今回は,最高裁判決の解説です。子どもの事件等を積極的に取り扱う淺井健人弁護士(東京弁護士会)からの寄稿です。

(・∀・)いつもながらわかりやすいですね。

平成30年10月19日、共同相続人間でなされた相続分の無償譲渡は、原則として特別受益にあたるとする最高裁判例が出ました。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/060/088060_hanrei.pdf)。
今回は、この判例について、解説していきます。


Ⅰ 事案の概要
fig-1

1 B死亡(Bの相続人は、X、Y、A、C、D。Bは複数の土地建物、預貯金等を有する資産家。)。

2 Bの遺産分割がなされる前に、A、DはBの相続分をYに譲渡
3 Aは全財産をYに相続させる遺言を作成。
4 Bの遺産分割調停成立。
5 A死亡(Aの財産は死亡時、ほとんどなく、債務超過であった。Aの相続人はX、Y、C、D。)。
6 XはYに対し、Aの相続に関して遺留分減殺請求権を行使。


Ⅱ 判旨
①共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、
②譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き
上記譲渡をした者の相続において, 民法903条1項に規定する「贈与」に当たる


Ⅲ 解説
1 遺留分
 遺言によって、特定の人にすべての財産を相続させるとされた場合であっても、一定の法定相続人には、法定相続分の一部が保障されています。
 具体的には、兄弟姉妹以外には、法定相続分の2分の1が遺留分として保障されています。
 法定相続分は、以下のとおりとされています。

①配偶者と子どもが相続人の場合は、それぞれ2分の1(子どもが複数いる場合は2分の1を人数で割る。非嫡出子がいる場合であっても、平成25年9月5日以降の相続では等分。)。
②子どもがおらず、配偶者と亡くなった方の直系尊属(父母など)が相続人の場合は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1(直系尊属が複数いる場合は3分の1を人数で割る)。
③子どもも直系尊属もおらず、配偶者と亡くなった方の兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1(兄弟姉妹が複数いる場合、原則、4分の1を人数で割る。父母の一方のみが同じ兄弟姉妹の相続分は父母の双方が同じ兄弟姉妹の相続分の2分の1。)


2 本件について
 本件は、
①資産家であるBが亡くなる前に、Yの妻をA・Bの養子としてDがBの財産を相続できるようにし、
②Bが亡くなった後、A、Dが相続分をYに無償譲渡し、
③Aの全財産についてもYが相続するよう遺言をしている
ことから、資産家であるBの財産をなるべくYに承継させるように、専門家に相談したうえでスキームを組んだものと考えられます。
 相続分を無償譲渡するという方法は、原審では特別受益にはあたらないとされていたものであり、また、下級審でも特別受益にあたるかどうか判断がわかれていました。
 しかし、今後は、少なくとも、
①共同相続人間で②無償でされた③財産的価値のある相続分の譲渡については、特別受益にあるとされることから、このようなケースにあたっている方は弁護士に相談されることをおすすめします。

なお、相続分の譲渡が有償でなされた場合については、本判例では明らかにされていませんが、少なくとも、相続分の価値と比べて相当に低い金額で譲渡された場合は、特別受益にあたるとされる可能性が高いでしょう。
 なお、遺留分に関しては、信託を使って遺留分を消すという目的のもとに組成された信託につき、信託行為を違法であるとして取り消した裁判例(東京地裁平成30年9月12日)も出ているようです。信託の場合、信託行為設定の際に相当額の税金も支払っていることから、重大な損害が発生してしまいます。
 相続のスキームの組成は、遺留分減殺請求(相続法改正後は、遺留分侵害額請求)のリスクも十分に理解したうえでする必要があり、法の趣旨を十分に理解した専門家に依頼すべきでしょう。


Ⅲ 相続法改正との関係
 相続法の改正により、遺留分減殺請求や相続人に対する贈与(特別受益にあたるもの)は、以下のとおり改正されます。以下の改正は、2019年7月13日までに施行されます。
改正前は、
①共同相続人に対する贈与はすべての贈与を遺留分算定の基礎に算入する
②遺留分減殺請求がされた場合、原則は現物返還とされ共有状態となってしまうが、金銭で返還してもよい
とされていましたが、
改正後は、
①共同相続人に対する贈与は、相続開始前10年間にされた贈与に限って遺留分算定の基礎に算入する。ただし、加害の認識がある場合は、10年以上前にされた贈与であっても算入する。
②遺留分侵害額請求(改正前の遺留分減殺請求に相当)がされた場合、金銭債権のみが発生する
とされます。
 したがって、仮に相続分の譲渡が10年以上前になされ、贈与時の加害の認識を立証できなければ、遺留分の算定の基礎とはなりません。しかし、紛争予防の観点から、相当な財産的価値のある相続分の譲渡をする場合には、遺留分を侵害するおそれがないか慎重に検討しておき、加害の認識がなかったことを記録に残しておく必要があるでしょう。