弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは, i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

司法取引に関する勉強会に参加してきました。
司法取引というと「罪を認めれば,刑罰を軽くする」ということをイメージしがちです。
ですが,日本に,今般導入された司法取引には,そういうシステムは導入されませんでした。

導入されたのは,一方的に黙秘権を剥奪して証言を強制する制度と,捜査に協力することを条件に,有利な取り扱いをする,というものです。

司法取引については,通常の刑事弁護だけではなく,企業法務の観点からも重要になりますので,今後も注目したいと思います。

ちょっと細かい、専門的な話です。

弁護士法72条は、法律事件に関する法律事務について、非弁護士による取り扱いと周旋を規制しています。

ですから、みずから弁護士業務をしなくても、そういう事件を周旋(概ね、紹介と考えてください。)をする行為は、弁護士法72条違反ということになります。

よく摘発される例としては、コンサルティングや広告、士業支援を標榜している会社が、広告や電話勧誘で事件をかき集め、それを弁護士に配点して中抜きをする、というものです。

なお、よくある勘違いですが、報酬目的性は必要ですが、いわゆる比例分配である必要はありません。また、定額でも成立し、実際に得る必要もありません

弁護士法72条違反の典型としては、債務整理の顧客を広告や、あるいは不正に取得した名簿をつかった勧誘でかき集める、それを弁護士に配点するというものです。
この例は、非常に多いです。

ところで、司法書士は、法律事件に関する法律事務の一部である登記関係業務等を行うことができます
また、更に司法書士の中でも一定の研修を経て試験に合格した者については、認定司法書士といって、簡易裁判所の管轄に属する民事事件の取り扱いができます

それでは、非弁護士が、司法書士に対して登記業務を、認定司法書士についてその業務に属する民事事件を周旋した場合、弁護士法72条に違反するのでしょうか
ようするに、周旋先が弁護士ではなくても弁護士法72条に違反するのか、という問題です。

これについては、違反になると考えます。理由は次の通りです。
まず、弁護士法72条は、主体は非弁護士であると定めていますが、周旋先については、一切の限定がありません。文言上、周旋先は司法書士も排除されていません

また、司法書士の業務つまり登記業務や、認定司法書士の簡裁民事事件も、弁護士法72条本文にいう法律事件に関する法律事務に該当します。それにも関わらず司法書士が取り扱えるのは、司法書士法はこの点に関する弁護士法の特別法(こういう弁護士業務を非弁護士に開放する法律は結構あります。税理士法もそうですし、サービサー法もです。)だからです。したがって、司法書士法が優先されて、同法に定める法律事件に関する法律事務の一部が、取り扱えるという仕組みになっています

あくまでも、司法書士法の定めは、(認定)司法書士に法律事件に関する法律事務の一部が取り扱えるようにしただけであり、司法書士でも弁護士でもない者が、法律事件に関する法律事務を周旋することを許したものではありません。

ですから、周旋先が弁護士でなくても、理論的には(適法に取り扱えるということは周旋先に要件ではないので)、無資格者に周旋をして、弁護士法72条に違反しうるということになります。

以下は,特定の事業者を個別に,その事業内容までレビューしたものではありません。あくまで,退職代行業を,「代わりに退職の意思表示を勤務先にしてもらうサービス」と把握して,一般論を検討したものです。特定の業者について法的にレビューしたものではありません。

まとめ
①  退職代行は,その全てが非弁行為になるわけではない。しかし,そうなる可能性・リスクは極めて高い
② 非弁行為にならない退職代行では,利用者のニーズに応えられるかは疑義がある。
③  退職代行を利用しても,結局自分自身で対応する必要が出てくる可能性も高い。
④  退職代行を利用すると,利用者が会社に賠償責任を負うリスクがある。
⑤  退職代行を利用すると,未払残業代などの権利を失う可能性がある。

1.退職代行とは?
最近,退職代行なるサービスが流行っているそうです。

これはどういうサービスかというと,退職をしたい場合に,退職の申入れを文字通り「代行」してもらえるというものです。

退職妨害があるとか,退職を言い出しにくいとか,あとで退職を言った言わないで揉めたくないとか,そういうことで,相当な需要があるようです。

2.退職代行の非弁行為のリスク
もっとも,退職代行については,非弁行為に該当するのではないか,という指摘があります。これに対して,退職代行業者は非弁行為に該当しないと主張しているようです。

非弁行為とは,以前解説した通り,弁護士でない者が弁護士業務を行うことをいいます(ただし,他士業やサービサー等,法律の定める範囲で弁護士業務の一部が取り扱える資格は沢山あります。)。
さて,退職代行は非弁行為に該当するのでしょうか

これについて,一般論としては,(依頼者期待するような全部お任せのサービスをする)退職代行は非弁行為に該当する可能性が極めて高いと思います。債権回収代行などと同様の理屈がいえるのではないかと思います。

退職という行為は,法律関係,権利義務を発生変更する案件であり,それを実行し,あるいは,その効果を保全明確化する行為だからです。これは,近時の裁判例上,概ね一致して弁護士法72条にいう法律事件に関する法律事務に該当します。

