弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

ネットトラブルについては電話相談もやっていますが,相談メモを見返すと(見返すまでもなく),頻出の相談,質問というものがありますので,ここらで少しまとめておこうと思います。

なお,答えについては,明確にできない,あるいはそうすることが適切ではない(閲覧者の誤解を招く可能性があるなど)ものについては,あえて抽象的にしてあります。

ご自分の事件について詳しい情報や判断が必要な場合は,弁護士に相談をするようにして下さい。

Q1.ネットは匿名なの?
A.完全な匿名ではありません。

Q2.ネットの投稿を削除したいのだけど
A.それがあなたの権利を違法に侵害するものであれば,そういう請求をすることは可能です。

Q3.Q2について,権利を侵害するとは?
A.ネット上でいえば,名誉権(社会的評価)や,プライバシー,著作権などが「権利」として問題になります。投稿によって,これらを侵害する行為が行われることがあります。

Q4.Q2について「違法に」って?
A.基本的に権利侵害は違法です。ですが,適法化される場合もあり,特に名誉権で問題になります。

Q5.名誉権の侵害が適法になる場合は?
A.大雑把にいうと,社会の正当な関心事であり,真実である事の証明か,すくなくとも相当根拠があれば適法になります。例えば政治家の汚職報道などが典型です。

Q6.Q5について,名誉権侵害以外は適法化されないの?
A.いいえ。プライバシーでも同様に理解されています。

Q7.賠償額は?ネットでは100万円200万円が当たり前とかきいたけれども?
A.そうではありません。ネットで吹聴されるケースは,不用意な投稿を戒める目的であったり,あるいは,「盛られて」いたり,欠席判決というケースが多いです。要するに武勇伝ということです。

Q8.欠席判決でも賠償額は法的評価だから関係ないって聞いてけど?
A.それは不正確です。確かに,欠席判決でも法的評価は裁判所の専権です。一方で,裁判全体のルールとして当事者主義という考えがあります。要するに,主張立証や争点の設定は当事者に任せるというものです。これは法的評価についても適用があります。法的評価であっても,当事者が争わないのであれば,裁判所は完全に拘束されないとはいえ,当事者の主張を重視します。

Q9.賠償金の相場はどの程度なの?
A.投稿の場所,内容,量,実損によります。日本の法制度は填補賠償といって,実損が賠償額になります。ですから,同じ投稿でも賠償金はいろいろとあり得ます。もっとも,実務上,やはり投稿内容が重視されています。このあたりは,投稿の言葉ごとにそれなりに相場らしきものがあります。

Q10.どうやって投稿者をみつけるの?
A.プロバイダに発信者情報開示請求をします。

Q11.Q10について,プロバイダって?
A.法律上,プロバイダとは通信の媒介者をいいます。掲示板やSNSなど投稿された場所の管理者をコンテンツプロバイダ,接続サービスを提供する通信会社を経由プロバイダといいます。プロバイダというと経由プロバイダだけが思い浮かびますが,コンテンツプロバイダも法律上はプロバイダです。

Q12.Q10についてもう少し詳しく
A.まずコンテンツプロバイダに投稿者のIPアドレスと投稿時間を請求し,次に経由プロバイダに,その時間にそのIPアドレスを利用していた者の住所氏名の開示を請求します。

Q13.Q10について裁判は必要なの?
A.基本的に必要です。コンテンツプロバイダの中には裁判のいらないケースもありますが,経由プロバイダは,基本的に必要です。その場合,被害者が原告,被告はプロバイダということになります。

Q14.Q13について例外は?
A.あります。最近は,裁判無しで開示できる方法等がありますし,そういうケースが急に増えています。事案によりますので,ご自身のケースが当てはまるかは弁護士に相談するといいでしょう。

Q15.通信記録の保存期間は3ヶ月ってきいたけれども。
A.法的に定めはありません。基本的に3ヶ月「以上」といえます。ですから,経由プロバイダの中には1年を超えるケースもあります。

Q16.賠償請求では,発信者情報開示請求に使った弁護士費用が請求できると聞いたけれども。
A.実際に60万円+消費税を認めた裁判例があります。しかし,最近は否定例も増えています。認められる場合も,裁判所は厳格に判断します。開示請求を依頼するときから準備が必要です。

Q17.賠償請求で弁護士費用倒れになることはあるの?
A.この手の事件に限りませんが,開示請求に費用がかかるので,そういう例は少なくありません。ただ,それを防ぐ方針の立て方というものもありますので,よく担当弁護士と打ち合わせましょう。

