ることはありません。
そうすると、利用者としては、違法ダウンロードへの心理的抵抗がほとんどありません。何が悪いの?あるいは、あまり悪いことではない、程度の認識でしょう。
だからこそ、犯罪化が必要である、ということなのでしょうが、そもそも現在の犯罪ダウンロードについてもほとんど摘発例がないことからすれば、抑止効果があるかどうか、極めて疑問です。
第3に、不公平だからです。
第2で述べたように、摘発例はほとんどないとのことですが、仮に摘発するとすれば、山のようにある違反事例全てを摘発することは不可能です。
必然的に、「選ぶ」必要があります。
では、選んでもらえる被害者はどういう人なのでしょう?ほとんどの場合、著名有力なクリエイターとか、大手出版社になろうかと思います。彼らの場合は、被害も大きいので、必然的にそうなるでしょう。
そうなると、同じ法律に違反された、同じ罪名の犯罪被害者であっても、その社会的地位とか勢力とかで、扱いが大きく変わることになります。
しかし、文化というのは、有力な創作者だけから生じるものではありません。また、今日、著名な創作者も、最初は無名でした。その地位や勢力で格差を設けることに正当性はありません。
この立法は、等しく著作権を保護しようとする考え方となじみません。
第4に、最終的に権利保護に逆行するからです。
そもそも、著作権者、もっといえばクリエイターがもっとも望んでいることは、権利侵害に対する制裁ではありません。
それも望んでいるとしても、一番望んでいることは、そのような違法配信の根絶であり、それによる正当な対価の取得です。仮に、違法配信が行われたとして、2つ目の希望は、それら違法行為に対する正当な賠償でしょう。制裁は3番目にはいるべきものです。
第1で述べたように、刑事処罰では、クリエイターの被害は回復されません。
しかし、今回、こういう立法がされることで、「著作権は十分に保護している」という誤った認識が広がりかねません。そうすると、著作権侵害について被害回復をする立法が遅れる、もっといえば、それらをしなくてもいい、ということになりかねません。
必要でもないことをやることで、本当に必要なことが行われない可能性もあるのではないか、と思います。
本当にクリエイターの権利を保護したいのであれば、権利侵害者を速やかに特定する手続き、それに対する賠償請求をするにあたって、被害金を算定しやすくする、場合によっては、懲罰的損害賠償制度(悪質な権利侵害について実損害よりも大きい賠償を認める制度であり、被害回復だけではなくて違法行為を抑止するものです。)の導入を検討すべきでしょう。
本当に必要だけれども大変で面倒だから、わかりやすい法改正でお茶を濁している、という非難は免れないのではないでしょうか。
第5に、刑事罰として広範にすぎるからです。
刑事罰は、社会にとってよく効く薬ではありますが、副作用も大きいものです。
また、刑事罰によって被害は回復されないのですから、極めて悪質な行為にのみ限定して適用するべきです。これは、何も特別な考えではなく、今の日本の法律もそういう思想で作られています。
ところが、ダウンロードは、要するに情報を取得する行為です。そして、インターネットにおいては、無意識のうちに自動的に無数の情報を取得することになります。
そうすると、知らないうちに犯罪者として疑いを持たれてしまう、ということも十分にあり得ます。
たとえば、まとめサイトにたまたま違法に掲載された漫画あった場合、アクセスした者全員について、犯罪の疑いが生じます。
もちろん、他の犯罪(過失犯を除く)と同様、著作権侵害もわざと、知りながらやらないと成立しません。
しかし、知っているかどうかなんて、外から見てわかりません。実務上、客観的に犯罪にあたる行為があれば、基本的には逮捕や勾留の理由として十分です。
「知っている、知らない」に大幅に頼ることになってしまう、ダウンロードの犯罪化は、日本のネットユーザーを「総被疑者」にするもので、不当という他ありません。
以上のとおり、ダウンロードの犯罪化、その範囲の拡大は、著作権の保護の観点からはなんの役にも立ちません。
むしろ、ネットユーザーを「総被疑者」にしかねないもので不当です。
それどころか、長期的には、著作権保護の流れに逆行しかねない、悪法というより「愚法」という他ないと思います。
コメント
コメント一覧 (1)
問題点など具体的に言語化していただき、ありがとうございます。
理不尽さや危機感を肌で感じても、ゼロからここまで言葉で解釈することは私には難しかったので。。
一個人として反対の姿勢を示したいです。