弁護士 深澤諭史のブログ

弁護士 深澤諭史(第二東京弁護士会 所属)のブログです。 相談等の問い合わせは, i@atlaw.jp もしくは 03-6435-9560 までお願いします。 Twitterのまとめや,友人知人の寄稿なども掲載する予定です。

弁護士をやっていると,「あいつは,こんなに悪い奴だ。だから,悪い事情を主張して欲しい。」というような希望をよくうけます。

この根底には,悪い奴だと裁判所に理解して欲しい,だから,こんな悪い奴を勝たせて欲しくない,あるいは,その人への憎悪などの感情が背後にあるのではないかと思います。

ですが,このような主張は,よく考える必要があります。

裁判では,基本的に,請求を基礎付ける事実の有無が争われます

たとえば,100万円を貸したから返せ,というような裁判で,借主の相手方がいくら悪人であると主張しても,基本はかわりがないからです。

どんな善人でも借りた100万円は返さないといけません。逆にどんな悪人でも,借りてもいない100万円を返さないといけない,ということはありません。

もちろん,悪性を主張することが必要なケースもあります。

ただ,相手の悪性の主張ばかりをしていると,法律上の正当な理由はないが,怨恨で裁判をしているだけではないか,肝心の争点について証拠がないので,悪性の主張でお茶を濁しているのではないか,ということで,逆に不利になるケースの方が多いでしょう。

気持ちとしては理解できますが,このあたりは注意が必要です。
気をつけないと,弁護士の労力を意味のないどころかマイナスの行為に使わせて,肝心の部分が不十分ということになりかねません

過払い金返還請求が隆盛を極めた時代がありました。
莫大な売上を弁護士業界(認定司法書士や広告業界も含む。)にもたらしたといわれています。

ところで,最近,何か新しい法律問題や分野が出てくると「過払い金に続く弁護士の新しいビジネスだ」と,時には皮肉を込めて言われることがあります

こういう言葉は,簡単に当てはまる,つまりは真実なのでしょうか?

結論から言うと,ほとんど全て間違っています過払い金返還請求には特別な事情があり,だからこそ,あれだけ隆盛を極めたのです。ですが,他の事件には,同じような事情がありません。

「過払い金返還請求に続く」というためには,そうだといえるためには,過払い金返還請求がなんであれだけ流行したのか,その特殊事情を知らないといけません

そして,そのような特殊事情が,その「過払い金に続く弁護士の新しいビジネス」とやらにも当てはまらないといけません
あらゆる問題にいえることですが,分析するには,段階を踏んで分析的,論理的に検討する必要があります。

(事業者ではなく)一般市民,個人から弁護士が(金銭を請求する立場で)事件を受けるには,次のような大きな「壁」があります(念のため,これらに限られませんが,大きなものは以下のとおりです。)。
  1. 弁護士費用が支払えること
  2. 弁護士費用を支払う動機があること
  3. 事件について勝訴の見込みがあること
  4. 事件について,勝つだけではなくて金銭的評価につながる充分な証拠があること
  5. 相手方に支払いをする能力があること
  6. 相手方に強制執行をすることが容易であること
  7. 以上について見通しを立てられること
すくなくとも,金銭の支払いを請求する側に限ってみても,このような壁があります。かような事情がないと,一般市民は弁護士に依頼をすることを決断することは困難です。

まず,1についてみると,そもそも弁護士費用が用意出来ないと,法テラス等の例外がないと,依頼することは困難です。

次に,2ですが,支払いが可能であっても,その支払いが合理的であること,つまり,依頼者に支払いをする動機が必要です。お金があっても,費用対効果の問題などで,支払って依頼を決断するところまでいかないことは珍しくありません。

3はイメージしやすいと思うのですが,裁判で勝つ見込み,つまり,法的,事実上,証拠上,こちらに勝訴の見込みがないといけません。

4ですが,勝訴しても,充分な金銭的評価につながらないといけません。ネットの投稿事件などではよくあるのですが,(とある「工夫」をしないと)100万円近い弁護士費用を費やして賠償金が10万20万円というケースも珍しくありません