Q18.自分でやってみようと思うのだけれども
A.実際に本人訴訟で開示が認められたケースもあります。ですから無理ということはありません。もっとも,この手の事件に限りませんが,自分でやってみてダメだったので弁護士に,となると,最初から頼んだ場合より費用は嵩み,結果も悪くなります。ついては,自分でやるなら最後までやる覚悟が必要です。

Q19.刑事事件にしたいのだけれども
A.そう簡単にできません。法律上の名誉毀損となる場合と,捜査機関が動く場合とでは,差異があります。捜査機関は謙抑的に動きます。比較的動いて貰いやすい内容とタイミング,投稿先もありますので,よく弁護士に相談をするべきです。

Q20.発信者情報開示請求について,他に注意点はある?
A.発信者情報開示請求をすると,発信者情報開示請求に係る意見照会書というものが,発信者つまり投稿をした人に送られます。これで開示請求のあったことや,場合によってはその内容が明らかになります。気をつけないと,かえって炎上の原因になります。弁護士と依頼者が一緒に炎上する「共炎」ということもあります。

Q21.賠償請求について,他に注意点はある?
A.Q20と同じですが,共炎を演じることのないように注意をして下さい。賠償額の設定や,文面,期限設定を誤ると,被害者のつもりが問題のある者扱いをされてしまうリスクすらあります。

(;・∀・)実は今のところ,単著の企画が3つほどありまして・・・。
(^ω^)うち,決定は1,ほぼ決定は1,企画中が1って感じだお。
(;・∀・)非弁と広告の時は同時にほぼ同時に2冊という進行でしたが,さすがに3冊はむずいっすね。
(^ω^)ということで,一冊ずつ進めていっているお。出版社さんには迷惑かけられないお・・・。
(*・∀・)なお,うち1冊は,ちょっと変わったテーマの予定ですので,乞うご期待!

ネットトラブルの無料電話相談をやると,遠方の方からの相談もあり,そのなかでよく聞かれるトピックです。
また,つい先日も,弁護士同士ですこし話題になりましたので,一般向けに少しまとめてみることにします。

まとめ
  1. 裁判は原則として被告の最寄りで行う。
  2. ネットの表現トラブルでは,プロバイダ相手の裁判(開示訴訟)と投稿者相手の裁判(賠償訴訟)がある。
  3. プロバイダはほとんど東京なので,開示訴訟はほとんど東京で行われている。
  4. 賠償訴訟の原則は,投稿者の最寄りの筈だが,実際は東京地方裁判所で行われるケースも多い。
説明

まず,ネット上の表現トラブルの裁判は2種類あります。プロバイダ(サーバーレンタル会社も含む。)に,発信者情報開示請求をするための裁判,これで,投稿者を特定します。

もう1種類は,投稿者への賠償請求です。この2種類の裁判がネットの表現トラブルでは問題になります。
書き込まれた人間からすればこの2種類両方が,書き込んだ人間からすれば,後者1種類だけが問題になるということです。

まず,裁判の原則ですが,その原則は被告の最寄り(それ以外のケースもあります,念のため)の裁判所で行うというものです。
裁判というのは自由に起こせます。しかも,放置すると敗訴します。となると,被告の応訴(裁判に対応すること)のコストを下げるため,こういう原則が取られています。

したがって,開示訴訟の場合はプロバイダの最寄りになります。ほとんどのプロバイダは東京にありますので,東京地方裁判所が原則です。更に,海外のプロバイダの場合も東京となります
なお,著名なレンタルサーバー会社の中には,大阪の会社もあるので,その場合は大阪地方裁判所となります。

次に2種類目,つまり賠償請求ですが,原則は被告の最寄りということになります。
ですが,被告の最寄りというのは原則です。いろいろ例外があります。
たとえば,事件・事故の場合,その現場の最寄り,ということも可能です。
ネットの投稿は,日本中で被害が発生しますので,それを利用して東京ということも可能です
また,他にもいろいろと原告の最寄りに寄せる方法があります。

以上をまとめると,ネットの表現トラブルでは東京地方裁判所で裁判するというケースが多数であるということがいえます

そして,両当事者が東京でない場合に,東京地方裁判所というケースも珍しありません。私も,お互いが東京からはるかに離れた裁判を東京地方裁判所でやったことはなんどもあります(相手方代理人弁護士も東京に事務所がある。)。

どこの裁判所でやるか,それで争いになることも多いのですが,私の経験上,当事者双方がどこに居ても,基本的に東京地方裁判所ということで,場所が争いになることは稀であるという認識です

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