もうすこし,理論的に詳しい話をしてもいいのですが,今後,セミナーや法律雑誌の解説に掲載予定ですので,今のところ,ここでは深く踏み込まないことにします。

3.非弁にならない退職代行業とは
一方,非弁行為に該当しない退職代行という行為も想定できないわけではありません
それは法律事務に該当しないような退職代行ということになります。
そのためには,業者自身が法律関係の変動に関与していると実質的には判断できない,ということが必要でしょう。

具体的には,退職代行をするにあたり,いかなるメッセージを勤務先に伝えるか,それを決めるにあたって退職代行業者が定型的なセリフを教示するが,選択には関与しないという工夫は必要でしょう。有給の問題などもありますが,それについて,計算をしたり,法的リスクを教示することにも問題はあるでしょう。
まとめると(詳細な検討をすれば,さらに正確には異なるかもしれませんが),退職代行業が適法であるのは,次の要件は必須だと思います。
まず,依頼者から指示を受けた言葉だけを話し,かつ,その内容について相談や提案をしないことが必要です。そして,情報提供するにしても,予め定まった候補退職文言を示す程度に限られることも必要です
その上で,会社からの応答については,それに臨機応変に応じることは許されず,一方で,依頼者に伝言として伝えるだけに留めるべきでしょう。

4.退職代行と非弁に関する誤解
この点,交渉をしていないから大丈夫,という意見があります。しかし,法的な根拠はありません。弁護士法72条本文を読めば分かることですが,交渉は非弁行為に該当しますが,交渉に限られるものではありません

紛争性がないから大丈夫,という意見もありますが,近時の裁判例の大勢は,それを要求していません。また,退職代行を利用したいような案件で潜在的にも紛争の可能性がない,というケースは珍しいでしょう。

仲介をしているだけだから問題はない,という意見もあるようです。ですが,仲介であれば法律事務に該当しない,などという見解は見当たりません。そもそも,弁護士法72条本文は,「仲裁」を例示しています。

5.弁護士を紹介すればいいのか
更に,必要な場合は弁護士を紹介するということが免罪符になるかのような誤解があります。
ですが,無免許医が難しい患者が来たら医師に紹介する,無免許運転者が,難しい道にきたら免許のある者に代わるような話で,適法になるわけがないという他ありません。

加えて,弁護士法72条本文はそういう紹介行為(等)も禁じています。弁護士向けの規制は更に厳しく,このようなケースでは,無料で紹介を受けることもできません。

6.本当に退職になるのかどうか
更に,退職代行業者は,その代理権(あるいは代行する権限)があるかどうか,明らかではありません。それを証する書面もありません。代理人にしろ代行する使者にしろ,それが本人の意思に基づくか,代理なら委任状が,使者でもそれを証する書面が必要なのが原則です。

それを用意して郵送するなどすれば,即日で退社の意思を示すということは難しいでしょう
また,そもそも法律上,即日の退社ができるケースは限られています

会社としても,真意を確認しないといけません。間違えると違法解雇になりかねないからです。逆に,退職妨害になるかも知れません

7.従業員が加害者になる可能性も
別の側面の問題としては,退職代行業が非弁行為であった場合,利用者つまり従業員の責任が問われる可能性があります。非弁行為は犯罪です。犯罪を依頼して元勤務先に対して行うのですから,それについて責任を問われて賠償請求される可能性もあります(なお,教唆犯は成立しないという見解が有力です。)。

また,非弁行為は無効と扱われる,つまり,代行してもらった退職の申入れが無効と扱われるリスクもあります
そうなった場合,無断欠勤として,懲戒解雇される,損害賠償も請求される可能性があります。

特に,いわゆるブラック企業といわれるところは,元従業員に対して損害賠償請求を好んで行うところがあります。退職代行をしてもらいたい様な会社は,それに該当する可能性も高いでしょう。わざわざ弱みを握られてしまう可能性も大きいです。

8.権利を失ってしまう可能性も
加えて,未払残業代などの問題があった場合,それを看過することになります。本来であれば,場合によっては,100万200万円といった残業代が手にはいったのに,それを看過して時効で失ってしまうリスクもあります。

ついては,退職代行であれば,全て非弁行為になると断言するものではありませんが(そもそもやっている行為を全て把握しているわけではないので,その判断は不可能です。),法的にも事実上も,リスクがあると考えます

退職トラブルは退職トラブルに限られないことが多いです。未払残業代や賠償請求の問題も含まれている可能性があります。その場合は,これらを一挙に解決しないと解決になりません。

多くの著名な労働弁護士が,「退職代行」を標榜しない理由はここにあるのではないかと思います。
「風邪です」といって来た患者を診察せずに風邪薬だけ出す医師はいません。それは,本人が風邪だと思っていても,他の重大な病気である可能性もあるからです。
法律問題も同じ事がいえます。退職代行イコール非弁行為と,断言をできるものではありませんが,退職代行を利用するなら,以上の一切のリスクを踏まえるべきだと思います。

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