弁護士業務広告が解禁されてから大分時間が経ちました。
いまや弁護士広告は珍しいものではない,むしろ目にしない日はないかもしれません。

さて,広告の中には,「●●専門弁護士」とか「●●に強い弁護士」などの表現が散見されます。
ただ,●●に強いは多いけれども,●●専門弁護士という表現はあまり見ないかも知れません。

これは,どういう理由から何でしょうか。

まとめ
①「●●専門弁護士」と名乗ることは,差し控えるべきであるというのが,日本弁護士連合会の指針である。
②「●●に強い弁護士」と名乗ることについては,①のような規制はない。
③「●●に強い弁護士」は,基本的に自称なので,利用者が自分で判断する必要がある。
④③にあたっては,過去の実績,著作や講演(特に専門家向け)の有無や量が参考になるが,絶対ではない。

1.弁護士の広告と規制
弁護士の広告においては,日本弁護士連合会(日弁連)がルールを定めています。日本には弁護士自治という制度があり,弁護士の監督や指導については,国家の関与が原則として排除され,弁護士会が行うことになっています(なお,勘違いされやすいのですが,弁護士会が決めるといっても,弁護士だけで決めるのではなく,多くの場面で,弁護士以外の法曹つまり裁判官や検察官が,あるいは学識経験者も関与する場面があります。さらに,あえて非法曹だけで判断される場面も設定されています。)。
そこで,弁護士としては,弁護士会のルールを守らないといけません。

2.●●専門弁護士という表現は,原則として控えるべきとされている
「●●専門弁護士」という表現については,日弁連「業務広告に関する指針」が,次のように定めています。

客観性が担保されないまま専門家、専門分野等の 表示を許すことは、誤導のおそれがあり、国民の利益を害し、ひいては弁護士等に対する国民の信頼を損なうおそれがあるものであり、表示を控えるのが望ましい。

これは,どういうことかというと,弁護士には専門医認定制度のような専門認定制度がないので,自称●●専門を許すと,誤解をさせるおそれがある,だから,「表示を控えるのが望ましい」とされているのです。

3.「●●に強い弁護士」という表現は,特に禁止されていない
専門表示は「控えるのが望ましい」とされている一方で,「●●に強い弁護士」,もっといえば,何かに優れているという表現は,一律に禁止されている,というわけではありません
もちろん,虚偽の広告や,あるいは,裏付け・証明の出来ない広告は禁止されています。ですから,一定の根拠は必要になる,と考えられています。

4.専門表示が駄目だから「●●に強い表示」が流行した(?)
以上,要するに,優秀性を示すためには,●●専門弁護士と名乗るが一番なのでしょうが,それについては控えるべきであるとの「指針」があるため,代替手段として「●●に強い」という表現が流行したのではないかと思います。あるいは,専門というと限定されているように読めてしまうので,その点にも配慮したのかも知れません

5.「●●に強い」には要注意
「●●に強い」というのは,基本的に自称です。根拠があやふやなケースもあります。
また,実際に,私が見聞きする範囲でも強い強いとウェブサイトで連呼して自称しているにもかかわらず,基本的な手続き等について知らない(!)とか,「(自称)●●に強い弁護士に依頼したのだけれども,全然動いてくれなくて困っている」という趣旨の相談を弁護士として受けるということもありました(もっと酷いのもありますが,さすがにここでは,そこまで書く気にはなれません。)。

ベテランの弁護士から,「本当に『強い』弁護士は,ネットでわざわざ『●●に強い』などと自称しないだろう」と指摘されたこともありますが,全面的にその通りでないにしても,そういう側面はあるかも知れません。

こういうことが続いたので,私は,極力「●●に強い弁護士」というような自称はしないように気をつけています。

もちろん,こういうケースは一部でしょうが,「●●に強い弁護士」という表現は,基本的に自称であることには,注意が必要でしょう。

本当に「強い」のか,それは,過去の著作や論文の有無,量,特に同じ専門家である弁護士向けの著作や講演等があるのかどうかを確認するなどの方法も考えられます
もっとも,それでも判断が難しい場面はあると思います。最終的には専門認定制度が整備されるべきでしょうし,それが難しければ,利用者の方で,複数の弁護士に相談してみるとか,そういう工夫が必要になってくるのではないかと思います。