5については,ない人からはとれない,ということで,相手にお金がある必要があります。

6については,お金があっても,強制執行つまり差押えができるかは別の問題です。強制執行しやすい事情も必要です。

7について,以上,これだけの条件があっても,実際にそれがわからないと意味がありません。これもハードルです。

以上,これらを全て満たすというケースはそう簡単にありません。

ですが,過払い金返還請求は,以上の条件を全て満たしていることが多い,希有なケースなのです(なお念のため,必ずしも全て当てはまるわけではなく,しかも過払い金返還請求が必ずしも簡単な事件というわけではありません。しっかりとやろうとするほど,かなり難しい論点もあります。過払い金返還請求は簡単すぎるというような指摘もありますが,そんなことはありません。)。

まず,1についてですが,過払い金返還請求においては,過払い金で弁護士費用を支払えますので,これを満たします。

次に2についてですが,回収後,過払い金から報酬を控除して支払う,という形式つまり完全成功報酬制ですので,依頼者に負担感が少なく,支払う動機があるといえます。

3について,充分な判例の蓄積がありますし,4の事情も相まって勝訴の見込みがあるといえます。

4についてですが,過払い金返還請求においては,証拠となるのは取引履歴です。そして,これは,請求をすれば,金融業者は開示しないといけません
さらに,そこに記載されているのは,まさに具体的な金額ですから,証拠,勝訴がそのまま金銭的評価につながります

5について,これは業者次第ですが,現在も経営しているのであれば,支払い能力はあることが通常でしょう。

6についても,法人については差押えの制限がほとんどありません。また,取引口座もわかることが通常です。更に,テクニックとして,「その業者からお金を借りている人に,過払い金債権を売却する」ことでも回収が可能です。どういうことかというと,100万円借りている人に,70万円で100万円の過払い金債権を売却する,とか,そういうものです。
借りている人は,自分の借金と過払い金債権の相殺を主張すれば,100万円の借金を70万円で返済出来る,ということになります。

そして,7について,これは関連する書籍もメーリングリストも多数あり,情報を手に入れる機会は十分にあります。


過払い金返還請求事件というのは,これらの特殊事情が大量に重なっているものであり,これは希有なケースです。

特に,取引履歴が開示されるというのは,決定的証拠がちゃんと保存されている,しかも相手から出てくるというものであり,これは中々ありません(残業代請求はそれに近いところがありますが,取引履歴ほど証拠としての価値は高くありませんし,ないこともあります。)。

「●●は弁護士の新しいビジネスだ」みたいなことをいわれるとき,なぜか●●には経済的にペイしない事件ばかり入るのが不思議ですが,とにかく,そういう言説については,以上のような実務上の事情を考慮しないと評価が出来ない,ということになります。

法律相談をやっていると,「こんな書類が来ました!」ということで,請求を受けた人の相談を,届いた書面を見ながら相談をすることがよくあります。

ところで,その中には,期限の設定があり,それが一週間以下とか,数時間(!)とか,そういったこともあります。特に短い期限設定は,弁護士がついていない案件や,OJTの機会が乏しかった可能性のある若い弁護士の案件で多いように感じます。

法律上,守らないと大きな不利益のある期限もあります。たとえば,控訴期限とかが典型です。

しかし,事実に争いがある事件で,相手方から相手の見解に基づき請求され,そのときに一方的に指定された期限については,守らないことで大きな不利益が生じることは稀です(ないわけではないです。)。

交渉段階で相手方が設定した期限を守ることが大事なのは,相手方の提案が相場より有利か,すくなくとも相場通りである場合,です。

なお,以上はあくまで原則です。交渉というのは,いろいろ事情がありますので,下手に慌てるのはもちろん,逆に高をくくって無視することなくて,すぐに相談に行くことが絶対に大事です。

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