弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは,氏名住所を明記の上 i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします(恐縮ですが返事はお約束できません。)。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

専門家向けとしては,こういう書籍を出していますので,よろしければ,参考にして下さい。

これって非弁提携?弁護士のための非弁対策Q&A
http://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/103074.html

法律事務の範囲,いわゆる事件性(?)の要件の問題,他士業との業際問題,弁護士会の負担金問題などなど,実務上,よく問題になる,あるいは疑問を抱く論点は,概ね網羅しているかと思います。

運転免許がないと自動車を運転できないように,医師免許がないと医業ができないように,弁護士資格がないと弁護士業務をすることはできません。
 
ところが,無免許運転が今でもなくならないように,弁護士資格がないにもかかわらず,弁護士業務を行う例が後を絶ちません。弁護士業務を違法に無資格で行うことを「非弁行為」あるいは単に「非弁」といいます。
 
ここでは,非弁について,簡単な説明をします。
 
まとめ
 
①弁護士資格がないと弁護士業務が出来ない。
②「非弁」「非弁行為」とは,弁護士資格がないのに弁護士業務を行うこと
③非弁行為は犯罪であるし,頼んだ行為が「無効」にされたり,疑義を差し挟まれるなどトラブルの原因になる。
④弁護士業務(法律事務)のうち,一部の業務は,司法書士や税理士等の有資格者でも行える。
⑤書面作成だから,代行だから非弁ではない,というのは間違い。
 
1.非弁とは
 
非弁とは,弁護士資格がないにもかかわらず,弁護士業務を行うことをいいます。非弁行為ともいいます。
また,弁護士が,こういう無資格者に協力をすることもあります。弁護士が非弁行為のために名義を貸す等することを「非弁提携」といいます
 
2.弁護士業務とは
 
弁護士でないと行えない弁護士業務の内容は,弁護士法72条本文に定められています。
それによると「法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務」と定められています。
大雑把にいうと,他人の具体的な事件,案件に関する「法律事務」であり,この中には,代理して交渉をするとか,法律相談に乗るとか,法的な文書を作成するとか,そういった行為等が含まれます(自分の法律事務を自分で取り扱うことは,もちろん問題はありません。保険会社が示談代行できるのは,あくまで保険会社は自分自身の保険金支払いに関する法律事件を扱っているからです。)。

なお,他に報酬目的,業務性などの要件もあり,また,いわゆる「事件性(?)」の議論もありますが,かなり細かい・専門的な話になりますので,今回は省きます。
また,司法書士・税理士等の資格があれば,弁護士法の例外として,その資格の範囲内で法律事務が取り扱えます
 
3.なぜ非弁行為が流行るのか
 
運転免許における運転や医師免許における医業等ほどには,他人の事件について行う法律事務には資格が必要である,という意識がさほど浸透していない,ということが主な理由だと思います。
 
また,イメージの問題ですが,弁護士は敷居が高い,料金が高い,というような理由から敬遠され,あるいはそうであると宣伝する業者が,「うちは安いですよ」というように勧誘する例が多いようです。実際には,むしろ,弁護士より高額であるケースがほとんどです
 
4.非弁行為を依頼するとどうなるか
 
非弁行為そのものは犯罪です。無免許運転が犯罪であることと同じことです。ただし,依頼者側では,非弁行為を依頼しただけでは,通常は直ちに犯罪が成立しないとされています。
 
もっとも,非弁業者に依頼して行った行為,契約は,事後的に無効と判断されるリスクがあります。また,仮に有効であるとしても,法的知識等について資格の裏付けがない者が関与している以上,解決に結びつかない,あるいは,内容において不利になるなどリスクもあります。
 
また,私の経験上,そもそも非弁業者の「料金」は,弁護士より高いか,少なくとも,広告内容と実際にやってくれることの一致がなく,「高くつく」ことがほとんどです。この点で,非弁行為の問題は,消費者被害の問題であるといえます。
 
5.「非弁ではない」という主張もあるが・・・
 
中には,これは書面作成である,代行に過ぎないから,非弁ではない,という主張がなされることもあります。
しかしながら,書面作成だから,代行だから,非弁行為になる/ならない,という解釈は,裁判例上も,実務上もとられていません。だから理由にならないのです。
法律上は,「法律事務」と定められており,これには代理が含まれますが,代理でなければ法律事務ではない,とももちろんいえません
 
