法律の中には,違反した場合の罰則が定められているものがあります。これを刑罰法規とか,広義の刑法といったりします。

刑罰法規の目的は,一定の行為を抑止して法益(人の生命身体とか法律により守るべき利益のことをいいます。)を守ることや,一定の行政目的の達成などがあります。

ところで,刑罰法規は,誰に適用があるのでしょうか?
もちろん,「みんな」にあります(ただし,公務員が賄賂を受け取る収賄罪とか,一定の地位・身分がないと成立しない犯罪もあります。)が,ここでいう「みんな」とはだれなのでしょうか。外国人に適用はあるのでしょうか。

結論からいうと,刑罰法規は日本国内で行われた行為全てに適用があるとされています。したがって,外国人についても,日本国内で行った行為には適用があります。

逆に,原則として国外で行った行為については,日本の刑罰法規の適用はありません。たとえば,賭博は日本では犯罪ですが,海外旅行にいってギャンブルをしても犯罪にならないのは,国外での犯罪であり,日本の刑罰法規の適用がないからです。

ただし,この原則は例外が非常に広いです。たとえば,傷害や放火といった犯罪は,国外で行っても日本国民であれば日本の刑罰法規の適用があります。
また,大麻の犯罪についても同様で,法律上,日本国民が海外旅行にいって,大麻が解禁されている国で大麻を譲り受けて所持したとしても,犯罪になるとされています(個人的には,処罰範囲として少し広いのではないか,とも思います。)。

さて,ここからが本題ですが,日本ではわいせつ物を頒布したり,その目的で製造をすることが禁じられています。ここでいうわいせつ物とは,かなり判断が難しいのですが,一般に性器が露骨に描写されているなどの表現物が該当するとされています。
ですから,アダルトビデオや成人向け書籍で「修正」が加えられているのは,この「わいせつ物」に該当しないようにするためです。逆に,これが不十分だとわいせつ部頒布等の罪に問われることになります。

さて,最近は,各種の販売プラットフォームサービスを利用して,日本国内の個人や会社が,海外向けにゲームや同人誌等の電子書籍を販売する例が増えています
それらのゲームや同人誌が成人向けであった場合,海外向けの製品には,上記の「修正」をしない例もあるようです(なお,同人誌が二次創作の場合は,著作権法の問題もありますが,ここでは検討しません。)。

その根拠は,上記のわいせつ物頒布等の罪は,海外で行った行為に適用はない,海外向けであり海外サーバーを利用するのだから,日本の刑罰法規の適用はない,という理解に基づくようです。
結論からいうと,この理解は誤っている,犯罪が成立する可能性が高いと考えられます。

それは,このようなケースでも,国内犯つまり日本国内での犯罪であると評価できるからです。
国内の犯罪であるかどうかの判断について,判例は,犯罪の行為や結果の一部でも,国内にあればそれで国内犯であると判断しています。
ですから,以上の例ですと,問題となるコンテンツの制作,頒布のための手続き等は国内で行われていますので,国内犯であると考えるのが自然であるといえます。

同様の理屈で逮捕された例もありますので,「国外会社・国外サーバーだからOK」とか安易に判断し,取り返しの付かないことにならないように注意が必要です