もちろん,非弁行為にならないような書面作成や代行もあり得ます。
ですが,裁判例では,インターネット掲示板の管理者に投稿の削除を請求する行為や,債権の取立てや交渉のみならず,支払いを受け取ったり,登記の手続きといった,かなり形式的な行為も法律事務であるとしています
そうすると,法的な事項について,書面作成やなにかの通知の代行を行う場合,アドバイス等,依頼者に言われたことをそのまま伝える以上のことをすると,非弁行為に該当する可能性が高いのではないかと思います。

弁護士業務広告が解禁されてから大分時間が経ちました。
いまや弁護士広告は珍しいものではない,むしろ目にしない日はないかもしれません。

さて,広告の中には,「●●専門弁護士」とか「●●に強い弁護士」などの表現が散見されます。
ただ,●●に強いは多いけれども,●●専門弁護士という表現はあまり見ないかも知れません。

これは,どういう理由から何でしょうか。

まとめ
①「●●専門弁護士」と名乗ることは,差し控えるべきであるというのが,日本弁護士連合会の指針である。
②「●●に強い弁護士」と名乗ることについては,①のような規制はない。
③「●●に強い弁護士」は,基本的に自称なので,利用者が自分で判断する必要がある。
④③にあたっては,過去の実績,著作や講演(特に専門家向け)の有無や量が参考になるが,絶対ではない。

1.弁護士の広告と規制
弁護士の広告においては,日本弁護士連合会(日弁連)がルールを定めています。日本には弁護士自治という制度があり,弁護士の監督や指導については,国家の関与が原則として排除され,弁護士会が行うことになっています(なお,勘違いされやすいのですが,弁護士会が決めるといっても,弁護士だけで決めるのではなく,多くの場面で,弁護士以外の法曹つまり裁判官や検察官が,あるいは学識経験者も関与する場面があります。さらに,あえて非法曹だけで判断される場面も設定されています。)。
そこで,弁護士としては,弁護士会のルールを守らないといけません。

2.●●専門弁護士という表現は,原則として控えるべきとされている
「●●専門弁護士」という表現については,日弁連「業務広告に関する指針」が,次のように定めています。

客観性が担保されないまま専門家、専門分野等の 表示を許すことは、誤導のおそれがあり、国民の利益を害し、ひいては弁護士等に対する国民の信頼を損なうおそれがあるものであり、表示を控えるのが望ましい。

これは,どういうことかというと,弁護士には専門医認定制度のような専門認定制度がないので,自称●●専門を許すと,誤解をさせるおそれがある,だから,「表示を控えるのが望ましい」とされているのです。

3.「●●に強い弁護士」という表現は,特に禁止されていない
専門表示は「控えるのが望ましい」とされている一方で,「●●に強い弁護士」,もっといえば,何かに優れているという表現は,一律に禁止されている,というわけではありません
もちろん,虚偽の広告や,あるいは,裏付け・証明の出来ない広告は禁止されています。ですから,一定の根拠は必要になる,と考えられています。

4.専門表示が駄目だから「●●に強い表示」が流行した(?)
以上,要するに,優秀性を示すためには,●●専門弁護士と名乗るが一番なのでしょうが,それについては控えるべきであるとの「指針」があるため,代替手段として「●●に強い」という表現が流行したのではないかと思います。あるいは,専門というと限定されているように読めてしまうので,その点にも配慮したのかも知れません

5.「●●に強い」には要注意
「●●に強い」というのは,基本的に自称です。根拠があやふやなケースもあります。
また,実際に,私が見聞きする範囲でも強い強いとウェブサイトで連呼して自称しているにもかかわらず,基本的な手続き等について知らない(!)とか,「(自称)●●に強い弁護士に依頼したのだけれども,全然動いてくれなくて困っている」という趣旨の相談を弁護士として受けるということもありました(もっと酷いのもありますが,さすがにここでは,そこまで書く気にはなれません。)。

ベテランの弁護士から,「本当に『強い』弁護士は,ネットでわざわざ『●●に強い』などと自称しないだろう」と指摘されたこともありますが,全面的にその通りでないにしても,そういう側面はあるかも知れません。

こういうことが続いたので,私は,極力「●●に強い弁護士」というような自称はしないように気をつけています。

もちろん,こういうケースは一部でしょうが,「●●に強い弁護士」という表現は,基本的に自称であることには,注意が必要でしょう。

本当に「強い」のか,それは,過去の著作や論文の有無,量,特に同じ専門家である弁護士向けの著作や講演等があるのかどうかを確認するなどの方法も考えられます
もっとも,それでも判断が難しい場面はあると思います。最終的には専門認定制度が整備されるべきでしょうし,それが難しければ,利用者の方で,複数の弁護士に相談してみるとか,そういう工夫が必要になってくるのではないかと思います。

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